第46話 モンスター大量発生
俺は今日もダンジョンについての情報を収集している。
ここら一帯のダンジョンにてモンスターが大量発生しているとの情報が得られた。
モンスターの増殖ペースがいくらなんでも異常すぎて、並のダンジョン配信者では太刀打ちできない程になっている。
このままではこのダンジョンはモンスターだらけになって探索・調査ができなくなるかもしれない。
モンスターの異常増殖の調査とモンスター討伐を兼ねて、このダンジョンに挑戦してみるか。
俺はみんなにその趣旨を説明してそのダンジョンに向かってもらうことにした。
「モンスターの異常増殖か。最近ではレアモンスターが出てきたし、ここら一帯のダンジョンの活動が活発になってきているのか?」
斯波さんがなにかを懸念しているようである。
だが、俺らは別にダンジョンのことを専門に研究しているわけでもない。
ダンジョンにはまだ未解明な部分も多くて、大量発生やレアモンスターの出現も何が原因で起こるのかよくわかっていないのである。
「まあまあ、斯波さん。とにかくモンスターを全員やっつければ良いじゃないですか」
幸弥は楽観的に考えている。これでも最初はモンスターを倒すのに躊躇していたのに、今ではすっかりとモンスターを平然と倒せるようになっている。
まあ、たくましくなったということか。
全員納得の上で、モンスターが大量に発生した件のダンジョンへと向かってもらった。
配信がスタートした瞬間、早速モンスターが現れた。
「いきなりかよ!」
まるで出待ちしていたファンのように、モンスターはみんなに襲いかかる。
人間が視界に入り次第襲うようになっているのだろうか。いきなりの不意打ちを食らってしまう。
「みんな! 下がって!」
大悟さんがモンスターの攻撃を杖で受け止める。そして、ガードついいでに反撃してモンスターを弾き飛ばした。
スライム、ゴブリン、獣人、巨大昆虫、等々。色々な種類のモンスターがいる。
まさかここまでモンスターが増殖しているとは思いもしなかった。
「これはこのダンジョンに来てある意味正解だったかもね。もうちょっと放置していたら手遅れになっていたかな」
大悟さんが後方に下がりながら状況を分析する。
たしかに今ならまだ手の施しようがあるレベルに思える。これより数が増えたら流石に斯波さんたちでも苦戦するのは間違いないだろう。
「こんなやつらバフもなしに戦い続けるのは無謀だ。カイト君がバフ魔法を使えるようになるまで守りに徹して、バフがかかったら攻勢しよう」
斯波さんの指示で、みんなが防御態勢を取る。
何事も準備と言うものは必要である。
強敵に挑むなら魔法で強化をしてからでないと苦戦を強いられてしまう。
いきなり全力で攻撃してもこの状況を打開するのは困難だろう。
「これは自分の新武器の出番っすかね」
池澤さんは手にしているメイスを構えてモンスターにそれを打ち込もうとする。
「カイト君。今は無理に攻撃する必要はない。身を守る程度にとどめておいて」
大悟さんは冷静である。池澤さんは魔法タイプだから防御面はペラッペラである。
下手に攻撃を仕掛けてモンスターから反撃をもらった大ダメージを受けてしまう。
獣人が幸弥を爪で引っ掻こうとする。ガキンと金属音が響き渡る。
幸弥は獣人の爪を刀で弾いて攻撃を受け流した。
「このまま防御していても押し切られてしまう」
幸弥はまだバフがかからない状況に焦っている。
リスナーのコメントも不安な言葉ばかり流れている。
:さすがにモンスター多すぎるって
:囲まれてる。もうダメっぽい
:出入口近いし、撤退するのも手じゃ……
敵の攻勢に苛立ちが感じられてくる頃、池澤さんが急に笑顔になった。
「来た来た! エネルギーが溜まってきた! ここから逆転だ! みんな! 行くぞ!」
池澤さんが声に魔法を乗せて全体に強化魔法をかける。
強化魔法を受けた斯波さんと幸弥は普段よりも動きが早くなり、ついに攻勢に出る。
「よし、これなら……!」
斯波さんが槍でモンスターを突き刺す。一撃でモンスターは倒れて、また斯波さんが別のモンスターを突き刺して、どんどん敵を殲滅させていく。
「食らえ!」
幸弥も刀でスライムを切り裂いて倒す。斯波さんよりペースは劣るものの、こちらもモンスター相手に十分無双できている。
「はあぁああ……!」
大悟さんが魔法に意識を集中する。杖から大きな雷が放たれて広範囲のモンスターを感電させて倒していく。
:おおおお!
:一気に動きがよくなった
:やはりバフの重要性よ
:全体バフとか強すぎる
コメント欄でもある通り、池澤さんの強化魔法から一転して状況が良くなった。
普通のダンジョン配信者は全体に強化魔法をかけることができない。
やはり、池澤さんはこの事務所にとって大きな戦力だ。いてくれないと困るレベル。
もし池澤さんがこの場にいなかったらと思うと……想像するだけで恐ろしい。
それから戦闘は数分続いた。大量にいたモンスターも徐々に数を減らしていき、敵が劣勢だと知るとモンスターたちは散り散りになって逃げ始めた。
「あ、待て!」
幸弥が逃げたモンスターを追おうとする。しかし、斯波さんが幸弥の肩を掴んだ。
「待て、幸弥君。深追いをするんじゃない」
「はい」
幸弥は斯波さんの言うことを素直に聞いて立ち止まった。
モンスターを取り逃がして悔しい気持ちもわかるけれど、みんなの安全を確保するなら今はこの場で追いかけるべきではない。
追いかけた先にどんな罠が仕掛けられているかわからない。
「さて。ここから先探索を続けるべきか」
斯波さんがカメラに向かってアイコンタクトをした。
これは俺に指示を求めているということだ。
モンスターは大量発生している。適当にこうして討伐してモンスターの数を減らしていけば、いつかはモンスターは適正な数になるかもしれない。
しかし、モンスターが大量発生した原因も気になる。
それを突き止められれば、これから先同様の事件が起きた時に対処できるかもしれない。
ダンジョン配信者はこうやってダンジョンの情報を収集して、後続に情報を繋げていく目的がある。
ここは調査を続行すべきだろう。
「調査をお願いします。くれぐれも慎重に」
俺は斯波さんにインカムで指示を送った。
「調査を続行しよう。まだなにかこのダンジョンには秘密が隠されているかもしれない」
モンスターが増殖した原因を探って元を断てば事件が解決するかもしれない。
そんな大きな原因がないのかもしれないけど、なんにせよ原因のあるなしに関わらずに調査は必須だろう。
たんなる偶然だったという調査結果も貴重なデータだ。
:調査を続行するのか
:まあ、シャドウスターズがやってくれるなら安心して見れる
:この有能集団以外にダンジョン調査できるやつおりゅ?
調査を続行したら視聴者数も増えてきた。
やっぱり、みんなこのダンジョンで何が起きているのか知りたいのかもしれない。
ダンジョン配信を見る層は未知への探求心が強いと思う。
こうした新発見が出そうな状況を見逃さないと多くの人が集まってきても不思議ではない。
「もし、モンスター大量発生の原因を探れたら金一封とかもらえたりしないっすかね」
池澤さんが浮ついたことを言い始めた。
「別に大量発生の原因を探ることに懸賞金がかけられているわけじゃないから、その可能性には期待しない方がいいかもね」
斯波さんが冷静に返す。どうしても、謎を解明したい。解明しなきゃ困るって人や団体がいれば懸賞金がつくことはあるだろうけど……
そんな都合よくなにごとも懸賞金がつくとは限らない。懸賞金がつくことにだって裏があるかもしれないし。
例の宝箱の一件とか。
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