第34話 宝箱開錠配信
今日もシャドウスターズの面々がダンジョン配信をする。
しかし、今日は幸弥はお休みである。ゴールドジェルとの戦いで幸弥は刀を壊してしまった。
そのせいで幸弥は今ダンジョンに潜っても仕方のない状況である。
「あー。どうして俺はあそこにいないんだ……!」
俺と一緒に配信画面を見ながら幸弥が悔しそうにしている。
「仕方ないだろ。幸弥の攻撃手段は武器しかないんだから」
今回のダンジョンはそれなりにモンスターが強いところで、生半可な武器ではかえって足手まといになってしまう。
幸弥の新しい武器が届くまではこうして俺と一緒に待機することになるだろう。
「やっぱり、俺も攻撃魔法を習得するべきだな。そうすれば斯波さんや大悟さんみたいに魔法で戦えるようになるし」
幸弥と同じく前衛タイプの斯波さんでも魔法は使えるので、幸弥も恐らく攻撃魔法の取得は不可能でないだろう。
しかし、斯波さんと大悟さんが言うには攻撃魔法を扱うのは難しくてまずは補助魔法から覚えないといけないとか。
いきなり攻撃魔法を習得できる素質を持つ人間もいるらしいけれど、幸弥はそのタイプではないのだ。
「それより、ちゃんと配信を見よう。こうして見るのも修行の内だ」
「うん。わかっているよ瑛人君」
俺と幸弥は画面に注目する。斯波さんたちがモンスターと戦闘している。
斯波さんが槍でモンスターを貫く。相変わらずの攻撃力だ。生半可なモンスターでは耐えることができない。
大悟さんも魔法で追撃する。鮮やかな攻撃魔法がモンスターに炸裂する。この2人は相変わらず強い。やっぱり安定感が違う。
2人のコンビネーションで次々とモンスターを倒してく。
「2人共! この調子で攻撃の手を緩めないで!」
池澤さんが2人に指示を送る。すると2人の攻撃速度が上昇する。池澤さんのバフがかかったことでモンスターたちの殲滅速度が上がった。
「ふう、こんなものか」
3人で協力してモンスターの大群を殲滅した。斯波さんは涼しい顔をして槍を納めた。
:斯波さんと大悟さんつええ
:やっぱりこの2人の2大エースだ!
:幸弥がいなくても十分強いな
「……」
コメントを見た幸弥がなんか不満そうにしている。自分がいない状態でもうまく立ち回れているこの状況に複雑な思いがあるのだろうか。
「まあ、みんなが無事ならそれでいいけど……こうも、俺なしでもうまくいっているのを見ると……なんか嫌だな」
「じゃあ苦戦して欲しいのか?」
「そういうわけじゃ……いや、実害ない程度に苦戦してくれた方が」
幸弥は少し言いにくそうにしている。
「まあ、幸弥の気持ちもわからないでもない。でも、正直あのモンスターたちもそこまで強くないだろ? ゴールドジェルと比較したら雑魚もいいところだろ」
もちろん、モンスターという時点で脅威ではある。恐らく俺が戦っても勝てないだろうけど、きちんと装備を整えた幸弥レベルのダンジョン配信者なら油断しなければ負ける要素はないだろう。
「あの程度なら刀なしの俺でもやれるし! こん棒でぶっ倒してやるぜ」
「いや、どうかな。お前、割と弱い方のダンジョンウサギに苦戦するレベルだろ」
刀を手にしてから幸弥は斯波さんのサポート役になれるくらいには強くなったけれど、こん棒のままだったら……それこそ未だにお荷物だろうな。
「あ、あの時の俺よりも成長しているんだ! 瑛人君も知っているだろ!」
「ああ。それは認める。でも、本当に刀なしであのモンスターたちに勝てる自信があるのか?」
その辺のことは幸弥が1番良く分かっていることだろう。幸弥は数秒黙ってから口を開く。
「まあ、現実的な話をすると無理かな」
幸弥もそういう判断を見誤るほどバカではない。きちんと自分の強さを理解しているんだ。
だから、数日前までは自分の強さにイマイチ自信を持ててなかった。
一方で配信画面の方も動きがあった。ダンジョンにて開けられていない状態の宝箱があった。
「大悟君。この宝箱罠仕掛けてあると思う?」
「まあ、ダンジョンの罠には大抵仕掛けられているかな」
ダンジョンにある宝箱には罠が仕掛けられていることが多い。その罠を解除せずに宝箱を開けると悲惨な目に遭う。
「どうする? どっちが罠を解除する? 僕がやろうか?」
「ああ。俺も魔法で解除できるけど、MPはできるだけ温存しておきたい」
「了解。それじゃあちょっと待ってくれ」
斯波さんはなにやら器具を取り出してそれで宝箱をカチャカチャといじくりまわしている。
宝箱を解除するには2通りの方法がある。1つは自力で解除をするか。もう1つは魔法で解除するか。
斯波さんがやっているのは自力でやるパターンである。これはMPを消費しないけれど、失敗したら罠が作動する可能性がある。
魔法の場合はMPを消費するけど確実に解除できて罠の暴発のリスクはない。
カチャリと音がした。そして、斯波さんが宝箱を開けた。
「よし、解除成功だ。中に入っていたのは……古びたコインだ。なんかくすんでいるな」
仰々しい宝箱の中に入っていたのはコイン1枚だけだった。これに価値があるのかどうかはわからない。
「大悟君。これに見覚えはあるか?」
「人間が作ったものじゃなさそう。過去の歴史でこのデザインが製造された記録は恐らくないだろうね」
「と言うことは、ダンジョンが作り出したものか」
斯波さんはコインを傷つけないようにそっとしまった。
「斯波さん。そのコインって高く売れるんですかね?」
「どうだろうね。これに価値を見出してくれる人がいれば高く売れるだろうね。一見役に立ちそうにないものでも、ダンジョンが作り出したものなら欲しがるコレクターはいるから」
こうした特になにか特別な効果がなさそうなコインでも、コレクション目的で集めるような人はいる。
その人のお眼鏡に叶えば高く売れるという話か。
:ダンジョンが勝手に作ったコインとか貴重そう
:同じ種類のコインが何十万枚とあるケースもあるから、きちんとコレクターに鑑定してもらわないと価値はわからないよ
:ダンジョンコインの転売してたけど、大損して今はやってないかな。貴重なコインだったのに、その後大量に同種のコインが見つかって価値が暴落するとか全然ありえる
:クズコインだったのに、貴重な武具や道具の素材になることが判明して値上がりする可能性があるからダンジョンコイン投資はやめられねえぜ
ダンジョンコイン……それにも相場というものがあって、なんだか仮想通貨みたいで人間の欲望というやつが反映されていてなんとも言えない。
斯波さんたちは更に先に進む。するともう1つ宝箱が見つかった。
「この宝箱は……うん。あまり危険な罠は仕掛けられてなさそうだ。この程度の罠なら暴発しても致命傷を負うこともないだろうし、カイト君。罠の解除に挑戦してみるか?」
「え? じ、自分がですか?」
斯波さんに振られて池澤さんはあたふたしている。
「大丈夫。僕の言う通りにしていれば解除できるはずだ。万一失敗してもこの罠じゃちょっとチクっとする程度だから」
「カイト君、。何事も経験だよ。弱めの罠の時に練習しておかないといざという時に困るから」
斯波さんと大悟さんに言われて池澤さんはしぶしぶと言った感じで宝箱の前に立つ。
「や、やってみます」
:カイト君がんばれー!
:骨は拾ってやる
:斯波が監督しているなら大丈夫でしょ
池澤さんは斯波さんから道具を借りて宝箱の罠の解除を試みる。
「ここは左に2回まわして。ここはちょっと上に移動させる。ここは揺らさないように引っ張って……」
斯波さんの指示の元池澤さんが罠の解除をしている。
「いいなー。俺も罠の解除やってみたかった」
幸弥は羨ましそうに池澤さんを見ている。まあ、池澤さんの方が後輩なのに自分がやってない体験をしているから羨む気持ちもわからないでもない。
カチャリと音がした。
「よし、解除できたっぽい。開けてみて」
「はい」
池澤さんが宝箱を開けた。するとなんか音楽が鳴りだした。
「これは……? 宝箱がオルゴールになっているのか? 特にお宝が入っている気配はないと」
斯波さんは宝箱の中身を確認している。しかし、音楽を鳴らす装置があるだけで他になにかあるわけでもない。
「宝箱型のオルゴールか。まあ、インテリアとして人気出そうだけど、この大きさの宝箱を持ち帰るほどの価値があるのかは知らないかな」
大悟さんは微妙な顔をしている。当たりの宝箱というわけではなさそうである。
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