第27話 vs【真紅十字団】② 犠牲
――バチィィンン!!
剣と剣がぶつかり、破裂音が響き渡る。
オーブとアバンの戦闘開始の合図だった。
「あっちも始まったみたいだし、私たちも始めちゃうー?」
剣先が針のように細いレイピアをくるくると回しながら、ブリックが話しかけて来た。
俺はリエルに合図を送る。
リエルは戦闘に向かないため、後方から治癒や強化の聖霊魔法をし、前線で俺が戦うという役割分担をする手筈となっていたのだ。
「ふふ、あなたが私の相手をしてくれるの?」
リエルが後方へ下がると、ブリックは微笑んだ。
「ああ、俺が相手になる。」
俺は、槍を構えて、戦闘体制を取る。
先ほどブリックの攻撃を槍で受け止めた時に、肌で感じた。
こいつは強い。
おそらく、この世界でも強者と呼ばれる存在だろう。もちろん、今まで俺が戦ってきたどんな奴よりも強者であることは間違いない。
だが、俺は勝利を諦めたわけではない。
むしろ自分の力がこの世界でどれほど通用するのか、それを確かめる良い機会だと考えていた。
「ふふっ、いいわね。あなたイケメンだし、ちょっとは楽しめそうね。」
レイピアを振り下ろし、脱力した体制を取る。
それが、ブリックの戦闘体制であることは、その姿勢へ移行する無駄のなさや目から分かった。
「私は、ジリジリ間合いを読んだりするの嫌いだから――――、イっちゃうわねぇ!!」
そう言うと同時に、ブリックはレイピアを突き刺すように、一瞬にして距離を詰めた。
――速い!
だが、反応はできる。
――キィィン!!
レイピアが突き刺さる音が響いた。
突き刺さったのは、俺の槍だ。
「へぇ〜これを防御できるなんて大したもんねぇ!」
そう言いながら、ブリックのレイピアは次の攻撃準備へと動いている。
「まぁだまだ、これからよぉ!」
――キィン!!
――キィン!!
――キィン!!
レイピアの猛撃が襲いかかって来た。
槍を持つ角度を変えて、レイピアを防ぐ。
反撃の機会を伺うも、一撃で決めるつもりなど毛頭ない連撃に防戦一方になる。
何より恐ろしいのは、攻撃を繰り出すブリックの表情だ。
一般的に戦闘の時の感情は、「怒」や「哀」のはずだ。
しかし、ちらちらと見えるブリックの表情から読み取れる感情は、「喜」や「楽」だった。
まるで、一撃一撃をちゃんと防げるか、こちらを試しているかのような気さえしてくる。
「どうしたのー? さっきまでの勢いは! もっと私を楽しませて!」
ブリックは声色を楽しませて、煽ってきた。
「くっ! 舐めるなぁ!」
俺は、レイピアの一撃に合わせて、槍を振り抜いた。
――キュィン!!
槍からの攻撃を回避するように、後退した。
そのタイミングを逃すことなく、リエルが聖霊魔法をかける。
「
リエルが両手を光らせて、俺に向けて聖霊の力を送った。
リエルから放たれた光は、俺の疲労を回復した。
ブリックのレイピアは、まだ体に当たっていないため、体に直接の害は出ていないが、全ての攻撃を防ぎきるために体力が削られていた。
これは助かる。
立て続けに、リエルは聖霊魔法を発動させる。
「
今度は白光りしたリエルの手から、俺に力が送り込まれる。
――力が溢れてくるのを感じた。
治癒に続いて強化の聖霊魔法を使ってくれたようだ。
「んー、なんか聞いたことない魔法だなぁ。もしかして厄介なのは、君の方なのかなぁ?」
ブリックはレイピアを、リエルに向けた。
「させるかよ。お前の相手は俺だ」
リエルとの間を遮る。
そして、射程圏内まで踏み込み、槍を突きつけた。
レイピアでいなされ、体を捻って回避される。
だが、お構いなしだ。
「ちぃ! 強化魔法か!」
ブリックは、槍を避けながら、舌打ちをした。
――キン!
俺の槍は、ブリックを捉えつつあった。
ブリックの回避は、槍を避けられなくなってきたのだ。
あれだけの連撃をした後だ、体力的に疲労が溜まっていてもおかしく無い。
それでも、レイピアでうまくいなしつつ、直撃はうまく避けており、技術の高さが窺われる。
やはり、こいつは強者だ。
だが、元々2対1の構図。
速くケリをつけて、オーブの助けに入ろう。
そうすれば、あの逃げた2人を探し出すことも容易になるだろう。
――これでとどめだ――――
そう言おうとした瞬間。
俺は、聖霊魔法を繰り出そうと槍を少し、ほんの少しだけ大振りに構えた。
その瞬間、ブリックの挙動が変わった。
今まで対峙していたのとは、全く違う方向へ走り出したのだ。
何をしている?
もうお前に逆転の機会は――
思考を巡らせつつ、ブリックが向かった先に目線を滑らせる。
――しまった?!
キャハハと笑い声をあげて、ブリックは、リエルの方向へ突進したのだ。
「アンタが邪魔なのねぇ! それに私! 女だからって、前に出て戦わないアンタみたいな奴、大嫌いなんだよねぇええ!!」
ブリックが突き出したレイピアは、真っ直ぐにリエルへ向かっていた。
「死んじゃえ!!」
ブリックは奇声を上げて、レイピアを突き刺した。
――ブスン
必死だった。
リエルを失えば、オーブにどれだけ怒られるのか。
里のみんなに、なんて言えば良いのか。
――リエルより先に逝くべきなのは、俺だろう。
レイピアが突き刺さった衝撃で、多少の血飛沫が出た。
その血飛沫を浴びたのは、リエルだった。
「ぐほッ」
俺は、腹に異物を感じた。
と同時に、安堵した。
良かった、守ることができて――
「嫌......」
少し遠くに見えるリエルは、口元を押さえているのが見えた。
「チッ! まぁ良いか。先に殺してあげる!」
そう言った瞬間、ブリックの持つレイピアが熱を帯びた。
腹の中に熱を感じたと思った、その瞬間――
――ドォォン!!
「グハァ?!」
口から込み上げてくる血反吐を吐いた。
腹に突き刺さっていたレイピアから、火柱が立ったのである。
俺は膝から崩れ落ちた。
そして、目の前が真っ暗になった。
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