第23話 素質と性格の不一致
4人はダンジョンを進んでいく。そうするとまたモンスターが現れた。
比較的弱い角が生えたウサギのモンスターだ。このメンバーならば余裕で勝てる相手だ。
「幸弥君。斯波君。下がって」
大悟さんが後方で指示を出している。前衛タイプの2人は怪訝な顔をしている。
「ここは、カイト君にやらせてみよう。補助だけじゃなくて実戦経験も必要だからね」
「え! 自分が倒しちゃっていいんですか!?」
池澤さんは露骨に嬉しそうな顔をしている。そして、すぐにウサギのモンスターの前に出て持っているこん棒で殴りかかろうとする。
「行動が早い……!」
大悟さんの指示を待たずに勝手に動きだす池澤さん。そして、ボカっとウサギの角を殴りつける。
「きゅぅい!」
ウサギは角を殴られて痛そうに悶えている。一撃で倒すことはできなかったもののダメージは与えられているようである。
しかし、それだけで致命傷に至ってはいない。同じ初心者でもパワーは幸弥に劣っているようである。
:いきなり殴打した!
:効いてる?
:このザコモンスター相手に致命傷与えられないのはアタッカーとして厳しいかも
:おとなしく後方で支援していた方がいいんじゃ
コメント欄も好き放題言っている。同じ初心者枠の幸弥がウサギのモンシターに致命傷を与えられたので、パワーの差が視聴者にも浮彫になってしまっている。
「くっ……」
池澤さんは悔しそうにもう一発ウサギのモンスターに攻撃を入れる。しかしそれでも仕留めきれない。
「きゅぃい!」
ウサギのモンスターは怒って池澤さんに突進をしかけた。
「ぐっ……」
:うわ、ウサギから攻撃もらってる
:先制攻撃一発で倒せる相手だろ
池澤さんは突進をくらった腹部を抑えながら、ウサギに反撃をくらわせた。
それでウサギが吹っ飛び動きが鈍る。その後に更に2発、3発と殴り続けてようやくウサギの角を折り、致命傷を与えることができた。
:致命的にパワーが足りてないね
:やはり身長が小さいことが関係しているのか?
:いや、ダンジョン内のパワーはダンジョン内の魔力による補正が高いから体格は大きく影響しないはず
:カイトよりも小さいのにパワータイプの女の子とかいるもんね
池澤さんはなんとかウサギのモンスターに止めを刺して勝利をおさめたが、多くの配信者が苦戦をするような相手じゃないのに苦戦を強いられて、かなり落ち込んでしまっている。
「はぁはぁ……」
「お、おい。大丈夫かよ」
幸弥が池澤さんを心配している。斯波さんは池澤さんに近寄る。
「ちょっと怪我の具合を見せて欲しい」
「大丈夫です。これくらい平気です」
「いや、そういうわけにもいかない。ダンジョン内は未知の場所。どんな菌が潜んでいるかわからないんだ。傷ができていたら、そこから未知の感染症にかかって死ぬ可能性だってある」
斯波さんの言葉に池澤さんは青ざめた。まだダンジョン初心者の池澤さんにとってこの言葉はかなり効いている。
斯波さんが池澤さんの服をめくりダメージを受けた箇所を確認した。
「うん。傷にはなっていないね。ここから菌が入る心配はなさそうだ」
斯波さんは父さんと母さんに世話になったと言っていた。だから、そういう感染症の知識も2人からの受け売りなのだろうか。
「自分……ダンジョン配信者に向いてないんですかね」
池澤さんはうつむいてしまった。先ほどまで意気揚々と大声でしゃべっていた彼の元気な姿はもうなかった。
「いや、そんなことはないよ。カイト君の素質は僕が見出したものだ。素質があるからこの事務所に採用されたことは間違いないよ」
大悟さんが池澤さんを励ましている。大悟さんの言ったことは事実だ。
事実、採用に踏み切った理由は大悟さんの目による診断の結果である。それがなければ、俺の判断では採用したかどうかは怪しいところだ。
「ほら、配信中にそんな暗い顔をしない。みんな見ているんだ。もっと楽しい配信にしよう」
大悟さんが池澤さんの背中をポンと叩く。
「はい、そうですよね。ありがとうございます。大悟さん! 自分、期待に応えられるようにがんばります!」
:がんばれー
:前向きな初心者は応援したくなる
:後ろ向きよりかはいいもんね
:カイト君の成長楽しみにしています
大悟さんの励ましとコメント欄の温かさで池澤さんは調子を取り戻した。
斯波さんもそうだけど、大悟さんはやはり大人としても頼りになる。メンタルケアをしてくれるのは助かる。ただ単にダンジョン配信者として強いだけじゃない。そういうところでも人材として大当たりを引いたと思う。
その後も探索を続けた。
基本的な流れは変わらない。前衛は斯波さんを軸にして、幸弥とのコンビネーション攻撃。大悟さんが魔法でモンスターを処理しつつ、大悟さんの指示で池澤さんが補助魔法を使ってサポートをする流れ。
ちゃんと連携は取れていた。池澤さんも目立とうとして失敗したことを反省してからは、わがままを言うようなことはなかった。
これで池澤さんの目立ちたい問題は解決したかのように思えた。
そして、配信終了後、俺の自宅に戻って反省会を開くことになった。
「大悟さん! どうしたら自分はもっと強くなれるんですか!」
池澤さんが早速大悟さんにそんな質問をぶつけた。
「カイト君は十分強い。補助魔法を他人にかけられるのは実は高等テクニックなんだ。それを一発で成功させるのは目立たないけどすごいことで……」
「目立たないなら意味がないじゃないですか! 自分はもっとモンスターをド派手に倒したいんです」
池澤さんはあくまでもそこの一線を引くつもりはなかったようである。
意地でも縁の下の力持ちにはならない。エースストライカーとして活躍したいという意思を感じた。
「物理攻撃ではダメだった。なら、自分に必要なのは攻撃魔法じゃないですか?」
「うーん……まあ、もうちょっと実戦経験を積んだら簡単な攻撃魔法は教えても良いけど……」
「それっていつの話ですか? 自分としては今すぐ活躍したい気持ちはあります。だって、幸弥君だって斯波さんと一緒に並び立ってモンスターを倒しているじゃないですか」
突然話題にあげられる幸弥。幸弥に関しては純粋な物理アタッカータイプなので、モンスターを倒す役割を担うのは当然のことであった。
「まあまあ、カイト君。俺だってまだ攻撃魔法は教えてもらってないんだ。使える魔法もシュラリキだけ。でも、それは自分にしかかけられないし、魔法ではカイト君の方が上だ」
「う、うーん……でも、自分は……」
本人の性格と一致する才能が与えられるとは限らないものだ。体を動かすのが好きじゃない人の中にもスポーツの才能がある人間もいるかもしれない。そういうのを見ているようでなんだか歯がゆい気持ちになってくる。
「とにかく、攻撃魔法を覚えるにはもう少し魔法の練度を上げないといけない。必要になれば教えるからそれまで待っていて欲しい」
大悟さんはなんとか池澤さんをなだめようとしている。
やはり、最初に危惧していた通り、性格と素質の不一致がここにきて響いてしまっている。その不一致さえなければ、優秀な人材として成長してくれるんだろうけど、どうしたもんかねえ。
大悟さんがうまいことメンタルケアしてくれて、補助魔法を積極的に使ってくれるんならそれでいいんだろうけど。
他人の性格を変えることなんてできるのだろうか。いや、無理かなあ。自分の性格だって中々変えられないのに。他人の性格なんてもっと無理だろ。
となると……やっぱり、補助魔法の素質を蹴って攻撃魔法を教えて、それで活躍してもらうしかないのかなあ。でも、それは才能をドブに捨てることになるのではないか。攻撃魔法主体になると凡庸な人間になってしまうのでは? 悩ましいところだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます