第35話 懸賞金をかけられた宝箱
ダンジョンで見つけたオルゴールの宝箱。みんなで話あった結果、かさ張るという理由で放置して帰還した。
なんでもかんでもダンジョンのものを持ちかえれば良いというものではない。人間には持てるものの限界があるのだ。
その数日後、幸弥の新しい武器が完成して幸弥も配信に復帰できるようになった。
「よし、これで俺もまた配信に参加できる!」
また、俺の家でシャドウスターズの面々が集まっているところ、幸弥が新品の刀をみんなに見せびらかしていた。
そんな幸弥の行動を生暖かい目で見守っている斯波さんと大悟さん。俺は彼らが来る前に散々見せびらかされていたので、幸弥の刀を見ることなくノートパソコンで情報を集めていた。
情報収集もダンジョン配信者にとって必要な資質である。個人のダンジョン配信者なら全部自力でやらなくてはならない。やはり、事務所として情報収集のサポートはしたい。
「ん? これはなんだ……! 池澤さんこれちょっと見てください」
俺はたまたま近くにいた池澤さんにパソコンのページを見せた。そのページはダンジョン配信者向けの懸賞金サイトで、ダンジョンで手に入るアイテムに懸賞金が付けられている。
「えーと……これは、あ!」
池澤さんも驚いている。まさか、こんなことになるとは予想もしなかった。いや、予想していたらもっと違う行動を取っていたんだけれど。
「あの時、見つけたダンジョンのオルゴール! あれに400万円の懸賞金が付けられています!」
「なんだって!」
斯波さんと大悟さんも幸弥そっちのけでパソコンの画面を食い入るように見る。
池澤さんが開けた宝箱に偽造されたオルゴール。懸賞サイトのページにはシャドウスターズの配信のアーカイブが張られている。
一見、音が鳴るだけでなんの価値もなさそうだったのに、それにこんな高値がつくなんて思いもしなかった。
「くっ……持って帰れば良かったか。判断を誤った」
大悟さんが心底悔しそうにしている。だが、持って帰らないと判断したのはみんなで決めたことだ。大悟さんのせいではない。
「過去のことを悔やんでも仕方ない。今からでもあのオルゴールを回収できないか、もう1度ダンジョンに潜ってみよう」
斯波さんも400万円という大金に心が動いたのかすぐに行動しようとしている。幸弥が刀を鞘に納めてから会話に参加してくる。
「でも、懸賞金が付けられているってことは、もう既に回収されているかもしれませんね」
「ああ、でも今ならまだ間に合うかもしれない。こうしている間にも僕たちのライバルがあのダンジョンに潜っているかもしれない」
大金がかかっているだけあって、斯波さんも行動力の化身と化している。
「でも、あのダンジョンの位置はわかっているわけじゃないんでしょ? 配信時にはどのダンジョンに行ったかは非公開になっているし」
「幸弥。確かに配信する前ならどのダンジョンに行くかは視聴者に公開する義務はない。でも、配信終了後には、その記録は公的機関に残っている」
もちろん、その申請の作業は俺が全員分まとめてしている。少々面倒な手続きだけれど、これも事務所の裏方の仕事である。俺は更に話を続ける。
「未知のダンジョンの情報を収集するために、どのダンジョンに誰がいって、どんな結果になったのかを保存しておく義務があるんだ。そして、ダンジョン配信者として登録されている者は、いつでもその情報を照会することができる」
「じゃあ、この懸賞金に釣られた人たちは俺たちのアーカイブの情報を元にその情報を照会してどのダンジョンかを特定しているってこと?」
幸弥もようやく事態の深刻さを理解できたようである。
「それじゃあ今すぐいかないと400万円が!」
幸弥が刀を持って例のダンジョンに向かおうとしている。
「落ち着け。幸弥。まずは今現在配信中の動画を見て状況を確認するんだ」
俺はダンジョンのライブ配信を中心に検索をしてみた。すると、やはり出てくる出てくる。俺たちが前回行ったダンジョンに潜っている配信者が。
配信者の中には極度の目立ちたがり屋のやつもいて、自分がどこのダンジョンに向かっているのか公開しているやつもいる。
そいつの配信を見ながら、現在ダンジョンの様子がどうなっているのか確認してみよう。
ダンジョンに向かうのはそれからでも遅くはないはず。
パソコンの画面にダンジョン配信が映しだされる。剣を持った男性配信者がボロボロの布を着た骸骨のモンスターと戦っている。
「ヒ、ヒイ! なんだよこいつ! 強すぎんだろ……!」
:逃げた方が良くない?
:でも、ここで逃げたら400万円が……
骸骨のモンスターは配信者に向かって手を伸ばしてくる。そして、配信者の首を掴んでギチギチと締め始めた。
「が、あがっ……」
:うわあ……
:もう助からないぞ
視聴者の誰もがモンスターと配信者の動向に注目していると思う。しかし、俺は別のところに注目していた。背景。それが明らかに違う。
斯波さんたちが宝箱を見つけた位置よりもダンジョンの入口側である。
:なになに? どうなっているの?
:今来た人向け。ジミーが宝箱を持ち帰ろうとする。その道中でこの骸骨のモンスターに襲われた。以上
ジミーとはこの配信者の活動ネームのことだ。彼が宝箱を持ち帰ろうとしたらモンスターに襲われたということだ。
しばらくすると配信がストップした。配信者の生命に重篤な危機が迫った時、配信機材がそれを感知して自動的に配信をストップするような仕組みが作られている。
公的機関には映像は保管されるものの、配信サイトには死亡の瞬間の映像はほとんど残らないようになっている。
恐らく彼はもう……
しばらくすると、また映像が流れ始めた。骸骨のモンスターが宝箱を抱えてダンジョンの奥へと戻っていく映像が流れる。そして、モンスターが見えなくなったところで配信はストップした。
「こ、こわ……! なんだこれ。恐怖映像かよ」
幸弥が青ざめている。こいつ、意外とこういうのに耐性ないんだな。なんでダンジョン配信者やってんだよ。
「どうやら、あのオルゴールの宝箱を持ち去ろうとするとあのモンスターに襲われる仕組みだったようだな」
斯波さんがこの状況を言語化する。
「なるほど。俺たちはある意味持ち帰らなくて助かったってところか」
大悟さんは妙にほっとした表情を見せている。まあ、彼はこの宝箱に価値を見出していなかったから、持ち帰ることで発生する罠があって逆に安心したということだろうか。
「でも、400万円ですよ。そんな大金を得るチャンスを見過ごすんですか?」
池澤さんが400万円欲しさにダンジョンに行く気満々である。俺としても400万円も利益が出たら、事務所としては嬉しいことである。
やはり、組織と言うものは利益がでないと維持はできない。400万円は決して少ない金額ではない。なんとしてでも手に入れたいという彼の気持ちも理解できないでもない。
「影野さん、どうしますか? 僕はあなたの指示に従います」
斯波さんが俺に指示を求めてきた。まあ、確かに名目上の指示役は俺だけど……うーん。どうしたものか。金と命なら命の方が間違いなく大切である。
しかし、金も命を削らなければ手に入らないもの。時間かリスクか。その対価は様々だが、ノーペインで金が入ることは稀だ。その世の中の不条理な仕組みが俺の頭を悩ませる。
いや、まだ判断材料はあるはずだ。俺たちにはまだ解決してない疑問がある。
「どうして、このオルゴールに400万円なんて懸賞金がかけられているんだ? あの骸骨のモンスターの討伐ではなくて、オルゴールの方に懸賞金がかけられている。このことになにか意味があるんじゃないのか?」
「と言うと?」
幸弥はまだ俺の真意に気づいていないようだ。ここはハッキリと言ってやろう。
「この懸賞金をかけたのは人間だ。その人に話を聞いて、どうして懸賞金をかけたのか。その動機を
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