第20話 魔法の使い方
:は? なに言っているのこの人
:ダンジョン配信者同士で戦うって正気か?
:やめろー! 人間同士で争うんじゃな―い!
「どうなんすか? 斯波さん。ビビってんすか? あぁ?」
牧田さんがわかりやすい挑発をしている。斯波さん乗るんじゃない。ここで乗ったら色々と大変なことになる。
「わかった。乗ってもいいけど、条件がある」
斯波さん……? 斯波さん!?!?
え、ちょっとなに血の気が多い人に釣られているのこの人。斯波さんって結構、冷静なイメージだったからまさか乗るとは思わなかった。
「お、いいねえ。そうこなくっちゃ」
「まず、条件1つ目。そちらが勝負を提案してきた。僕がそれに乗った。だから、僕が勝負のルールを決めたい」
「あ? ストリートファイトにルールは無用だろ」
:ストリートなのか?
:ストリート(ダンジョン)
「それが飲めないなら僕は戦わない。別に僕に戦いから逃げた臆病者のレッテルを貼りたいのならそうすればいい」
「けっ……わかったよ。乗ってやろうじゃねえか。別にアンタが有利なルールでもオレは全然かまわないぜ」
斯波さんはなにを考えているんだろう。ルールを決めたところでなんになるって言うんだ?
「条件2つ目。もし、僕が勝ったら今後ダンジョンにいる間だけでも良いから僕の言うことはしっかりと聞くこと」
「なんだそんなことか。別に構わないぜ。敗者が勝者に従うのは当然のことだし、オレは負ける気がねえ」
ルールの決定権は斯波さんにあるのに、なんで牧田さんはこんなに強気なんだ。何も考えていないのか。
「よし、その条件が飲めるなら勝負のルールを発表しよう。次に僕たちの目の間に現れたモンスター。それを先に倒した方が勝ちだ」
「は? はあ!? アンタと直接殴り合うんじゃないのかよ!」
牧田さんは怒りに震えている。当然のことだ。牧田さんとしては斯波さんと直接戦いたかったのだから。
「ああ、もちろん。相手はするつもりでいるよ。ただし、この勝負に僕が負けたらだ。僕が負けたら、そちらの望みはもちろん聞くつもりでいる。そちらのルールで勝負し直しても良い」
「なーんだ。そういうことか。なら、オレが勝ったらルール無用のストリートファイト。それでいいな?」
「もちろん」
斯波さんは余裕の表情を見せている。なにか確実に勝てるという算段があるのだろうか。
斯波さんは確かに強い。でも、牧田さんだって強いんだ。ブラックゴーレムとの戦いでも、動きが素早く前に出てからパンチでブラックゴーレムの腕を吹き飛ばした。
その反応に斯波さんが対応できていないように感じた。つまり、素早く敵を倒すという勝負に置いては牧田さんの方に分があるように見える。
斯波さんはどうやって、牧田さんを攻略するつもりなんだろう。
:斯波さん。がんばれー
:口が悪いジンとかいうやつをわからせてやれー
:斯波さんでしょ? 余裕で勝てるっしょ
そんな話をしているとモンスターが現れた。またしてもスライムのモンスターである。まずい。これは牧田さんが既に倒しているモンスター。牧田さんの方に分がある。
「よっしゃ! こいつの倒し方なら知っている。行くぞ!」
牧田さんが物凄いスピードで走り出した。この人はかなり素早い。脚力が物凄くてあっという間にスライムと距離を詰める。
「終わりだ!」
牧田さんが手刀を放とうとした瞬間だった。
「ガードバリア!」
スライムの前にバリアが出現した。そのバリアによって牧田さんの攻撃が阻まれた。
「なに!」
魔法を唱えたのは斯波さんだった。その斯波さんは槍を使ってジャンプをして一気にスライムとの距離を詰めた。
「でいや!」
斯波さんはスライムを槍でぶっ刺した。その刺した箇所から炎上してスライムを焼いていく。
スライムは消滅して斯波さんによって倒された。斯波さんは牧田さんの方を見てぐっとガッツポーズをした。
「き、きたねえぞ! 斯波さん!」
「妨害はなしというルールはなかった。モンスターを守ってはいけないなんて誰が言った?」
:これは斯波さんの勝利
:知恵が勝ったな
なるほど。斯波さんも考えたな。牧田さんは魔法が使えるようなタイプじゃない。だから、斯波さんみたいにバリアでモンスターを守るなんてことはできないんだ。
この勝負。最初からバリアでモンスターを守れる斯波さんの方が有利な戦いだったんだ。
「くっ……そうだな。オレが負けたのは事実だ。そこを曲げるつもりはねえ。そんなの漢のすることじゃねえからな」
ずいぶんとあっさりと牧田さんは負けを認めた。
:おおおおお!
:ようやく、わからせの時が来たか!
:斯波さんさすが!
斯波さんが牧田さんの挑発に乗った時はどうしようかと思ったけれど、ちゃんと考えていたな。やはり斯波さんは冷静な人だった。
その後もダンジョン探索は続いた。
「ジンさん! 1人で無茶しすぎ! 一旦下がって」
「おうよ!」
牧田さんは約束通りに斯波さんの言うことをきちんと聞くようになった。なんだかんだ言いつつ、自分を負かした人間の言うことは聞くんだな。
そういうところもなんというか……ボスの言うことは聞く野生動物じみている。
:斯波さんすごい。ジンさんを使いこなしている
:人の使い方うまいよね
:ジンさんも勝手に動かなかったら、かなり優秀な人なのかも……?
:コラボとか言わずにいっそのことシャドウスターズに入った方がいいかも
コメント欄の空気もジンさんを迎え入れる空気ができている。いいぞ。この調子だ。この空気が続けば、牧田さんを正式に加入させることができる。
そうなれば、ウチの事務所の戦力もアップするというものだ。
そんなこんなでみんながダンジョンから帰還してから配信が終了した。コラボ配信はちょっと危うい場面もあったけれど、特に大きな炎上はなく無事に終えることができた。
配信終了後、解散して牧田さんは帰っていった。一方で、ウチのメンバーである斯波さん、幸弥、大悟さんは、俺の家に来ることになった。
「みんな、お疲れ様でした」
俺はまずはみんなをねぎらった。それぞれがテーブル席に座っている。
「ああ、しんどかった。あのジンさんって人、結構ヤンチャでさ。斯波さんの言うことは聞くけど俺の言うことは聞かないんだよな」
幸弥はテーブルに伏せながら愚痴っている。まあ、幸弥は別に牧田さんに勝ったわけでもないしな。
「しかし、斯波君も考えたよね。バリアでモンスターを守ってから、止めを刺すって」
「まあ、一見相手の有利な条件に見せかけることが重要だからな。あのスピードなら先にモンスターを倒せるだろうと思ってくれたから勝負を引き受けてくれたんだろう」
「確かに牧田さんはかなりスピードが速かったですからね。本人も自覚あるからこそ、斯波さんの勝負を受けたのでしょう」
でも、実際のところは魔法が使えない牧田さんが不利で、魔法が使える斯波さんの方が全然有利だったということか。
「でも、斯波さんそれいつ思い付いたんすか? モンスターを逆にガードするなんて発想なかなか思いつかないっすよ」
「いや、この発想は結構使えるぞ幸弥君。例えばモンスターが広範囲にわたる攻撃を持っていたとする。その時に1人しか守れないバリアだと仲間1人しか守れない。でも、そのモンスターの前にバリアを出したら、モンスターはそのバリアに範囲攻撃を阻まれてみんなを守れる」
「すげえ! たしかに!」
斯波さんの解説を聞くと魔法の使い方も工夫次第でいくらでも可能性があると感じる。こういうこともパっと思いつくのもやはり経験の賜物かもしれないな。
――
次回は掲示板回です
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます