第10話 新武器の発注と交渉準備
「……あ、斯波君じゃないか。こんなところで遭うなんてな」
金髪の青年が斯波さんに気づくとニカっと笑って斯波さんに近づいてくる。どうやら斯波さんと知り合いらしい。
「
:まさかのコラボ?
:このダンジョンに強者が集まりすぎている
コメント欄を見るにこの人も斯波さんと同等クラスの有名人のようだ。俺は引きこもっていた期間はダンジョン配信を見てないから最新のトレンドとかそういうのは少し疎い状態だけど。
「あ、ほ、本当だ! あ、あの大悟さんだ! すげえ! こんなところで遭えるなんて!」
幸弥も興奮気味に大悟さんに話しかけている。大悟さんも人当たりが良さそうに笑う。
「やあ。君が斯波君の後輩かい? なんでも事務所を立ち上げたとかどうとか」
「あ、はい。斯波さんには助けられています」
大悟さんにもうちの事務所の情報は流れているようである。まあ、斯波さんが入ってくれたおかげでウチの知名度が爆上がりしたんだけど。
「大悟君はもう少し探索を続けるつもりかい?」
「いや。そろそろ俺はそろそろ切り上げようかなと思っていたところかな。結構、配信時間も伸びているし」
「そっか。もし良かったら一緒に探索しようかと思ったけれど残念だ」
斯波さんは大悟さんを誘おうとしていた。さっきのトカゲのモンスターとの戦いで大悟さんの実力はわかった。彼はかなりの使い手である。その使い手と対等に接することができるなんて斯波さんはすごいな。
本当によく斯波さんという人材を確保できたかと思うと……彼がいなければ事務所そのものが成り立たないレベルだ。
「あ、あの! 大悟さん! えっと……すごいですね! 魔法!」
「ん? ああ。まあ、別に俺はダンジョンの魔力を吸収しやすい体質だから強力な魔法が撃ちやすいだけだよ」
斯波さんが言っていたことだ。人間はダンジョンに漂っている魔力を吸収することができる。その吸収効率は人によって異なると。吸収効率が良ければ、魔法を撃てる回数や強力な魔法を撃てるようになる。逆に吸収効率が悪くても、体が頑丈になるという補正がかかるから、吸収効率が悪いからと言って悲観することもない。
「えっと……俺、いつか大悟さんみたいに強くなるから、その時はコラボとかお願いします!」
幸弥が大悟さんに厚かましいお願いをしている。大悟さんはきょとんとした顔をした後にニッコリと微笑んだ。
「ああ。そうだね。その時がきたらコラボをしようか。それじゃあ、俺はそろそろ行くね」
大悟さんはそう言い残してダンジョンの奥へと進んでいった。恐らくはその先に彼が付けた”印”があるのであろう。
「は、はあ……緊張した。お、俺変なこと言ってないですよね?」
「まあ、いきなりコラボ要請する胆力はすごいと思ったけどね」
「あ、あれは……その、すみません。ちょっと調子に乗りすぎました」
「僕に謝っても仕方ないでしょ。まあ、大悟君も結構気のいい奴だからそういうところは気にしてないと思う」
:確かに幸弥は身の程知らなくて草
:あのクラスにコラボ持ちかけるとか
:斯波さんと組めているから感覚麻痺してんのかな?
「うっ……わかっているよ! 俺だって、斯波さんと組めているから調子に乗っちゃったってこと。本当は俺みたいな初心者が近づけるような相手じゃない。でも、許してくれよ。斯波さんと組めたら誰でもこういう風に勘違いしちゃうって」
:しゃーない。許した
:これから強くなればええんやで
:やさしいせかい
:やさいせいかつ
大悟さんと別れた後に斯波さんと幸弥は探索を続けた。モンスターを倒したり、罠を解除したり、宝箱を入手したり、配信としても中々に見ごたえがあるものだった。
「よし、そろそろ帰ろうか」
「はい」
斯波さんと幸弥は前回、印を付けた位置に戻ってダンジョンから帰還した。今回も無事に帰還したようでなによりである。
配信終了後、俺は幸弥とまたコンタクトを取り、今後のことについて話し合うことにした。
「あーあ。もっとダンジョンの奥深くを探索したいな」
「幸弥。それは無謀というものだ。いくら斯波さんが付いているからと言って無茶なことはしないでくれ」
ダンジョンは奥深くに行けば行くほどモンスターが強くなる傾向がある。今はまだ浅層だからそこまで強いモンスターは出てないけど、これが深層にもなるとそれこそドラゴンクラスのモンスターが出てもおかしくない。
「でも、大悟さんは帰る時に奥に行った。それは拠点は奥の方にあるってことだよね」
「まあ、そうなるな。でも、初心者の幸弥とベテランの大悟さんを比べても仕方なくないか?」
「う、うーん……そうだ! 瑛人君! 大悟さんをウチの事務所に引き入れるってのはどうかな?」
「は、はあ!?」
こいつはなにを言っているんだ。そんなことできるわけないだろ。
「だって、斯波さんを引き入れた交渉能力を瑛人君は持っているわけでしょ? 大悟さんもいけないかな?」
「交渉能力と言っても……斯波さんを引き抜けたのは俺の運が良かっただけと言うか」
「今回も運でいけそうじゃない? 瑛人君の強運を信じるんだ!」
強運なやつはこの歳で両親を亡くさないと思うけれど……
「しかしなあ……」
「やるだけやってみようよ。勧誘するだけならタダだし」
「あ、あー。まあ、それもそうか」
もし、交渉が決裂しても、配信者と直接交渉することによって、俺の中の交渉スキルが上がるかもしれない。
幸弥たちばかりに成長を望んでも仕方ない。俺も幸弥たちがダンジョン攻略しやすいようにサポートする立場だ。そのサポート能力を高めないでどうする。
「わかった。とりあえず、なんとかコンタクト自体は取ってみることにしよう」
「さすが! よ! 社長!」
幸弥が調子よく俺を持ち上げてきた。でも、ここはあえて担がれてやるか。
「あ、そうだ。幸弥。素材もそろそろ集まってきたことだし、そろそろお前の装備を作ろうと思う。どんな装備が良いか。リクエストを聞いても良いか?」
幸弥は現在、石でできた斧を装備している。そろそろダンジョンの素材を作った装備に切り替えても良い頃だろう。
斯波さんはダンジョンで手に入れた素材で作った槍を装備している。その辺のバランスを考えて使用する武器を決めたいところだ。
「そりゃ、やっぱり! 刀でしょ! 刀!」
あー。こいつ、修学旅行で木刀とか買ってそうなタイプだもんな。刀とか好きそうだ。確かに。
「今の素材で刀を作れるかわからない。だから第2希望も一応聞いてみてもいいか?」
「んー。刀がダメだったらなににしようかな。なにがかっこいいか……うーん」
「かっこよさで決めるなよ。もっとこう、利便性とかそういうのがあるだろ」
「やっぱり、剣の系統が良いかな! ごっつい大剣でもレイピアとかでも全然いいよ」
「わかった。じゃあ、剣を作るように依頼しておく。それじゃあ、今回の素材も預かっておくぞ」
「はーい」
こうして、俺は幸弥の装備を作るために発注をかけた。武器を作るのにもしばらく時間はかかる。それまでは幸弥には石斧でガマンしてもらうしかない。
それから、幸弥と斯波さんは数回ダンジョンに潜った。武器が出来上がってないからと言って、遊ばせておくわけにはいかない。
遊ばせるわけにはいかないと言えば、俺も幸弥の武器が出来上がる前にやらなければならないことがある。
それは大悟さんへのコンタクトだ。一応は、俺も同業者ということになるのだから、何かしらの方法でコンタクトは取りやすいはずだ。
大悟さんが俺たちの仲間になってくれるかはわからない。でも、ダメ元でもなんでもやってみないことには始まらないんだ。
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