第28話 vs【真紅十字団】③ 参戦

 足元に血飛沫が飛んだ。


 目の前がチカチカする。

 今目の当たりにしている状況を飲み込めないでいるのだ。



「嫌......。イヤアァァァ!!」


 目の前でルクが倒れた。


 ――私のせいだ。


 ルクは、私を庇って――。



 頭がクラクラする。

 ブリックへの怒りよりも、自分への怒りと情けなさが頭と心を支配する。


 ――どうして、こんな――――



「ハハハ、良い顔するじゃない!」

 私の歪んだ顔を見て、ブリックは笑い飛ばした。



「そうよ! アンタが弱いから、この男は死んだ!」

 ブリックは、足元に倒れているルクを踏みつけた。



「弱い奴は何をされても、泣くことしかできない! 逆に、強ければ何をしても許される! これがこの世界なのよ!」

 ルクに乗せている足を転がした反動で、ルクの体が転がった。


 前に道ができたブリックは、レイピアを肩に乗せて、こちらに向かって歩く。


「でも、安心して。どうせ全員死ぬことに変わりはないんだから、アンタもすぐに同じところに行かせてあげる!」

 そう言うと、ブリックは地面を蹴り、私に向かって直進した。



 レイピアを突き出して距離を詰める。



 あぁ、もうダメだ――。


 私に、対抗する力はない。



 ごめんね、ルク、オーブ――――。


 私は目を瞑り、覚悟を決めた。



 その時。







――――ドォォォォン!!!





 何かが爆発したような轟音と、視界を覆う砂煙が巻き荒れた。




◆◆◆




 アバンに言われた通り、ルク・リエルとブリックが戦っている方向へ目を向けると、俺は息を呑んだ。


 そこには、ブリックの前で、ルクの膝が折れ、床に跪いている光景があったのだ。


 ブリックは、ジリジリと焦らすように、歩いてリエルの元へ距離を詰め始めた。


 今すぐ助けに向かわないと――!


「リエル! 今行く!」

 俺は、アバンに背を向けて、リエルの方へ地面を蹴った。


 しかし。


「おっと、邪魔はさせねぇぜ。」



――ギィン!


 剣がぶつかり合う音が響く。


「邪魔すんじゃねぇ!」


「はは、無理言うな。安心しろ、お前もすぐにあのお仲間の元へ送ってやるよ!」


 ギチギチと剣が音を鳴らす。

 だが、前に進めない――。



「クッ、クッソー! 逃げろ! リエル!」

 歯が軋む音を立てて、リエルへ叫んだ。



 ――だが、届かない。



 もっと、俺が強ければ、アバンを倒して加勢に行けたのではないか。



 もっと、計画を練っておけば、危険を犯さずに目標を殺せたのではないか。



 もっと、族長としての俺の力が強ければ、ルクはやられることはなかったんじゃないか?


 そうすれば、リエルが――。



 もっと――――。



 頭を邪念がよぎる。


 今考えるべきではない。


 どうすれば、救える?


 邪念を取り払うかのように、もう一度叫んだ。



「クッッッッソォォォォーーーーー!」


 その時だ。






――――ドォォォォン!!!





「クッ?! 何!?」

 ブリックだ。窓の方向へ向いて言った。


 爆風と爆音は部屋中に届き、全員が音の方向に集中する。




――――何が起きた? 敵襲か? それとも援軍か――





「クッ?!!」

 ブリックが後方へ大きく下がった。


 姿勢は低く、いつでも襲い掛かれる体制でレイピアを構えた。



「どうした! ブリック!」

 後退したブリックに対して、アバンが声を荒げた。

 その声、息遣いからして焦りが見える。


「ヤバい....ヤバいのがいる.....!」

 焦りを覚えているのは、ブリックも同じようだ。




――ガコンッ!


 砂煙の中から、床から何かを引き抜いたような音が聞こえて来た。

 俺も目を凝らしてみる。


 砂煙の中で黒い影が動いたような――――。



――ブォォーーーン!!


 風を切る爆音と、とてつもない突風に目を閉じた。

 閉じざるを得なかった。



 何が起きた?



 目をじっくりと開ける。

 そこに何が立っているのか、それを迎え入れる心の準備をしながら。




「すまない。遅くなってしまったようだな。」


 飛び込んでくる光景よりも先に、声が聞こえて来た。


 その声は、聞いたことのある声で、心から安心できる声だった。




「姉さん!」

 俺は、思わず叫んだ。



 皆が突風を起こした本人を見る。


 そこには、黒の大剣を肩に担いだ、赤毛の女性が立っている。



「お前は......S級冒険者のラージュ! なぜここにいる!」

 アバンも目を見開いて叫んだ。


「S級だと.....?! クッ、厄介な!」

 ブリックは、さらに攻撃体制を整える。



「んー」

 ラージュは、辺りを見渡す。


 怯えた表情で立ち尽くしているリエル。

 その前で倒れているルク。

 交戦中の俺。


 十字架のマークが印された真紅のマントを被った2人。


 それぞれに目を滑らせた。


 その時間は、体感にして数分に感じた。


 だが、その間に動き攻撃を仕掛ける者はいなかった。

 ラージュの視界を遮って攻撃を仕掛けようものなら、すぐに死地と化す威圧感があったのだ。



「分かった」

 ラージュが、一通り状況の把握を終えて、一言つぶやいた。



「ルクとリエルは、私が守る。だから、本気でやりな! オーブ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る