第4話 斯波と会議
俺は会議室をレンタルして斯波さんと一緒に今後のことについて話し合うことにした。
「まずは、ダンジョン配信者のサポートとして必要なことを斯波さん目線で教えて欲しいです」
「なるほど。サポートに必要なことですか。ふむ……」
斯波さんはなにやら考え込んでいる。
「今の話でなくても大丈夫です。駆け出し時代にこんなサポートがあれば助かったのにとかそういうのがあれば……」
「まあ、結局のところダンジョンは強い者が生き残るのではなくて、生き残った者が正義な部分はありますからね。強くても知識や準備、物資等が不足していれば死に直結してしまいます」
「なるほど……知識と準備と物資……駆け出しのダンジョン配信者にはどれも難しそうなものですね」
「ええ。自分は強いからと驕ってダンジョンに潜ってそれらが足りずに死んでいく人もなかにはいるでしょう。生き残れば優秀なダンジョン配信者になれるような人間もいるにはいたかもしれません」
斯波さんの話を聞いているとダンジョン配信者も命がけの仕事なんだなと思ってしまう。決して華やかなだけではない。俺の父さんと母さんは、そうして失われる命を少しでも救おうとしていたんだ。
「ということはそれらをサポートすれば、ダンジョン配信者が集まってくるってことですかね」
「駆け出しのダンジョン配信者はそうでしょうけど、それらを全て自分でまかなえる中堅層以上の集まりは難しいと思います」
「中堅層以上を集めるにはどうすれば良いと思いますか?」
なんだか質問ばかりして申し訳ないけれど、俺も社会人経験がほとんどないクソガキなもので何のアイディアも浮かばない。
「……これはあくまでも私個人の考えですけれど、人間というものはネームバリューに弱いというもの。瑛人さんの事務所が今後活躍して名を上げれば、中堅層以上も集まってくると思います」
「と言うと……?」
「この事務所に所属するだけのメリットを提示できるようにする。ダンジョン配信者は目立ちたがりやが多いんです。だったら、有名な事務所には入れれば目立てると考える人がいるでしょう。後は、やっぱり面倒な事務手続きをしてくれるのもありがたいかなと」
「事務手続き……」
「稼げるようになるってことは、それだけ面倒な手続きが増えるということです。税金関係とかが特にそうですね。それとダンジョンの情報も集めるのに苦労します。そうした情報も事務所内で共有できれば強いと思います」
「なるほど……」
なんだか頭が痛くなってきた。それらを全部やろうとすると裏方の人員も俺1人ではとてもじゃないけれど足りない。ダンジョン配信者を集めるんじゃなくて、裏方もある程度集めないといけないな。
金さえ出せば後はそれでいいものかと思ったけれど、意外と頭を使う。これが経営ってやつか。優秀な人材の確保。どうすれば良いんだ。
斯波さんを確保できたのは大きいけれど、これがまたうまくいくとは限らない。
「瑛人さん。私は思うところがあります。瑛人さんはもしかして近道をしようとしていませんか?」
「近道?」
「ええ。失礼な話ですけれど、瑛人さんは最初から優秀な人材を求めすぎているような気がします」
「それのなにがいけないんですか? 不出来な人間よりも優秀な人間を雇った方が早いでしょう」
「それはそうなんですが、人を育てる。それが経営にとって大切なことだと私は思うんです」
「……? 人を育てる?」
「私がここまで生き残れたのも実は影野夫妻のお陰なのです。影野夫妻は私に応急手当の仕方を教えてくれた。それのお陰で命を救われたこともありました。つまり、私は影野夫妻に育てられたからこそ、ここまでの成果をあげることができたのです」
「斯波さんにもそういう時代があったんですね」
「私だけではなくて、誰にだって力が及ばない時期はあるんです。だから、瑛人さん。最初は優秀な人材を求めすぎてはいけません。将来性がある駆け出しの人物を狙いましょう」
「駆け出しですか……知識も準備も物資も足りていないという……」
「ええ。知識は私が教えます。準備や物資は瑛人さんの資金力でサポートできるでしょう。それは駆け出しのダンジョン配信者にとってありがたいことですから」
斯波さんが俺の手を掴んだ。
「私は瑛人さんと共に行くと決めました。失礼ですが、瑛人さんはまだまだ経営者としては未熟。しかし、可能性は秘めている。ですから、私はその成長を見守ろうとも思っています」
「可能性を秘めている……!」
なんかそう言われると俺もやれそうな気がしてきた。1度は落ちこぼれた俺でもまた立ち直れるんだろうか。
「あ、そうだ。斯波さん。ついでに
「そうですね。大体は実際にサバイバルを想定したものをが良いかと思われます。例えば、まず必要なのは食料と水。ナイフやライターなんかもあると便利です。後は方位磁石ですが、ダンジョン内は地球とは違う磁場が発生していて方位磁石が滅茶苦茶になることがあります。しかし、それと同時にダンジョンに立ち込めている魔力を元に方角を参照できる方位磁石というものが開発されているのでそれを持っていくと良いでしょう」
「そんな方位磁石があるんですか?」
「ええ。特に駆け出しのダンジョン配信者だとそれを知らずに普通の方位磁石を持って、方向感覚を失って力尽きるなんて例もありますから」
たしかに。そこは知識にも密接にかかわる部分である。
「それにしてもダンジョンって不思議なところですね。地球とは異なる磁場をしているということは、やはり入口の印に触れると地球の外に飛ばされるってことなんでしょうか」
「そこまでは私にもわかりません。ですが、人間は地球上の全てを探索しているわけではないのです。もしかしたら、地球のどこかには磁場も滅茶苦茶で、魔物が
ダンジョンについての詳細な情報は専門家に解明してもらうしかないか。俺みたいな素人がいくら考えても答えなんて出ないしな。
「後は、意外とあると便利なのはホイッスルですね。ホイッスルを吹けば、周りのダンジョン配信者仲間に自分がここにいると伝えることができます。いわゆる救助要請ですね。その音を聞いたダンジョン配信者は音を頼りに救助をしてくれるかもしれません。ライブ配信用の機材が壊れてかつ、身動きが取れない状況だとこれがあるのとないのとでは生存率に大きくかかわるでしょう」
「あ、そっか。配信用の機材が壊れることも考慮しないといけないのか……」
「ええ。配信用の機材が動いていれば、それで全世界に助けを求められますが、そうでない場合もあります。それに現在攻略中のダンジョン配信者が他の人の配信を見る余裕なんてないので、1番近くの人に救助を要請できるのは大きいでしょう」
考えることが多いな。常に最悪の事態を想定して動けってことか。
「斯波さん。今日はありがとうございました」
「いえいえ。私で役に立てることがあれば、いつでも相談してください。私は瑛人さん。あなたに素質を感じているのですから」
「……どうして私に素質を感じてくれているのですか?」
「あなたはまだ若い。それなのに、ダンジョン配信者の事務所を立ち上げようだなんて普通は思わない。その行動力は十分、能力として値すると思います」
「そ、そんなこと言われても……」
俺は頭をかきながら照れてしまった。本当はただ単に成り行きでこうなっただけなのに。
「瑛人さん。私はあなたを一人前に育てあげてみたいんです。それが影野夫妻に対する恩返しにもつながりますから」
斯波さんにここまで良くしてもらえて俺は逆に申し訳ない気持ちになってきた。斯波さんが恩を感じているのは父さんと母さんであって、俺ではない。俺はただ、息子というだけである。
俺はまだまだ父さんと母さんの庇護がなければ生きてはいけないというわけか。いつか一人前になって、義理ではなくて、実力で斯波さんをついてこさせるくらいの器になりたい。いや、なるんだ!
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