第3話 日常と破滅③

 痛い・・・

 脇腹のあたりがジンジンと熱い。

 だが、今は、痛みよりも解決しなければならないことがあった。

 

「なん....で....」

 想像以上に声が出ない。お腹に力が入れられないからか。


「フフッ....」


 ?


「アーハッハッハッ!!」

 その時、ジケルとダルクは腹を抱えて笑い出した。

 ますます訳が分からなくなる。

 

「今頃気づくなんて、やっぱりオーブ、お前の頭はお花畑だったな!」

 ダルクも続ける。

「ずーっとお前の国、グラン王国は、邪魔だったんだよ!」

 え? グラン王国が、邪魔?


「じゃま....なんて...ずっと仲良くやって来たじゃないか!」

 僕は堪えきれず、強い言葉で言い返す。

 言い切った後、お腹に激痛が走った。


 僕の言葉を聞いた途端、またしても2人が高笑いした。

「アッハッハ! だから、その”仲良し”も演技だったって、何で気付けねぇんだよ!」

「それに、グラン王国の滅亡は、あの【神託会議】オラクル・サークルがお決めになったことだからwwwwwwwwwww」


 不思議と怒りが湧いてこない。

 いや、これは別の感情が織り混ざっているだけなのか。

 それよりもまず、目の前で起きていることに追いつけない。


 何で、僕の国が滅亡させられることに・・・?

 いつから、嘘をついてた・・・?

 【神託会議】オラクル・サークルってなに・・・?

 国が滅亡って・・・みんなどうなる・・・?


 ――え、みんな・・・


「ちょっとまって! それじゃあ、僕の家族は? セバスやユミエールやみんなは?」



「そんなもん、皆殺しに決まってるじゃねえか!wwww」


 2人の高笑いも、バカにしたような態度も変わることはなかった。

 初めて、僕の中に怒りのような胃の底が沸々と煮える感覚がした。


「ううううううお前らァァ!!!」

 声にならない声を沸たぎった胃の底から捻り出した。



「お前の勘は正しいよ。この森は今異常事態が起きている。その答えはー!」

 じゃん! とダルクは合いの手を入れる。

「魔族のスタンピードでしたぁ!」

 パチパチと拍手を入れているダルクを他所目に、僕はその事実を受け入れられなかった。


「魔族のスタンピードを利用して、ついでにお前の国を滅ぼしてやろうって訳!」

「よっ! 頭いいー! てか、こいつの顔ウケるんだけどwww」

「ハハハ! そうだな、これを機に、死にゆくお前に全てネタバラシしてやるよ。俺たちって優しいよなぁ!」

 

 もう僕は、こいつらの顔をまともに見えなくなっていた。

 僕はついに膝から崩れ落ちていた。

 涙で前が見えない。痛みと悔しさと、そして怒りでどうにかなりそうだ。

 信じられない、信じたくもない。それでも、2人の行動と森の違和感が、真実であることを物語っていた。

 それだけ僕にとって、2人がそんな思惑で僕に近づいていたなんて考えられなかった。



「まず、グラン王国の民たちは、魔族のスタンピードで蹂躙されるだろうなぁ。いやぁ可哀想だ。」

 それからそれから〜! とグランは合いの手をさらにいれる。

「今回のイベントにはスペシャルゲストが多数参加しております〜!」

「え〜! それってどんな人達〜!?」

「な、な、なんと、人類最強であり、人類の守り手であらせられる【神託会議】オラクル・サークルの方々が3名も出向かれているのです!!」


 「本来なら、国王、王妃、その子供達など、グラン王国を構成する重要人物は【神託会議】オラクル・サークルの方々に対処していただくのが、良いだろうとなっていたのだよ。将来的にミスがあるとよくないからね」

「ところがだよ! 俺たちにも大役を任されたんだよね、兄ちゃん?」

「そう! その通りだよ、ダルク。分かるか? オーブよ。俺たちは、お前を殺すという大役を任されたのだ。これは【神託会議】オラクル・サークルの勅命。これを立派にこなすことが出来れば、俺たちアンザス領は、クラムホルツ王国の中でもグンッと地位が向上すること間違いなし!」

「本当にありがとうな! オーブよ! !」


 何を言っているのか、半分以上分からなかった。それでも、そこだけは、聞き逃さなかった。僕がずっと気にしていたところだ。


「長男のリーデルは、兄弟の中でもしっかり者で、頭がいい。時期国王として各国の脅威になるのは現時点からも分かる。」

「長女のラージュは、幼少期から剣術に長けていて、将来的には王国戦士長の座も固いというではないか。」

「三男のアレクシスは、武の道を極めんとし、王国中に神童として名を轟かせているのだろう?」

「次女のリアンは、まだ2歳という歳にして、魔法を扱うことに成功したと聞いたぞ。それはまさに天才の所業だ。将来的に脅威となることは間違いない。」

「そして、最も厄介なのが、次男のエトワールだ。こいつは、正真正銘の化け物だ。剣術も体術も魔法も、そして頭脳も優れている。何をとっても各国の脅威となる存在だ。」

 ジケルとダルクは、交互に僕の兄弟達の情報を挙げた。兄弟について言っていることは全て正しかった。

 そして、その後に言った僕のことについても正しかった。


「最後に、お前だよ。オーブ。お前は、頭脳も、剣術も、体術も、魔法も、これといって、才能といえるものは無かったようだな。」

「そう言ってくれるな、ダルクよ。良いではないか。そのおかげで、俺たちでも殺せる役目になることが出来たのだ。」

「そうですな、兄ちゃん! 本当にありがとうな! 無能に生まれてくれてwww」

 

 

「はぁ、笑いすぎて疲れましたね、兄ちゃん」

「そうだな。じゃあ、そろそろ終わりにしよう。」

「そうだ、最後にいいことを教えてやろう。」

 そう言って、ジケルは、僕の髪の毛を掴んで、顔を強制的に上げる。苦しみ、嘆く表情がよく見えるように。

「この森には、絶対に近づいてはいけない”領域”があると、あの執事は言っていたな。」

 セバスのことだ。

 近づいた者は絶対に帰ることができないと言われている”領域”。



「この先が、その”領域”だよ。」



 ――ザッ

 感覚が途切れていた足に激痛が蘇る。

 ダルクが横から、新たにナイフで僕のふくらはぎを切った。

 完全にこの足で移動できないようにするためか。


「じゃあな。もう二度と会うことはないだろう。」

 そう言って、ジケルは、僕の胸を蹴り飛ばした。


 ”領域”へ落ちた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る