第26話 vs【真紅十字団】① 拮抗

「血が沸き立つぜ! お前に付いて来てよかったゼ!」

 火の聖霊、サラマンダーさんは不適な笑みを浮かべる。


 普段から気だるそうな表情をしていて、ノームさんやシルフさんほど協力的ではなかった。


 その原因は、サラマンダーさんが、お調子者だからだと考えていた。


 だが、今この瞬間、サラマンダーさんはただのお調子者ではなく、戦う相手が強いかどうか、戦うに値する者かどうかを見極めていたからだったのだ。




「サラマンダーさんが、戦うに値する相手と認めたんだね」

「アァ、アイツはヤベェぜ! アイツらの強さがビンビン感じるからヨォ、これほどヒリヒリして熱くなる状況は初めてだからヨォ、今えげつないくらいに昂ってるんだワァァ!!」



――ゴツン、ガッ、ガッ、ガギン


 ノームさんが力を発動させた。

 岩がぶつかり合い、重なり合う音が響く。


 右腕に持つ岩でできた剣と、右腕に肩から手にかけて岩で鎧が出来上がっていく。


 その上に、サラマンダーさんが炎を纏わせた。



 【炎岩の鎧】ヴォルカニックガーディアン



 岩を通して、少しだけ肌が焼かれる感覚を覚えた。

 きっと、サラマンダーさんのやる気と炎の火力は比例しているのだろう。


 そして、腕で燃え上がっている炎は、右手に持つ剣にまで伝播していく。



【炎岩の剣】ヴォルカニックソード

 俺は、つぶやいた。

 あいつの、炎で纏われた剣に対抗するための技の名だ。



「ほう、少しは楽しめそうだな。」

 アバンは、剣先の炎の火力を強めた。



 表情が硬くなり、姿勢が低くなる。


 言葉はない。


 炎だけがメラメラと燃えていて、俺たちの戦う意思を表しているようだ。



 緊張が張り詰めた。

 パンパンに膨れ上がった風船のように。




 ――その緊張が、今、解かれた。




「フゥン!!」

 俺とアバンは同時に駆け出した。



 ――バチィィンン!!


 剣と剣がぶつかり合う音ではない。

 力と力がぶつかり合った音がした。


 俺の振り下ろした剣は、アバンの剣によって受け止められた。


 衝撃によって、小さな岩の破片が飛び散る。


 だが、剣の綻びは、すぐに修復されていた。

 ノームさんの力で剣を作る場合、体の鎧を減らし、剣の綻びをすぐに修復するために力を使う必要がある。


 剣がすぐに元に戻った姿を見て安堵し、感謝した。

 ――これで思う存分、戦うことができる。



 ギチギチと鳴りあう剣を弾き、再び振り上げ、思い切り叩きつける。


 ――バチィィンン!!


 アバンに受け止められる。


 だが、止まらない。


 また。

 もう一度。

 さらに一度。


 右から、上から、左から、振り下ろして、叩きつけて、突いた。


「甘い、甘い。こんな短調な攻撃では私を殺せんぞ!」

 俺が出す攻撃、全てアバンに拒まれる。


 だが、関係ない。



 力と力がぶつかり合う音の感覚がどんどん短くなる。


 ――バチィィンン!!



 ――バチィィンン!!


 ――バチィィン!!


 ――バチィン!!

 ――バチン!!

 ――バチン!!

 ――バチン!!

 ――バチン!!



「くっ!」

 アバンの表情はみるみる内に渋くなっていく。


「もっと速く!!」

 俺は叫んだ。


 アバンは、俺が俺自身に言いかけたと思ってるだろう。

 だが、違う。


 シルフさんに風の力をもっと強めるように伝えたのだ。


 突風を感じる。

 シルフさんなりの返事なのだろう。



 さらに速さを増した。


 ――バチン!!

 ――ッチン!!



「ッ?! 速いッ!」


 押している、そう確信した。


 その時だ。



「――だが、速いだけだな。」

 アバンの白い歯がチラリと見えた、その時。


 ――バチン!!


 俺の剣を弾き飛ばしたアバンが、視界から消えた。


 と同時に、腹に衝撃が来た。


  ――ドスン


 鈍い音だ。


「クッ?!」

 俺は後方に飛ばされ、前を見ると、アバンは足を突き出していた。



「お前の攻撃は確かに速い。が、軽い。軽すぎる。いくらでも対策が取れる。」

 「ほら」と言って、蹴りのポーズをとる。


 俺は蹴り飛ばされたのだ。




「今度はこちらから行こうか?」

 そう言って、アバンは剣を構え、直進してきた。


 ――バチィィン!!


 アバンの剣を受け止める。


 重い――、そう思った瞬間、また一撃が迫って来ていた。


 ――バチン!!

 ――ッチン!!



「ほらほらぁ、どうしたー!」

 アバンの攻撃は加速する。


 速い――が、体はついていけている。

 対応もできる。



 だが、決めきれない。


 スピードもパワーもほぼ互角。

 使う力も炎であり、似ている。



「どうやら、私とお前は似た者同士という奴かもしれないな。2人では決着がつきにくいらしい」

 カチャンと刀剣を肩に乗せた、アバンが話す。


「じゃあ、どうするか? 潔く引き下がってくれるか?」


「いや、残念ながらそれはできない。なーに、急がなくてもあの2人の決着は付きそうだぞ?」

 アバンが向けた視線の先には、ルク・リエルとブリックが戦っている方向だ。



 ――が、その光景を見て、俺は息を呑んだ。


 ブリックの前で、ルクの膝が折れ、床に跪いていたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る