第32話 妖刀覚醒
斯波さんが槍を構える。そして、その槍を使ってゴールドジェルに向かって突進をする。
斯波さんの動きはとても速い。しかし、ゴールドジェルもそれに負けず速くて、斯波さんの一撃を回避した。
「外した……!?」
「お前も取り込んでやる」
ゴールドジェルは体の一部を切り離して斯波さんにそれを付けようとしてくる。斯波さんは槍で地面を叩きつけてその反動で思い切りジャンプをした。
それでゴールドジェルの攻撃を回避して、重量を槍に乗せてゴールドジェルの体を貫こうとする。
「食らえ!」
ゴールドジェルの体が槍に突き刺さる。手ごたえはある。しかし、ゴールドジェルに致命傷を与えたかと言うとそうではなさそうだ。
「無駄だ。その程度の攻撃で私は倒せない」
体を貫かれてもゴールドジェルは生きている。普通のモンスターなら致命傷になるようなレベルの攻撃でも、スライム状の体にはまるでダメージが通っていないのか?
「僕の攻撃はこいつに効かないのか……?」
斯波さんは後方に飛び乗ってゴールドジェルから一旦距離を取った。体にスライムを付けられたらそれだけで致命的な一撃になりかねない。
そんな危険な状態でいつまでも接近戦ができるものでもない。
「斯波さん。こいつ、攻撃効いてないように見えて確実にダメージは入っていると思いますよ」
幸弥は突然そんなことを言い出した。
「なんだと……? 一体なにを根拠にそんなことを……」
「だって、考えてみてください。こいつはさっき斯波さんの攻撃を避けました。本当に攻撃が通っていないなら、避ける必要なんてありますか?」
幸弥の言うことはもっともである。ダメージを食らわないなら避ける必要はない。
しかし、その理論にも穴はあるかもしれない。
「いや……それは反射的にとった行動かもしれない。それだけでダメージが通っているか判断するには早計かな」
斯波さんの言うこともわからないでもない。でも、なんだろう。この違和感。
このゴールドジェルはさっき中和は無駄だと言った。本当に無駄だったらそんなことをわざわざ言う必要はあるのか?
だって、言わなければ斯波さんは中和を続けていたと思う。そうすれば斯波さんのMPを削ることだってできるはずだ。
無駄だと相手に情報を教えるメリット。あるのか……?
「斯波さんの言う通りだとしても、攻撃しない理由にはならないでしょ! 攻撃を続けていればなにかが見えてくるかもしれない!」
今度は幸弥が攻撃に転じる。幸弥の刀は相変わらずなにかしらのオーラが見えている。
:いったれ! 幸弥!
:斯波で無理なら幸弥には無理だろ
:幸弥君死なないでー
「とりゃあ!」
幸弥の一振り。だが、ゴールドジェルはそれを避ける。
またゴールドジェルが攻撃を避けた。なんなんだ? 攻撃を受けてみたり避けてみたり……ゴールドジェルの体にはなにか秘密でもあるのか?
「まだまだ!」
幸弥が更に攻撃を続ける。それがたまたまゴールドジェルの左腕に命中した。
「あ、あぎゃあああ!」
ゴールドジェルは苦しそうに叫び声をあげた。ゴールドジェルの腕の切断面がぐじゅぐじゅに爛れているような見える。
「え……? 効いてる?」
驚いているのは幸弥本人だった。幸弥の刀にまとっていたオーラが消えている。なんなんだ? 幸弥の体それになにか秘密があるのか?
「今だ! ヒュドロ!」
斯波さんは切り離されたゴールドジェルの左腕に水をかけた。恐らくはアルカリ性のものであろう。それによって攻撃を受けた左腕がシュウウと消滅した。
:え……? 効いてる?
:何が起きたの?
:なんでもいいじゃねえか! 効いているなら!
「くっ……無駄だと言ったのに! どうして……」
「本体に直接かけても無駄かもしれないけど、切り離されたパーツには有効かなと思ってね。本体にまた吸収される前に消させてもらった」
:ナイス斯波!
:幸弥と連携とれててすげえ!
コメントは斯波さんの行動に注目している。しかし、俺は別のものを見ていた。
幸弥の刀。それが、またオーラを纏い始めている。さっきは消えたのにどうして……斯波さんが魔法を使った時になにかが起きたというのか?
俺は考えてみた。幸弥の刀がオーラを纏う条件を……そして、オーラの正体はなんなのか……
幸弥の攻撃がゴールドジェルに効いていた。ということは、ゴールドジェルに有効ななにかが幸弥の刀にあったというわけだ。
俺はまさかと思い、幸弥と斯波さんにインカムで連絡することにした。
「斯波さん。幸弥の刀に向かって、アルカリ性のヒュドロを撃ってみてください。幸弥も刀で受け止めて欲しい」
「え? それは一体……」
「いいから、俺の指示通りにしてくれ幸弥」
斯波さんと幸弥がアイコンタクトを取る。そして、斯波さんがヒュドロを放った。
「なんだかわからないうけど……行くぞ!」
幸弥は斯波さんのヒュドロを刀で受け止めた。するとヒュドロが幸弥の刀に吸収されて、オーラの量が爆増した。
「こ、これは……!」
幸弥は自分の刀を見て驚いている。誰の目から見ても明らかな異常であったのか、コメント欄も加速する。
:ええええええ!
;な、なにあれ!
:しらない。なにこれ!
思った通りだ。どのタイミグかはわからない。けど、幸弥の刀に斯波さんの水の魔法。その飛沫がかかっていたんだ。
飛沫は魔法の一部。つまり、幸弥が刀で魔法を受け止めると刀が魔法を吸収して、オーラを纏うようになる。
そのオーラの性質は――
「食らえ!」
幸弥が重いきりゴールドジェルに斬りかかった。ものすごいオーラが溜まっている刀での一撃。オーラが爆発的に増えて、ゴールドジェルの体を溶かしていく。
「が、がああぁあ! バ、バカな! これほどまでの……耐えられん……ぐぬあああ!」
キィンと音がした。その音と共に幸弥の刀は折れてしまった。だが、ゴールドジェルはシュウゥウウと消滅して消えてなくなった。
:え? 勝ったの?
:そうみたい
:しかも、あのクソ強モンスターに止めをさしたのは幸弥だぞ
:幸弥君ってこんなに強かったの? 推せる
「はぁはぁ……や、やった! やってやったぞ!」
幸弥がゴールドジェルを倒す。コメント欄がものすごい勢いで流れて目で追えないくらい。
その大半が歓喜の声で溢れていて、幸弥を称えていた。
「斯波君。みんなのゴールドジェルを取り終えた。そっちも終わったみたいだね」
「ああ。幸弥君がやってくれたよ」
ゴールドジェルを倒したことでダンジョン内に大団円の空気が流れた。その中心にいるのは間違いなく幸弥だ。
◇
ダンジョン配信終了後、俺たちの配信はトレンドに乗った。SNSでの反響が鳴りやまない。
あの幸弥が斯波さんでも苦戦していた相手に止めを刺したのだ。幸弥の隠された力にみんなが驚いていた。
「瑛人君。ちょっと説明して欲しいんだけど、俺は一体どうなっていたの?」
幸弥は自分のことながらによくわかっていないようだった。
「幸弥。お前の性質は恐らくは刀に魔力を吸収させて、それを増幅させて留まらせることができるんだ。斯波さんと大悟さんが魔法を使っていて、その
恐らくはそんなところだろう。まだまだ検証の必要はあるのかもしれないけど、俺の言っていることは
「その魔力がオーラとなって攻撃時に爆発させる。オーラの性質は直前に受けた魔法に依存すると考えれば、アルカリ性の水の性質を持った斬撃をゴールドジェルに食らわせられたんだと思う」
「ゴールドジェル本体はある程度のアルカリ性の水には耐えられるけれど、度を超えたものに関しては無理だったんだろう。だから幸弥君の最後の一撃が効いたというところかな」
斯波さんがまとめてくれた。俺も同意見だ。
「お、俺にそんな力が……」
「ああ、幸弥君のあの刀での一撃。それは僕にも出せない威力だった。常時出せるような威力じゃないけれど、間違いなく僕たちの切り札になれる存在だ」
「切り札……俺が……」
幸弥は自分の手を見つめていた。あの特大威力の攻撃。それが突破口となることだって今後ありえるかもしれない。
幸弥はこのパーティにとって必要な人材だ。それは今までもそうだけど、今後はより一層幸弥のがんばりに期待をしたい。
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