第25話 【真紅十字団】

「アバン、ブリック。あなたたちに初任務を命じます。」


「はっ。主のご期待に添えることを――」


「ふふ、そういう堅苦しい話はいいわ。みんなには内緒よ?」


 下げていた頭を上げると、そこには【真紅十字団】しんくのじゅうじだんのリーダー、フラム様が微笑んでいた。


 左が赤、右が黒というツートンカラーの長髪を靡かせて、任務の説明を始めた。



「正直、今回の任務は予想できないことが多いわ。だから、無事に帰ってきなさい。」

 フラム様は、母が子供の帰りを待つかのように優しく、そして心地よく話した。



 どれだけ、この言葉・声に救われてきたか。


 今の私たちは、フラム様の手となり足となるために生きている。

 そうしたい、そうありたいと、私たちが願っているのだ。


「ありがとうございます、フラム様」

 私たちの返答に満足した笑みを浮かべたフラム様は、最後に一言付け加えた。



「アバン、ブリック。あなたたちは、かけがえのないたった2人だけの兄弟なのです。必ず生きて帰ってきてくださいね。」




◆◆◆




「お前が、オーブだな? 悪いがここで死んでもらう。」

 涼しい顔をしたまま、ジリジリと剣先の力を強めているのが分かる。


 隣で対峙している女とルクも同じようだった。


「悪いけど、私たちの力量が試されている重要な初任務なの。フラム様にカッコ悪いところ見せるわけにもいかないしね。アンザスがクソッタレだって話は聞いたことあるけど、まぁ、私たちを恨まないでね。世界ってそんなもんだから」

 ルクと対峙しながらも、ニヤニヤ笑い饒舌に話した。



「ケッ、傭兵風情が・・! 口が過ぎるぞ」

「まぁまぁ、兄上。下民の戯言です。ささ、我らは安全な場所へ行きましょう」

 ジケルとダルクは吐き捨てるように言い捨てて、そそくさと部屋の入り口へ移動し始めた。


 ――逃がすわけにはいかない.....!

 そう思い、目の前の剣を流して、ジケルとダルクを追いかける。



「お前らの相手は後でするから、その前にこいつらだけでも――!」

 風の力に乗せて、岩でできた剣を振りかぶった。


 いくら大きな部屋とはいえ、風の力と鍛えた脚力で、一瞬で届く距離だ。


 この剣は届く、その自信は十分にあった。




 取った! ――――――そう思えた。





 ―――ギィン!!


 またしても鈍い音が響く。



 動きに無駄はなかった。最短経路、最速での移動。剣を振り抜くまでの体重移動。どれをとっても、俺の動きにミスはなかった。


 だが、剣先はジケルの目先で、炎を纏った刀剣に防がれていた。

 俺の全体重を乗せた渾身の一撃でさえ、この男は涼しい顔をして受け止めたのだ。


 ――この男の強さは、別格だ。

 身体中の血流が加速するのを感じた。本能的に、ヤバイと告げていたのだ。



 刀剣に纏っている炎が衝撃で飛び散り、その周辺に火の粉が舞った。


「熱っ! おい、私にまで火の粉がかかるではないか!」

 ジケルが、顔をしかめて怒鳴った。

 服に火の粉が飛び散ったのか、手でパタパタしている。


 その怒号を聞いた、男は涼しかった表情を一変させた。

「うるせぇぞ、豚ぁ! 貴様らのために戦ってるんじゃねぇぞ? 死にたくなければ、さっさと失せろ」


 その迫力にジケルの表情は、怯え、恐怖へと変わった。

 だが、一瞬にして、元の太々しい顔に戻る。

「クソ傭兵風情が、調子乗りやがって! この暴言についても報告させてもらうからな!」

 そう言って、ジケルとダルクはそそくさと部屋を後にした。




 キィィィン!!


 ジケルとダルクが部屋から出ていくのを見てから、俺の剣を弾いた。



「あの豚どものせいで、仕切り直しだ。せっかくだから、名乗るとしよう。私は、アバン。そして――」

 アバンと名乗る男は、黒に赤のメッシュが入った髪を掻き上げ、得意げに名を名乗った。


「私が、ブリック」

 いつの間にか、ルクとの戦線から離れて、アバンの隣まで移動していた、もう1人の女がブリックと名乗る。



「安心しろ。俺たちの任務は、あの豚どもを守ることじゃない。お前達を殺した後、あの豚どもも殺す。つまり、お前達の目的は、俺たちが果たしてやる。だから、安心して死ね。」


「なら、なぜ俺たちも殺す必要がある? 俺たちが戦う理由が分からないな」

 俺は問いかけた。



「それは簡単。フラム様――私たちの恩人がそれを望んでいるから。私たちはあの御方のために生きて、死ぬの」


「お前達の意思は?」


「ないわ」


 ブリックの言葉に迷いはない。

 それは、隣にいるアバンも同じようだ。



 交渉の余地はない、か。



「やろうぜェ、オーブヨ! こんな上玉、そうそういねェゾ!」

 脳内に、サラマンダーさんの声が聞こえる。



 ――背中からゾワゾワと昇ってくるのが分かる。 

 この感覚は初めてだ。



 だが、なんとなく分かる。


 これは、聖霊のみんなが、力を使いたくて、俺にアピールしているのだ。

 特にサラマンダーさんは、相手が強ければ強いほど戦いたくなる戦闘狂だ。


 サラマンダーさんに続いて、ノームさん、シルフさんも「いつでも準備はできている」と合図をしてくるのを感じた。


 そして、ルクとリエルも、俺の隣まで来て、戦闘体制を取る。




 こんなに強敵を目の前にしているのに、少しだけ笑えてきた。


 ――あぁ、俺は1人じゃない。



「じゃあ、やろうか」

 俺は聖霊族族長の力を使って、聖霊とリエル・ルクへ合図を送った。

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