第29話 vs【真紅十字団】④ 聖霊魔法 発動

「ルクとリエルは、私が守る。だから、本気でやりな! オーブ!」

 ラージュが叫んだ。

 そして、ニカッと白い歯を見せて笑った。


 その笑顔が嬉しかった。


 この絶望的な状況を、ラージュがいれば打開できる、そう確信めいたものが芽生えたのだ。


 何より、小さい頃から剣術の天才と言われて育った姉さんが、俺を認めてくれた。

 俺と共闘すると言ってくれたのだ。



 ――その期待に応えたい。



「あぁ....分かった! 任せろ!」


 俺は、聖霊族のみんなに流していた聖霊魔法の力を全て止めた。


 そして、俺は聖霊魔法を発動させた。




◆◆◆




 聖霊族にとって、族長には、強大な権限が与えられる。

 その一つに、聖霊魔法を使う権限がある。


 聖霊魔法は聖霊族全体で一つの力を共有しているイメージだ。

 その力を、誰にどの程度共有するかを決定する権限が族長にある。

 そして、その全体の力の総量は、族長の力と直結している。


 今までも、ルクやリエルは聖霊魔法を使ってきた。

 2人の使う聖霊魔法は強力な力を有していたし、俺もノームさんたち妖精の力を使って戦うことができた。


 だが、今のままでは勝てない。


「本気を出せ!」

 ラージュの言葉の意味、それは、俺が現時点で出せる100%の力、つまり、聖霊族が持つ全ての力を集結した聖霊魔法を使うということだ。


 ラージュは、聖霊魔法までは考えていないだろうが、俺の持つ族長の力を察知したのだろう。



 ――まったく、恐ろしい人だ。



 ルクとリエルの前に、ラージュが移動し、大剣を構えるのを見た。

 2人は、姉さんに任せておけば問題ない。

 この場にいる誰よりも強者だ。



 つまり、今この瞬間、俺は聖霊族の力の共有を止めて、自分自身で全ての力を出すことができる状況が生まれたということだ。




◆◆◆



「ノームさん、シルフさん、サラマンダーさん、ありがとう。」

 俺は、胸に手を当てて祈る。


「勝て」

 3人からの言葉はそれだけだった。

 だが、何よりも重く、何よりも温まる言葉だった。



 その言葉を聞いて、岩で作られた剣、鎧を解除して、技を発動させる。



【神の剣】ディバインソード


 右手に光り輝く剣が手に現れた。



「クッ...! 今までが本気じゃなかったってか? 笑わせてくれるぜ!」

 アバンは、炎の火力を強めて、刀剣を振りかざす。


 刀剣の軌道に合わせて、【神の剣】ディバインソードを振り上げた。


 振り上げた【神の剣】ディバインソードは空を切った――、かのように思えた。


――スパンッ


 炎を纏った剣が空を舞ったのだ。


「!?」

 アバンは、刀剣を振り下げると、剣先がない。


「なんだと!? この刀剣はフラム様から頂いたものだぞ! それに、私の太刀筋に間違いはなかったはずだ! なぜ私の剣が負ける?!」


「この剣は、万物の理から外れた存在。君の刀剣が人間によって作られた物だとしたら、この【神の剣】ディバインソードが負ける理由はずがない。」


「ふざけるな! そんなもの、お前如きが持っていて良いはずがない!」

 アバンは、刀剣の攻撃を加速させる。


「うおおおおおお!!」


 アバンは涼しかった表情を崩して雄叫びを上げる。



【真紅の嵐】オーバーン!!!」


 長い刀剣の炎が剣の軌道を示す。

 その光景は、芸術と言っても良いくらいだ。


 よく鍛えられており、一朝一夕で出来上がるものではないことが分かる。


 アバンは加速させ続け、トップスピードまで届いた時、その光景は、まさに嵐だった。

 大ダメージを与えられる一撃を嵐のような連撃で攻撃する。



 ――だが、今の俺には、届かない。




――キン!!!


――キン!!


――キン!


――キンッ!



 嵐のような連撃を撃つたびに、アバンの刀剣は短くなっていった。


 砕け散った剣は、花火のように周りに飛び散る。



――ブン!!


 アバンは剣を空振った。

 剣が砕け散りすぎて、ついに、アバンの攻撃範囲の射程が狂い始めたのだ。



「くそッ! 一体何をしたんだ!?」


「俺の本来の戦い方は、魔法だよ。」


【神の炎】ディバインフレア

 俺は技を発動した。


 力をアバンの足元に集中させる。


――――とりあえず、三本でいいか。



「ふんっ!」

 一気に力を込み上げさせる。


――ボンッ!

――ボンッ!

――バンッ! 


 アバンの足元を囲むように、火柱が立ち上った。


「ぐわっ!?」

 一本目の火柱が、アバンの右手に当たり、刀剣を弾き飛ばす。

 そして、三本目の火柱が、アバン自身を吹き飛ばした。


 壁に打ち付けられたアバンの元へ歩く。


 そして、俺は、【神の剣】ディバインソードを振り上げた。


「終わりだ。」


 見下ろした先にいるアバンの目は死んでいない。

 今このチャンスを逃せば、また敵として戦わなければならない。


 今しかない。



 俺は、振り上げた剣をアバンめがけて振り下ろした。

 斬れる音と伴に血飛沫が飛び散る。



 だが、アバンは無事だった。


「なっ?!」

 アバンの目の前には、ブリックがいた。




 ブリックがアバンを庇ったのだ。



◆◆◆



「くそッ、これも通らないか!?」

 S級冒険者であるラージュを倒すには、初めから全力で行くしか選択肢がなかった。


 自分の持てる最大スピード、最大火力で攻撃を仕掛ける。


 しかし、どれも通らない。


 ラージュの持つ、真っ黒でデカい大剣に弾かれるのだ。



「くそッ! どうしてそんなデカい大剣振り回せるんだよ!!」

 

「ははっ! 修行が足りないよ! お嬢ちゃん!」


 そう言って、ラージュは大剣を振り回し、ブリックを薙ぎ倒した。


「くそッ! くそッ!」

 再度、レイピアを構えたその時、アバンがいる方向から、衝撃音が聞こえた。


――バンッ!


 火柱が立ったのだ。

 その火柱に、アバンが吹き飛ばされていた。



――ヤバい......。


 直感と同時に、体が動いていた。




「お兄ちゃん!!」


 オーブが振り下ろす軌道の前に立ちはだかった。


 その瞬間、自分がどんな顔をしているのか、分かった気がした。



――ああ、あいつもこんな顔してたな。



◆◆◆



「ブリック.....? おい! ブリック!」

 アバンは、倒れているブリックを揺すった。


 反応はない。


 斬った手応えから、即死だろう。


「お前たち、兄弟だったのか」


 アバンは、声にならない声を上げて泣いた。

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