第29話 レアモンスター出現中

 俺たちの活動区域にあるダンジョンにレアモンスターが出現したというニュースが流れた。


 どこぞのダンジョン配信者の配信に移り込んだ金色に輝くスライム。それを討伐しようと色々なダンジョン配信者がそのダンジョンに集結している。


 俺たちシャドウスターズもその波に乗り遅れないようにダンジョンへと潜り込むことにした。


 俺はまた自宅にてみんなの配信を見守っている。幸弥、斯波さん、大悟さん、池澤さんの4人がダンジョンへと出向き探索を始めた。


:やっぱりシャドウスターズもこのダンジョンに来たんだね

:正直レアモンスターの討伐に期待している

:シャドウスターズならやってくれるでしょ


 コメント欄も期待してくれている。そのコメントを読んで池澤さんがなにやらニヤけている。


「ふふ。巷を騒がせているレアモンスター。それを自分たちが狩って名を上げるチャンスですねえ!」


 目立つことに執着している池澤さんにとって、このレアモンスター騒動はかなり嬉しいだろうな。なにせ、レアモンスターに挑むというだけで普段よりも多い人数がこの配信を見に来てくれている。


「カイト君。あまり油断しないようにね。敵はレアモンスターだけじゃない。普通のモンスターでも油断したら狩られるよ」


「はーい」


 池澤さんは大悟さんの言うことを素直に聞いていた。自分がレアな能力を持っていて、配信で目立てるってわかっているから池澤さんはだいぶ素直になっている。


「幸弥君。目の前にモンスターがいる。気を付けて」


 斯波さんが幸弥に注意喚起をする。目の前には緑色のスライムがいて、幸弥に向かって液体を飛ばしてくる。


「うわ!」


 幸弥はその液体を体に受けてしまった。幸弥の皮膚がじゅうと音を立てる。


「あっつ!」


「幸弥君。 大丈夫か? ……下がっていてくれ。ここは僕がやる」


 斯波さんが槍でスライムを一突きする。その高い威力の攻撃でスライムは一撃で消滅してしまった。


「く、くう……」


 幸弥は液体が付着した箇所を触ろうとした。


「幸弥君。触らないで」


 斯波さんが幸弥を止めた。そして、斯波さんはペットボトルの水を取り出して、それで幸宥に付着した液体を洗い流した。


「スライムの液体に不用意に触れてはいけない。触れた部分も爛れてしまうからね。こうしてきれいな水で洗い流して清潔な布で拭きとる。それが正しい治療法だ」


 斯波さんは幸弥に適切な治療を施した。流石、ダンジョン経験が長いだけあってこういう時の対処法をしっかりと身に着けている。


:さすしば

:頼りになるな

:やっぱりこのパーティには斯波さんがいないとダメだな


「ありがとうございます……」


 幸弥は斯波さんにお礼を言いつつも浮かない顔をしている。幸弥は大丈夫だろうか。あいつは結構自分の実力が足りてないことに引け目を感じている。


 今回もスライムの攻撃を受けて仲間の負担を増やしてしまったことに対して変に気持ちを落ち込ませてないと良いけれど。


:あれくらい避けろよ幸弥


 まずい。幸弥に批判コメントが来ている。これを幸弥に見られる前に消さなくては。モデレータ―権限でコメントを削除してっと。


「すみません。斯波さん。あれくらい避けるべきでしたね……」


 幸弥……まさかコメントを読んだのか? どうする? ここでインカムで幸弥を励ますべきか?


「まあ、攻撃はできるだけ避けた方が良いけれど、どうしても当たってしまう時はある。そんな時に変に気負い過ぎてもいけない。気持ちを切り替えていかないと次に大きな失敗に繋がる」


「そうですね……すみません。ちょっと弱気になってました」


:どうした? 幸弥らしくないぞ

:なんか幸弥落ち込んでいる?

:幸弥がんばれー


 幸弥を励ます温かいコメントもある。これを幸弥が拾ってくれて気を持ち直してくれると良いけれど……


「あら、あなたたちもここに来てたんですかー?」


 どこかで聞き覚えのある声が聞こえる。その声の方向に撮影用のカメラが向けられる。


 間違いない。あの色々と俺たちの前に現れる配信者のレナたんである。


:他のダンジョン配信者に遭遇した

:うお、でっか

:ダンジョンにあんな胸元が空いた服装で挑むとか舐めとんのか

:レナたんはあんまり戦わないよ。エアプかお前

:戦わないにしてもダンジョンに相応しい恰好があるだろ


 コメント欄がざわつき始めたな。まあ、賛否両論別れやすい配信スタイルだと思うけど。


「ははは。シャドウスターズもお荷物1人抱えてんな」


 レナたんの取り巻きの1人が幸弥の方を見ながらとんでもないことを言い始めた。


「な、なんだと……!」


 幸弥が刀に手を伸ばそうとしている。まずい。この一触即発の空気。どうにかしないと……


「おっと、別に俺はお荷物を1人と言っただけで、お前とは言ってないぞ。怒るってことは何かしらの自覚があるんじゃないのか?」


「幸弥君。やめよう。こいつらと争っているだけ時間の無駄だ」


 斯波さんが冷静に幸弥を止めようとする。


「で、でも……! 斯波さん」


「ふふ。私の誘いを何度も断ってくれた事務所になんか、私は負けないからね。レアモンスターの討伐は私たちのもの」


 レナたんが感じ悪く笑う。今までの無邪気さというものが一切感じられない嫌な笑みである。


 そりゃ、俺たちだってレナたんのことは拒絶している。しかし、いくらなんでも私怨がひどすぎないか?


 実力や素質が足りてなければ落とされるのは必然だし、コラボの誘いだって引き抜き前提が露骨に見えていれば断りたくもなる。


「じゃあ、私たちは先に行くね。幸いにして、私たちの誰もスライムの液体になんかやられていないから」


 レナたんがそう言うと取り巻きたちを引き連れてダンジョンの奥へと進んでいった。


 レナたんの姿が見えなくなった後に、幸弥が悔しそうに唇を噛んでいた。


「斯波さん。すみません。俺のせいであんなやつらに先を越されてしまいました」


「別に気にしなくても良い。幸弥君だって好きで攻撃が当たったわけではないのだろう」


:あいつら本当に感じ悪い

:あいつらにだけは負けて欲しくない

:絶対、先にレアモンスター倒して


 レナたんたち一行に対する怒りがコメントに現れている。


 俺たちのために怒ってくれていて正直言って嬉しい。


「本当になんなんですかね。あの女。おっぱいでかいくせに性格悪いなんて」


「カイト君。胸の大きさと性格はあんまり関係ないんじゃないかな?」


 池澤さんの謎の発言に大悟さんがつっこみを入れる。


「幸弥君。もういけそうか?」


 斯波さんが幸弥の傷の具合を診る。


「はい。もう違和感はないです。動き回っても大丈夫」


「そうか。良かった。それじゃあ、再開しようか」


 幸弥が回復したことで斯波さんたちはダンジョンの奥へと足を動かすのであった。


 ダンジョンを進んでいくと、先ほどのレナたん一行がモンスターと戦闘している。


「はあ! やあ!」


 取り巻きたちがモンスターに攻撃している。その戦い方はお粗末で、斯波さんと比較したら全然優雅さのかけらもない。


 モンスターを取り囲んでタコ殴りにするというなんとも数の利を活かしただけの戦いをしている。


 かと言って連携も取れておらず、相手が雑魚かつ数が多いから辛うじて勝てている程度である。


 こんなひどい戦い方でよく俺たちに何かを言えたものだ。こいつらには言われたくないとすら思ってしまう。


「よっしゃあ! 倒した!」


「わー、すごーい。すごーい。、おめでとー」


 レナたんは褒めたり、応援したりしかせずに戦いにまるで参加してない。そこは相変わらずである。


 こいつらには負けたくねえ。俺は改めてそう思った。

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