第43話 vs 光の使徒⑫ 最終決戦-序章-
「オーブ!」
声に振り向いた先にいたのは、リエルにもたれかかっているルクだ。
「ルク、もう大丈夫なのか?」
「ああ。そんなことより、聖霊魔法について言いたいことがあるんだ。」
俺は、ルクからそのことを切り出されたことに驚いた。
聖霊族のことで、基本的に人間を信用しないルクがここで聖霊魔法のことを言うことはないと考えていたからだ。
それだけ、俺の家族を信じてくれているということだろう。
「どうした?」
「お前のことだ。まだ聖霊魔法の全力を出していないだろう?」
心臓の動きが速くなるのを感じた。
図星を突かれたのだ。
「ふっ、お前わかりやすいな。聖霊魔法は、いわば聖霊族全員の命の総量と直結する。つまり、もう使える総量は決まっている。俺とリエルが聖霊魔法を控えることで、オーブが使えるようになった。」
「だが」とルクは、下唇を噛んで続けた。
「お前は、里で使われているライフラインのために、まだ聖霊魔法を総量いっぱい使っていないだろ?」
俺は俯いた。
そうだ。
俺は、全力を出せと言われても、里のみんなの生活を気にしていたのだ。
俺が聖霊魔法を、最大出力で出せば、里のみんなには不便を強いることになる。
これは俺の復讐だ。
最低限、みんなの生活は保障しなければならない。
それが、族長としての覚悟だと思っていた。
「何勘違いしてんだ! あの時のみんなから受け取った”願い”を忘れたのか!? この復讐は、お前1人の物語じゃねぇ! 俺たち聖霊族の物語でもあるんだ。1人で勝手に背負い込もうとしてんじゃねぇぞ!」
くっ、とルクは腹を抑える。
まだ腹が痛むようだ。
無理も無い、腹に重傷をした奴の声量じゃない。
「そうだよ、オーブ! オーブ1人に任せっきりで申し訳ないと思うけど、それだけみんなオーブのこと信頼してるし、オーブならきっと達成できると思ったから、族長を任せたんだよ!」
ルクの様子を見て、リエルも声を荒げた。
「それによぉ、オーブ。お前には伝えてなかったが、元族長から聞いたんだ。元族長は、里で聖霊魔法の使用を控えていただろ?」
「あれは、族長の老いが原因だったんじゃ?」
「それもあるだろうが、本当の目的は、そこじゃない。里のみんなが、聖霊魔法に頼らずに自らの力で生活できるように訓練することも考えてのことなんだよ。」
「そうだったのか....」
「だから、みんなお前が心配するほど、柔じゃねぇってことだ。」
「聖霊魔法の全力を見せてくれ。そして勝ってくれ、オーブ!
こんなルクの表情は初めて見た。
誇り高き戦士であるルクの表情は、いつも冷静かつ的確な判断ができる雰囲気を纏っていた。
自分の感情を表情から読み取ることはもってのほかだ。
だが、今しているルクの表情は、感情を全面に出し、俺のことを頼りにしてくれているのが分かる。
「ルク、リエル.....。みんなにこれだけ心配されるなんて、族長として、失格だな.....。」
「オーブ.....」
「だから、この戦いで、あいつをぶっ倒して、もう一度族長として頼ってもらえるように勝ってみせるよ。だから、見ていてくれ」
胸が高鳴る。
心臓の鼓動がうるさい。
全身を流れる血流が速くなるのを感じる。
もう負けられない。
「決着をつけてくる」
そう言い残して、戦いの渦中へ飛び込んでいった。
◆◆◆
「君がこの物語の主人公なのかな? 主人公というやつは、大変だよなぁ。勝てるはずもない強敵を相手にさせられる。」
リュミエールは、手から光を出して防具を出しながら言った。
手、腕、肩と順番に防具をつけていく。
黄金の鎧だが、召喚した戦士がつけている防具とは一味違うのが見てわかる。
「だが、この物語の主人公は僕だ。天に選ばれたのは僕だからな! 君じゃない! ここで君の能力が覚醒して、僕が負けるという展開はあり得ない!」
「お前が主人公でも構わないさ。お前の物語、俺たちの物語、そのどちらの想いが強いかで勝者が決まる。それだけだろ」
「それに、俺は、俺たちは、復讐を誓ったあの時から、この世界の敵になる覚悟で突き進んできた。その覚悟は、この戦いで本物になった。もう後には引けないし、俺は負けるわけにはいかない。」
「”想い”.....? そんなもの、戦いの場において何の意味も持たない。」
リュミエールの足元が光、つま先まで防具の装着が完了した。
「命の奪い合いをする戦場において、意味があるのは純粋な”力”のみだ。それ以外の要素は邪念にすぎない。」
リュミエールは光の剣を手元に出した。
「それを、はっきりと分からせてやるよ。」
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