第47話 ウェアウルフの脅威
シャドウスターズのみんながダンジョンの奥へと進んでいく。
慎重に歩いていると目の前に狼型の獣人のモンスターが現れた。
「こいつはウェアウルフ……中々厄介な相手だな」
斯波さんが槍を構えてウェアウルフを睨みつける。
「みんな油断をしないように!」
:かなり強いモンスターだね
:このダンジョンにこんな凶悪なモンスターがいるなんて
「へへ。俺に任せてください!」
幸弥が刀を構えてウェアウルフに斬りかかる。ウェアウルフは、幸弥の攻撃を素早い身のこなしでかわして背後に回った。
「なっ……速いっ……!」
ウェアウルフが爪で幸弥を切り裂こうとする。まずい……!
ガキンと音が響き渡る。斯波さんの槍がウェアウルフの爪での攻撃をはじき返した。
間一髪の出来事だった。後少し斯波さんの反応が遅れていたら幸弥はダメージを受けていたかもしれない。
「油断するなって言ったよね」
斯波さんが少し怒ったような声色で幸弥に詰める。
「す、すみません」
「これから気を付けて」
ウェアウルフは後方に後ずさりして四足歩行の姿勢になる。そして、膝を曲げてから一気に跳躍してくる。
斯波さんに向かって物凄いスピード飛び掛かってきた。
「うわっ……」
ウェアウルフが出した風圧で池澤さんが尻もちをついた。ウェアウルフはそのまま斯波さん目掛けて飛んでくる。
「とりゃ!」
斯波さんも槍を地面にたたきつけてその反動で真上に向かって跳躍をした。
その直後にウェアウルフが斯波さんが先ほどまでいた地点に到達する。
後少し、ほんの少し、斯波さんの回避行動が遅れていたら攻撃が当たっていたかもしれない。
真上に跳躍した斯波さんは槍を下方向に構えてウェアウルフを突き刺そうとする。
しかし、ウェアウルフもいつまでも同じ地点に留まっておらずに、さっとその場を退避する。
斯波さんの攻撃は外れてしまったが、斯波さんは地面へと復帰した。
「相手が素早くて中々攻撃が当たらないな」
斯波さんが苦い顔をして槍を構えている。
ここまで激しい戦闘をしているのにお互いにダメージはない。
4人を相手にここまで立ち回れているのはそれだけウェアウルフが速いことの証左であろう。
「ここは俺が必殺技でぶちのめしてやりますよ!」
幸弥が刀を持ち、得意気な顔をしている。大悟さんに魔法を催促するように視線を向けているが、大悟さんは首を横に振った。
「相手は素早い。魔法を撃っても当たらなければ意味がない。むやみに消耗するわけにはいかないよ」
魔法を使うのにもエネルギーが必要である。そのエネルギーを無駄遣いするといざという時に魔法が使えなくなることを意味する。
大悟さんが魔法を撃っていないのは、わずかなチャンスを無駄にしないようにするためだろう。
「そ、そんな……じゃあ、どうすれば……」
幸弥が途方に暮れてしまっている。前衛で戦っている幸弥からするとかなりしんどい相手だろう。
幸弥の必殺技はたしかにすさまじい威力はあるもののそれも当たらなければ意味がない。
結局のところ、素早いウェアウルフに翻弄されるままなにもできていないのが現状である。
:シャドウスターズがこんなモンスター1匹相手に苦戦しているの?
:こんなの攻撃受ける覚悟で突撃すりゃいいじゃないか
コメント欄がそんなことを言い出した。
自分たちが攻撃を受けるわけじゃないからって好き放題いいやがって。
「斯波さん。俺いってきます!」
「え? 幸弥君?」
幸弥がウェアウルフに突っ込む。そして、体勢を低くしてウェアウルフの懐に潜り込む。
幸弥はウェアウルフの腰周りをがっつりと掴んでウェアウルフを拘束した。
「捕まえた!」
「ワォオオオオン!」
ウェアウルフは幸弥の拘束から抜け出そうと暴れる。そして、爪で幸弥の背中をザクっと引っ掻いた。
「ぐっ……!」
:幸弥が攻撃くらった!
:でも、大丈夫でしょ。幸弥は前衛タイプだし
幸弥の服が裂けて、血がだらーと流れている。
見ていてとても痛々しい。前衛タイプで防御性能が高い幸弥でもウェアウルフの攻撃は痛いようである。
「くっ……なにをして……! おりゃ!」
斯波さんが幸弥に文句を言いつつもウェアウルフの喉元に槍を突き刺した。
「ぐぅう!」
ウェアウルフは致命的なダメージを受ける。でも、まだ死んだわけではない。
止めと言わんばかりに大悟さんが雷の魔法をウェアウルフに向けて放つ。
「これで終わりだ!」
大悟さんの魔法によって、ウェアウルフはビリビリに感電して息絶えた。
「はぁはぁ……」
背中から血を垂れ流している幸弥。息を切らしていて片膝をついている。
「幸弥君! 無茶しすぎだ」
斯波さんが包帯で幸弥の応急手当てをしている。
「す、すみません」
「別にそんな無茶をしなくても倒せた相手だ。ウェアウルフは素早いが体力はそこまでない。長期戦に持ち込めばいずれ攻撃は当たっていた」
「そ、そうなんですか……?」
割と正攻法で倒せる相手だった。ただ、こちら側の体力も相応に持っていかれるので厄介な相手であることには変わりなかったようである。
「全く。無茶してくれる」
「斯波君。幸弥君の調子で先に進むのは無理そうだ。今日の探索はここで切り上げよう」
「ああ。そうだな」
幸弥の応急手当を終えた後にみんなはダンジョンから出ることになった。
これにて配信は終了した。
:今回はあんまり連携取れなかったね
:攻略法を知っていれば幸弥も無茶なことをしなかったかも?
◇
配信終了後、幸弥は病院に行って治療を受けた。
医者からすれば数日で治るほどの怪我とのことだ。背中が結構ぱっくりと行かれているような気がしたけど……
やはり、ダンジョン配信者はダンジョンの魔力の影響によって体が頑丈にできているのだろうか。
まあ、幸弥が完治するまで休ませておくことにしよう。
それから数日が経過した。そろそろ怪我の調子も良くなってくるころだと思う。
俺は幸弥に電話をかけてみた。
「幸弥? 調子はどうだ?」
「ああ、瑛人君。傷は塞がっているんだけどね」
「おお、それは良かったな。復帰できそうか?」
これは朗報である。やはり、体、命、それがなによりも大事なことだ。
幸弥が無事に回復してくれるならそれでいい。
「うん。俺もすぐに復帰したいんだけどね。ちょっと今、熱っぽくて……風邪ひいたみたい」
「お、おい。大丈夫かよ。ちゃんと病院に行ったか?」
「うーん。このまま寝ていれば治るような気もするけれど」
なんかどうも心配だな。幸弥は案外無茶なことをする性格だ。
「ちなみに幸弥。今は何度あるんだ?」
「さっき測った時は38.7度かな」
「結構あるじゃねえか。ただの風邪じゃないだろ。さっさと病院に行け」
でも、結構熱がある割には幸弥もそんな辛そうにはしていないんだよな。
風邪の割には声に張りがある。喉に来るタイプではないのだろうか。
「とにかく幸弥。みんなお前が復帰するのを待っている。早く元気な姿を見せられるようにゆっくりと休んで風邪くらい治せ」
「ゆっくりするのか、早くするのかどっちなの」
「何事もほどほどにしておけよ。それと病院にちゃんと行け」
「はーい」
ここまで念押ししておけば大丈夫だろう。
数日で幸弥が復帰できるかと思ったら、まだ復帰には時間がかかりそうだ。
まあ、でも病気ならば仕方ない。体調不良ばかりはどうにもならないからな。
万全に体調を整えた状態でないとダンジョンで不調を起こしたら、それが死につながりかねない。
自己管理が甘いから体調不良になるという意見もあるが、自己管理を徹底しても体質的に風邪をひく人はどうしてもいるからな。
そこを責めても仕方ないだろう。
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