第22話 初心者新人の初配信

 俺の自宅にてシャドウスターズのみんなが集まっている。幸弥、斯波さん、大悟さん。いつもの男所帯に加えて更に1人男性が増えていた。


「池澤 海翔です! よろしくお願いします!」


 今日から正式にシャドウスターズに採用となった池澤さんである。彼は幸弥と同じく完全に初心者からのスタートである。


「へへ、よろしく! なんか俺に後輩ができたみたいで嬉しいな」


 幸弥は池澤さんの加入にかなり喜んでいる。同じく初心者仲間がいて気持ちが楽になっているのかもしれない。


「俺は柳瀬 大悟。魔法が得意なタイプだね。海翔君は見たところ、俺と同じく魔法が得意なタイプだから主な教育係は俺になるかな。よろしくね」


 大悟さんは爽やかな笑みを池澤さんに向けている。面接の中で1人採用するんだったら彼と推していただけあって、かなり友好的である。


「僕は斯波 敦教。大悟君ほどじゃないけれど、多少は魔法は使える。ダンジョンに潜った経験は豊富だから教えられることも多いと思う。わからないことがあったら遠慮なく訊いて欲しい」


 斯波さんも初心者に優しいところがあるので、池澤さんと相性は悪くなさそうだ。


「はい! みなさん! よろしくお願いします!!」


 池澤さんは元気よく大きな声で挨拶をした。少しボリュームが大きめな気がするけれど、小さすぎるよりかは良いかな。元気があって好感は持てるタイプである。


 みんなとの相性は牧田さんに比べたら良さそうな感じがする。と言ってもあの狂犬の牧田さんと比較するのは違うような気もするけれど。


 こっちの方が普通だと思いたい。でも、ダンジョン配信者は色んな意味で癖が強い人が多いって言うし……


 少なくともまともに敬語が使えて挨拶ができる池澤さんはそれだけで貴重な人材なのかもしれないと思い始めた。


「さて、みなさんとの挨拶が済んだところで改めまして。私がシャドウスターズの代表を務める影野 瑛人です。よろしくお願いします」


「よろしくお願いします!!!!」


「さて、池澤さんのチャンネルのアカウントと撮影機材の追尾ドローンはこちらで用意させていただきました」


「ありがとうございます!!!!」


 相変わらず声量が大きい。本当にサッカー部で声だけは出していたというのは嘘ではないな。


「これも福利厚生の内ですので」


 ダンジョン配信者が最初につまずくところはやはり撮影機材の問題だろう。良い配信機材をそろえる金がないと配信画面がしょぼくなってしまう。


 配信画面に迫力がないとダンジョン配信を見てくれる人も少ないからな。配信で収益を得ようとするなら、やはりここは手を抜いてはいけないところである。


「ちなみに、自分はちゃんと斯波さんの初心者用のレクチャー配信を見ました! そこでしっかりと勉強してきたつもりです」


「そっか、それなら基礎的な説明はいらないな」


 斯波さんは手間が省けて心なしか嬉しそうにしている。



 そんなこんなで挨拶を済ませた後に早速4人でダンジョンに入ることになった。


 1配信に4人も映っているのはかなりの大所帯になってきた感じはする。と言っても所属している配信者が全員参加しての人数である。


 スケジュールによっては配信に全員出られないこともあるし、そうした場合は人数が削られるから大所帯を名乗るならもっと人数が欲しいな。


「シャドウスターズ所属の斯波です」


「幸弥です」


「大悟です」


「本日から新人がこの配信に来てくれることになりました」


 斯波さんの進行によってコメント欄がざわつく。


:ついに来たか!

:予告があったもんね

:どんな人が来るんだろう

:男性が多いし流石に女性かな?

:斯波さんや大悟さん並に強い人がくるかも?


 まあ、コメント欄の予想がことごとく外れているわけだけれども。


「それでは新人を呼んでみましょう。海翔君! お願いします」


「はい! 今日からシャドウスターズに入りました。新人のカイトです! よろしくお願いします!!!!」


:声でかすぎて草

:声はでかいけど背はそこまで高くないね

:斯波さんと並ぶと身長差が……


 あんまり身長のことは言ってやるなよ。池澤さんだって別に好きで小さいわけじゃないだろうし。


「そうなんすよねえ。自分は背は小さいけど、声と器のでかさは誰にも負けない自信があります!」


 身長を指摘されてもまるで怒っていない。すごい。本当に器がでかい。


 なんか池澤さんを見ていると凄い笑顔でいるんだけれども。そうか。彼は目立ちたがり屋だった。新人紹介。この瞬間、彼は最も目立っている。


 だから、こんなに楽しそうなんだ。


「ちなみに自分は中高とサッカーをしていました!! ポジションはフォワードです!!」


 目立っている今の内に池澤さんが色々と自己紹介をしている。だが、ここはダンジョン内である。モンスターがいつ来るかわからないのである。


「カイト君! モンスターが来たよ!」


 大悟さんがモンスターに気付いた。大きな虎のようなモンスターでぐるるると唸りながら、みんなを見つめている。


 そして、斯波さんに向かって飛び掛かった。


「ていや!」


 斯波さんは槍の払い、虎のモンスター爪による攻撃を防いだ。


「わわ……えっと。大悟さん! 魔法を教えてください」


 池澤さんがこの状況で慌てながら大悟さんの傍に近寄っている。


「そうだな。とりあえず、シュラリキの魔法を練習してみようか」


「シュラリキ? それって力を上昇させる魔法じゃないですか。自分、派手な攻撃魔法が良いです」


 池澤さんが幸弥と同じようなことを言い始めた。なんか幸弥と池澤さんって根本的な部分は同じなのかもしれない。


「いや、君の場合はちょっと性質が違うかもしれない。試しに斯波君のパワーを上げるイメージで魔法をかけてみて」


「うーん……シュラリキ!」


 池澤さんがキラキラとした光を放つ。そのキラキラとした光が斯波さんにかかる。


「とりゃあ!」


 斯波さんが虎のモンスターを槍で突き刺した。


「がぁあああ……!」


 虎のモンスターは槍に貫かれてそのまま消滅してしまった。斯波さんのパワーが補助魔法で上乗せされて虎を一撃で倒せるレベルまで跳ね上がったのだ。


「ありがとう。カイト君。君のお陰で助かったよ」


「……うーん。あ、いえいえ。これしきのこと」


 池澤さんはなにやら難しい顔をしている。端末でコメント欄を確認しながらため息をついている。


:斯波さん相変わらず強い

:あの虎のモンスター結構強いよね。何人かダンジョン配信者がやられたのを見たことがある

:流石斯波。まるで苦戦してない


 コメント欄的に斯波さんが目立っていて、池澤さん的には面白くないのだろう。


 しかし、これこそが池澤さんの持つ才能なのである。補助魔法が得意な池澤さんはこうやって後方支援をするしかない。


「ナイスアシスト。カイト君」


 大悟さんは池澤さんのアシストを褒めている。しかし、池澤さんはアシストを褒められてもどこかぎこちない笑顔を貼り付けているだけだった。


「あ、そうですね。ははは」


 彼がサッカー部のポジションはフォワードだと言っていた。いわゆる点を取るのが仕事。仲間のアシストよりも自分がアシストを受けて点を決めたいような性分なのだろう。


「大悟さん。次は攻撃魔法を教えてください!」


 池澤さんは大悟さんと距離を詰めだした。前のめりになってやる気は十分である。


「攻撃魔法を覚えるのは難しいんだ。初心者の君にはまだ早いよ」


「う、そ、そんな……」


 攻撃魔法が難しいというよりかは、池澤さんが支援タイプだから攻撃魔法の習得が難しいと言ったところか。


 池澤さんの表情にどこか焦りが見える。これはちょっと危ない気がするな。


 俺はインカムで大悟さんに指示を出す。


「大悟さん。次は池澤さんに攻撃をさせてみてください。できそうなら左手を一瞬あげてください」


 大悟さんが一瞬だけ左手をあげた。あんまり池澤さんに不満を抱かせてもしょうがない。少しガス抜きをさせて本人が望むことをさせてあげないと。

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