第45話 魔法タイプ用の武器
そろそろダンジョンから持ち帰ってきた素材も溜まってきたことだし、池澤さんに武器を作りたいところである。
これまで、バフ魔法だけでなんとかしてもらっていたけれど、これから先は池澤さんも攻撃に参加せざるを得ない時もあるかもしれない。
もちろん、池澤さんの本領は声に魔法を乗せられる特異な声帯だけど、できる選択の多さは生存率にも繋がる。
というわけで、俺は当人の池澤さんと魔法タイプの先輩である大悟さんを呼び出して新しい武器の方向性について話し合うことにした。
「現状でカイト君が所有者になっている素材はこれだけか。なるほど」
大悟さんが素材を見ながら考え込んでいる。
「そうだね。俺たち魔法タイプ向けの武器にはいくつかのパターンがある。それをこれから教えるね」
「お願いします!!!!」
池澤さんは大きな声で返事をしてメモを取りながら、大悟さんの話を聞いている。
「まずは単純に攻撃力重視の武器。これは物理タイプと変わらない。魔法タイプもダンジョンに入りたての頃はダンジョンの魔力を取り込めてないから魔法を使えるわけじゃない。そこはわかっているよね?」
「ええ。そこがちょっとネックというか……斯波さんや幸弥君に守ってもらってもらえるのはありがたいです」
「そう。魔法タイプでもダンジョンの序盤は物理で戦わないといけない。だから、魔法タイプもある程度強い武器は必要なんだ」
ここだけ聞くと魔法タイプは少し扱いにくいような気がしないでもない。
「俺が使っている杖は持ち手の部分は軽くて扱いやすいけれど、先端に重量がある素材を入れているから見た目以上に威力が出るようにしている」
「へー。そうなんですね」
「俺も長く1人でダンジョン配信者として活動していたから、序盤から1人で戦えるようにしているからね」
たしかに大悟さんは、たまに斯波さんや幸弥に混ざって物理攻撃を仕掛けている時もある。
魔法タイプは打たれ弱い特性があるから基本的に後衛にいるのに、隙を見て前衛に出てくるんだよな。
このチャンスを掴むのは長年の肌感覚なのだろうか。
「次に魔力重視の武器。魔法は武器を介しても撃つことができる。俺も杖から魔法を出すことがあるでしょ? それで、魔法の威力を底上げしているんだ」
「斯波さんは手から魔法出しているけど、大悟さんは杖から魔法出してますよね」
「そう。カイト君。良く気づいたね。斯波君が使っている槍は魔法を介するように作られていない。でも、俺の場合は魔法が生命線だから杖で威力を底上げできるように作られているんだ」
斯波さんもそこそこ魔法が使えるけれど、やっぱり大悟さんの方が魔法の本職だけあって威力が高い。
「そして、最後のタイプ。MP重視とも言うべきだろうか。武器で敵を攻撃するとモンスターの持っている魔法のエネルギーを装備者が吸収できる武器があるんだ」
「そんなものがあるんですね。勉強になります」
池澤さんが特にここを念入りにメモしている。初見の知識なのだろう。
「俺の杖にはそんな機能はないけど、吸収タイプの武器を使っているダンジョン配信者もいる。これが魔法タイプの武器の全部だ」
ゴリゴリ前衛の物理タイプはそれこそ攻撃力重視を使えばいいだろう。幸弥とか斯波さんがそれである。
まあ、前衛もリーチとか軽さとかの使いやすさや武器そのものの耐久性を重視することもあるけど、そこまで考えると複雑化してしまう。
「俺の場合は、攻撃力と魔力どっちも重視しているハイブリットタイプを採用している。攻撃力特化、魔力特化に比べると見劣りするところもあるけど、個人的な使いやすさはこっちの方が上かな」
「なるほど。じゃあ、俺もそのタイプを使ってみましょうかね!」
池澤さんがなんか安易に決めようとしている。そんなあの子が使っていたから俺も使いたいみたいな決め方でいいのだろうか。
「いや、カイト君の場合は……魔力重視タイプはやらない方がいいと思う」
「え? どうしてですか?」
「基本的にこの辺は個人の好みやフィーリングにもよるから正解はないけど、カイト君は声帯を介して魔法を使うから例外なんだ」
「あ……そっか。武器を介して魔法を使うと俺の特色が消えるってことですか?」
「そう。魔力重視タイプの武器で魔力が底上げされるのはあくまで武器を介して魔法を撃った場合、俺も場合手から魔法を撃ったら威力が底上げされないんだ」
他の魔法タイプの人だったら、魔力重視タイプでもデメリットは少ないだろうけど、池澤さんの場合は相性が悪いってことか。
「だからやるんだったら、攻撃力特化か吸収特化。あるいはそのハイブリットかの3択になると思う」
「うーん……大悟さんはどっちが良いと思いますか?」
「個人的には吸収特化が1番オススメできるかな。相手の魔法エネルギーを吸収できるのは便利だからね。初動が早くなるし、継戦能力も高まる」
「うーん……吸収特化かー」
「その場合、攻撃力が犠牲になるのを忘れないようにね。限られた素材で武器を作る以上は全部のいいとこ取りなんてできないから」
池澤さんが大悟さんの言葉を基によく考えている。
池澤さんとしてもバフ役になるのは納得していたとしても、前衛で戦いたい気持ちはあるのだろう。
俺もちょっと気になることがあるから質問してみよう。
「大悟さん質問いいですか?」
「どうぞ。影野さん」
「例えば吸収重視とハイブリット型ではどれくらいに攻撃力と吸収効率の差が出るんですか?」
「うーん……実物を比較検討しないとなんとも言えないけど、吸収特化はそれこそ魔法のガス欠を恐れるような人が使う武器ですね。これを使うと1発、モンスターを殴るだけで、よほど高燃費の魔法を使わない限りはガス欠にならないでしょう」
なるほど。魔法を撃ちまくりたい人には魅力的だな。
「その代わり、武器での攻撃でモンスターを倒すのは諦めた方が良いです。下手したら素手の方がマシって威力ですから。まあ、ジンさんみたいな例外は除きますけど」
あの人はある意味例外中の例外というかバグみたいなもんだから。
「ハイブリット型はガス欠もある程度緩和されて、雑魚モンスターになら有効ですね。ただ、大物相手にはちょっと心もとないです。攻撃力を完全に重視するなら、計画的に魔法を使わないとガス欠と隣り合わせですね。体術も鍛えないとモンスターとの戦いで逆に不利になるでしょう」
大悟さんは体術も優れているし、計画性もあるから、吸収能力の武器を切っているから立ち回れているってことか。
「うーん……大悟さん。自分考えたんですけど、自分ってまだ魔法のバリエーションが少ないじゃないですか」
「そうだね。でも、初心者なら気にする必要はないよ。むしろ、初心者基準ならよくやっている方だし」
「バフ魔法を何度もかけるような状況には中々ならないし、自分もある程度殴れた方が有利だと思います」
「なるほど。その考えも間違ってないね。それじゃあ、ハイブリット型にしてみる?」
「はい。その方向性に決めたいと思います」
というわけで、池澤さんの武器は、攻撃力を確保しつつ相手のMPを吸収できるような武器という方向性になった。
その方向性を決めて、具体的にどんな武器種が理想かを更に突き詰めて、武器鍛冶屋の業者に池澤さん用の武器を発注した。
これで、武器が届けばシャドウスターズの戦力が更に上がること間違いなしだ。
大悟さんに相談に乗ってもらえて良かった。やっぱり頼れるのは知識豊富なベテランだということ。
大悟さんには本当に計画決定の段階でお世話になりっぱなしだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます