第25話 キャプテンカイト

 大悟さんがじっと池澤さんの目を見ている。


 確か大悟さんはダンジョンの魔力の影響で目が変異して、見ただけでその人のダンジョン配信者としての素質がわかるとかなんとか言っていたな。


「あ、あの……大悟さん? 自分の顔になにかついてますか?」


:見つめ合う2人。これは……ニヤニヤ

:もしかして、恋に落ちた?

:たまりませんわー

:てえてえ! てえてえ!


 なんか腐っているコメントが見えたような気がしたけれど、見なかったことにしよう。配信の楽しみ方は人それぞれだし、他人を不快にさせない程度なら目を瞑るしかない。


 大悟さんがうんうんをうなずく。そして、池澤さんの肩にぽんと手を置いた。


「なるほど。これは俺も計算外の素質だった。カイト君はダンジョンの魔力の影響を受けて喉が常人のそれとは違うものになった」


「え? どういうことですか?」


「いわば、音に魔法の効果を込めることができる稀有けうな素質を持っているんだ。カイト君の声を聴いた存在の中から、カイト君が選んだ対象に任意に魔法の効果を与えることができる」


「……?」


 池澤さんはなんかよくわかっていないような感じである。


「まあ、簡単なことを言えば、カイト君の声を聞いた相手に魔法をかけることができるってことだ。そして、その魔法の威力・精度・効果は声の聞こえ方。まあ大きく聞こえたかどうかに依存する。つまり、声が大きいカイト君はこの能力にぴったりと言えるんだ」


「えっと大きく聞こえたかどうかですか?」


「元の声の大きさはもちろんだけど、魔法をかける相手の耳が良いとか、相手との距離で聞こえ方も変わってくるでしょ。そういうことだよ」


 大悟さんの説明を聞いて俺はなんとなく池澤さんの能力について理解できた。


 声を聞いた相手に魔法をかける。声が大きくて補助魔法が得意な池澤さんにぴったりである。しかも、普通なら複数にかけられない補助魔法を複数にかけられるというかなり強い能力ではないだろうか。


「うーん……?」


 池澤さんは大悟さんの説明を聞いてもまだ納得いってないような気がする。やはり、補助魔法の才能が開花しても、それが唯一無二のものだとしても、本人の望むものではないのなら納得できないのかもしれない。


「すげえ! すげえよ! カイト君! とんでもない才能じゃないか」


「え?」


 幸弥が池澤さんを褒めだした。池澤さんはぽかーんとした顔をしているけれど、幸弥は構わず続ける。


「だって、あれでしょ。号令で味方を強化できるなんて司令塔みたいでかっこいいじゃないか。応援は全体の士気にも関わってくるし、応援に補助魔法が乗せられるとか、戦術のかなめとしての最重要ポジションじゃないか」


「最重要?」


「そう。まさにキャプテンって感じ」


 幸弥のこの言葉であからさまに池澤さんの表情がににこやかに崩れ始めた。キャプテン。その単語はサッカー経験者にとってはなによりも嬉しい言葉なのだろうか。


「キャプテン……そうか。自分はみんなに指示を出して士気を上げられるキャプテン……! このチームになくてはならない存在!!!!」


 なんか急に池澤さんの顔がやる気に満ちてきた。幸弥の嫌味のない素直な言葉が池澤さんの心に火をつけたのか? やるな。幸弥。


「大悟さん! 自分、もっと補助魔法を極めてキャプテンとしてチームの支柱となりたいです!!!! そのために、もっともっと補助魔法を教えてください!!」


「お、おお。やる気があることは良いことだね。そうだね。それがカイト君の素質にもあっているし、後ろにいるからこそチーム全体見回せることもある。もっと視野を広くして、的確な指示と魔法を出せれば、カイト君は誰にも負けないキャプテンになれるよ」


 大悟さんも池澤さんにとってキャプテンがキラーワードであることに気づいたのか、そのワードを使っておだてている。流石は年長者。誘導の仕方が老獪ろうかいである。


「まあ、ただやはり複数に魔法をかける関係上、体内にある魔法の力を大きく消耗してしまうことになる。そういうMP管理もしっかりしていかないといけない。かなり頭を使う重要なポジションだ。でも、キャプテンの素質があるカイト君ならやれるさ」


「はい!!!!」


 釘を刺しつつもおだてるのを忘れない大悟さん。メンタルケアがすごい。


:すごい! シャドウスターズは良い人材を拾ってきたね

:カイトは正式採用でしょ? 見る目あるなあ

:仲間と一緒にダンジョンに潜るスタイルなら、この素質も活きやすいね

:いいなあ。俺もこういう特殊能力欲しかった


 コメント欄も池澤さんを褒める流れになっている。いいぞ。新人はどんどん調子に乗らせて良い。勢いがない新人なんてフレッシュさがない。


「いいなー。斯波さんと大悟さんは経験豊富で強いし、カイト君は自分だけの特殊能力を持っている。それに比べて俺は……」


 ……? 幸弥? なにを言っているんだ。小声で少し聞き取り辛かったけれど、なにか自分を卑下するようなことを言っている。


 幸弥は幸弥で初心者ながらにして、斯波さんとコンビを組んで良い動きをしてくれている。確かに斯波さんや大悟さんに比べると見劣りするけれど、それは初心者だから仕方のないことである。


 気にする必要はないんだけど……やはり、同じく初心者で自分よりも少し後輩の池澤さんが注目されたことで、幸弥も焦りを感じているんだろうか。


 ここはここでメンタルケアが必要な気配を感じる。


 その後もダンジョン配信は続いた。池澤さんが開花させた能力によって、モンスターをスムーズに倒せるようになった。特に斯波さんの動きはまさに鬼に金棒と言った感じで、いともたやすく倒されるモンスターがかわいそうに思えてくるほどであった。


 そして、無事に帰還した4人。配信はかなり盛り上がったまま終了した。


 配信終了後に恒例の反省会を開くのであるが、そこで衝撃の事実が明らかになった。


「え? トレンドに乗ってる?」


 SNSのトレンドにシャドウスターズの名前が出ている。更にカイトという単語も一緒にトレンドに掲載されていて、まさに注目されている状態である。


「え? 本当ですか! うわ、自分の名前がトレンドに乗ってますね! ここまで有名になるなんて思いもしませんでした」


 そりゃ、配信中にすごい能力を持った新人が現れたって、目立つし話題にもなるよな。


 たった1度の配信をきっかけに、池澤さんは一気に大スターになってしまった。


「もしかすると、他の配信者から引き抜きにあうかも? 自分とコラボ組みたいって美少女配信者がいたらどうしようかなーって」


 わかりやすいくらいに調子に乗ってるな。でも、まあ、落ち込んでいるメンタルよりかは健全か。


「カイト君。確かに君の能力は強力だけど、1歩間違えば君の指示ミスで俺たちの命が危険に晒されることもある。そのことを忘れないで。キャプテンの責任ってのは重いから」


「は、はい!」


 大悟さんはやっぱり釘を刺すべきところは刺してくれるな。頼りになる大人だ。


「ん?」


 シャドウスターズのアカウント相手に1通のダイレクトメッセージが届いていた。この送信元は見おぼえがある。


「ねえ、引き抜きというか……コラボの打診が来てるんだけど?」


 俺はみんなにこの事実を共有することにした。


「コラボ?」


 斯波さんが怪訝な顔をする。なにかを警戒しているようではあるが……


「ええ。大悟さんは知っていると思いますが、この前面接に来た女性がいたじゃないですか。その人がなんかコラボの打診をしてきたんですよ」


「あー。あのセクシーさを売りにしている囲いを囲ってそうな人ですね。あの人、結局ダンジョン配信者になったんだ」


「ええ。事務所に所属しているって感じではないので恐らく個人だと思いますが……多分、狙いは池澤さんだと思います」

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