第30話 レアモンスターの脅威

 レナたんと同じ方向を進んでいても先んじて進んでいる彼女たちの後ではモンスターを狩ることができない。


 なので、俺たちは別の箇所を探索することにしていた。


「とりゃ!」


 幸弥が張り切ってモンスターを倒している。素人の俺から見ても前よりも動きは良くなっている。そのはずであるが……


 斯波さんが華麗に別のモンスターを倒す。やはり、パワー、スピード、テクニック、経験。その全てが幸弥より斯波さんの方が上回ってしまっているのだ。


 幸弥がモンスターを2体倒したのに対して、斯波さんはモンスターを5体も倒した。同じ時間をかけているはずなのに、数に倍以上の差が開いてしまっている。


「ナイス、幸弥君。いい動きだ」


 斯波さんが幸弥を褒めているが、幸弥はどうにも納得がいかない様子である。


「幸弥君。どうした? 体調でも悪いのか? そうなら言ってくれ。無理してダンジョンに潜る必要はない」


 体調が悪い時にダンジョンに潜るとそれは命取りになってしまう。斯波さんも長くダンジョン探索者をしているだけあってそれを実感しているのだろう。


「いえ、大丈夫です」


「なら良かった。しかし、動き的にはむしろ快調のような気がするけど、どうしてそんな浮かない顔をしているんだ?」


「本当に大丈夫ですから」


 幸弥はその一点張り。斯波さんも少し心配そうにしながらもこれ以上問いただすようなことはしなかった。


「わかった。配信中に訊くようなことではなかったね。申し訳ない」


:幸弥どうしたんだろう?

:なにか嫌なことでもあったとか?

:女にフラれたんじゃねえの?

:私も斯波さんに心配されてみたい


 モンスターを一通り片付け終え、次の目的地を決めようとしていたその時だった。遠くから叫び声が聞こえてきた。


「レ、レアモンスターだ!」


 先ほどの取り巻きの内の1人の声だ。


 これはどうする? 向かうべきかもしれないな。倒す倒さないは別にしてレアモンスターを配信画面に映せば撮れ高になる。


「斯波さん。声のする方向に向かってください。了解なら左手をあげてください」


 斯波さんは左手をあげる。そして、進んできた方向と反対方向を見る。


「みんな。行こう。僕たちもレアモンスターとやらを拝もうじゃないか」


 斯波さんの指示に従って、4人は来た方向を戻り、声のする方向へと向かった。


:レアモンスター!?

:やっと配信で姿を見られる!

:討伐できるかな?


 斯波さんたちが向かったその先には、案の定レナたんたちとレアモンスターが対峙していた。


 金色に輝くスライム。それが取り巻きの内の1人に飛び掛かった。


「う。うわあ!」


 スライムが体の一部を切り離して取り巻きの右腕にべちゃあと付着した。


「ぐ……ぎゃあ! あ、熱い!!!!! 腕が焼ける!!!!」


 取り巻きは叫んでいる。必死に腕をぶんぶん振って金色のスライムを引きはがそうとするも、スライムはべったりとくっついて離れない。


「た、助けてくれ!」


 取り巻きの1人が仲間に助けを求める。しかし、仲間たちは金色のスライムを前にして1歩引いてしまう。


「や、やべえ。なんだよこいつ……」


「スライムなのに動き速すぎだろ」


 金色のスライムが数体に分裂する。そして、取り巻きたちに一斉に襲い掛かった。


「う、うわあ! た、助けてくれ!」


 取り巻きたちの体に次々とスライムが付着していく。そして、取り巻きたちは次々に熱さを訴え始めた。


「あ、あづいいいい! か、体が溶けるみたいに……! ぐぅうう!」


「え、ちょ、ちょっとみんな! 大丈夫? なにしてんの? こんなやつ早くやっつけてよ! こっちの方が人数多いんだよ!」


 レナたんは自分が戦ってないくせに、取り巻きたちを急かしている。しかし、取り巻きたちはなにもなにもすることができなかった。


「斯波さん、こいつ結構強くないですか!?」


 幸弥がスライムの強さに驚いている。


「ああ。こいつはゴールドジェル。体内に金をも溶かす液体を持っていると言われている。その液体の成分はまだ未解明であるが、危険なものであることには違いない」


「金を溶かす性質……王水と同じってことですか?」


「それもまだわからない。なにせレアモンスターだからその液体を採取するにも苦労をする。こいつ自体の希少価値が高い上にかなり手強い相手だから」


 斯波さんと幸弥がそんな会話をしていると、取り巻きたちの皮膚がただれ始めてきた。


「が、ぁあ! た、助けて……!」


「こいつ……! 離れねえ!」


 取り巻きたちは持っている武器や魔法を駆使してゴールドジェエルに攻撃を仕掛けるも、まるでゴールドジェルには効いていない。


 取り巻きたちの1人。幸弥に辛辣なことを言った取り巻きが幸弥の足元に這いずってきた。


「た、助けて……」


「こ、こいつ……! 斯波さん。こいつどうやって倒せばいいんですか?」


「倒し方のデータもわからない。なにせレアモンスターだから」


「そんな……」


 幸弥の足元にゴールドジェルが這いずってくる。そのスピードはかなり速くて幸弥は急いでその場から逃げ出す。


「う、うわあ!」


 幸弥は間一髪で敵の攻撃をかわすことができた。だが……幸弥よりも前にいたレナたんは……


「きゃあ!」


 ゴールドジェルが右肩にくっついた。


「い、いやああ! あ、熱い! た、助けてぇ! お、お願い! なんでもするから!」


 レナたんが斯波さんたちの方に手を伸ばす。だが、足元から崩れてその場に倒れてしまう。


 ゴールドジェルはどんどん大きくなっていく。まるいで人体の栄養を吸って成長していくようである。


「さて、幸弥君。大悟君。カイト君。僕たちには2つの選択肢がある。このゴールドジェルと戦うか、それともこの人たちが食われている隙に逃げるか」


:こんなの逃げ一択だろ

:命を大事に!

:レナたんたちには申し訳ないけど、実力不足のやつが死ぬのはダンジョン配信あるあるだから


「俺は逃げる方に一票かな。正直、この人たちは命を懸けてでも助けたいと思えるような相手じゃないし、俺は仲間が傷つく方が嫌だなあ」


 大悟さんは一見冷たいようだけれど冷静に状況を分析している。きっと、これまでも何度もこういう場面に出くわしてきたのだろう。


 厳しいようだけれど、ダンジョンで死ぬのは自己責任である。通りすがりの誰かの助けを期待する時点でダンジョンでは甘えというほかならない。


「じ、自分はできれば助けたいけれど……自分やみんなの命を危険に晒してまで助けたいとは……」


 池澤さんもそれに便乗した。正直それが賢い選択だ。


「く、くそ……俺は……!」


 幸弥は刀に手をかけた。しかし、その手は震えている。誰だってあのゴールドジェルに触れたくはないであろう。特にレナたんたちの惨状を見てしまったからには。


「俺はこんなところで逃げるなんてことはしねえぞ! 俺は……ここでこいつに勝ってスターになるんだ!」


 幸弥が刀を抜いた。そして、ゴールドジェルに向かっていく。


「バ、バカ! 何をしているんだ幸弥君!」


 大悟さんが慌てて止めようとする。しかし、幸弥の行動は早かった。


「とりゃあ!」


 幸弥がゴールドジェルに向かって刀を振るった。しかし、ゴールドジェルはぽよんと幸弥の斬撃を跳ね返した。やつにまるでダメージがない。


「なっ……」


 ゴールドジェルは幸弥に反撃と言わんばかりに飛び掛かろうとした。幸弥は腰を抜かしながら後方にどてっと倒れた。その行動のお陰でゴールドジェルの攻撃を回避できた。


「あ、あぶねえ……!」


 幸弥は息をはぁはぁと荒げていて左胸を抑えている。そして、すぐさまゴールドジェルから離れて斯波さんたちがいる方向へと戻った。


「し、死ぬかと思った……」


「幸弥君。君はバカか。わざわざ死ににいくようなものだぞ。勇気と無謀を履き違えちゃいけない」


 大悟さんから厳しい言葉が出る。幸弥はそれに対してシュンとしてしまう。


「ごめんなさい」


「さあ、みんな逃げる準備を……」


 大悟さんがそう言った時、斯波さんは槍を構えた。


「え? なにをしているんだ。斯波君!」


「死なない程度に戦うのは悪い選択じゃない。僕は少しこいつと戦ってみる」

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