第2章 聖霊族の里
第4話 新たな出会い
私は、今日もお父さんが帰ってきていないか、里の外に出て確かめる。
この森は、動物も優しくて穏やかだし、何故か人間も近くに来た試しがない。
「まぁ、私は人間ってものを見たことないんだけどね」
慣れた動きで森を移動しながら、つぶやいた。
「今日も特に収穫はなしか」
族長が許してくれた目標の大きな木の麓まで来た。私は見慣れた景色を眺める。この先は、人間の領域だから、私が来てもいいのはここまでらしい。
人間というのは、どういう生き物なのか見たことがないので、見てみたい気もする。
でも、族長やみんなが言うには、私たち聖霊族は昔人間と一緒に生活していた時代もあったけど、人間のひどい裏切りにあったせいで、私たちはこの里で隠れるように過ごさなくてはいけなくなったらしい。
私も人間に捕まれば、ひどいことをされて、生きては帰れないのだとか。
その話を聞いたら、やっぱり人間は怖い気もする。
何も変化がないことを確認し、帰ろうとふっと後ろを向くと、ハッっとした。
――そこには、血まみれの少年が倒れていた。
少年はピクリとも動かない。辺りは血が飛び散っていて、血溜まりができていた。
思わず、私は手で口を覆い隠した。
「なんて、ひどい・・・」
私は、急いで少年に駆け寄った。
◆◆◆
瞼が重い。いや、瞼だけじゃない、体全体が鉛のようだ。
「あ、気が付きましたか!?」
隣から声が聞こえる。
声が聞こえる方へ瞼を開ける。
そこには、背中から小さな白い翼が見えている、少女――いや、天使か――がいた。歳は僕と同じくらいだろうか。肩あたりまで伸びた金色の髪は、一本一本が生きているようにツヤツヤだ。まさしく、天使と聞けば、想像するような姿をしていた。
そのお姿を見た僕は、間違いなく確信した。
――僕は死んだのだと。これはあの世で、天使が僕の前にいる。
「あの、大丈夫ですか?」
隣の天使は、顔を覗かせる。
「あぁ、神よ。僕は死んだのですね。」
「え? 生きてますけど?」
「――え?」
僕は、体を起こして、周りを見渡した。
ここはどこか分からなかったが、どうやら想像しているあの世とはかけ離れた場所のようだ。壁は土や岩でできており、天使の後ろには、鉄の棒が等間隔に刺さっていた。どうやらここは、牢屋のような場所で、僕は檻の中にいるみたいだ。
「良かったー! 心配してたんですよ〜」
その檻の中に僕と一緒に入っているのが、目の前の天使だ。
「私は天使族のリエル。よろしくね!」
天使の少女は、手を前に差し出す。
「あの、僕って牢屋に入れられてますよね? 一緒に牢屋に入ってて大丈夫なんですか?」
僕は、そのリエルと名乗る天使の子に聞いてみた。状況は罪人扱いされているのに、この子は僕のことを罪人扱いする様子が全くない点に違和感を覚えたからだ。
「それなら問題ない。」
牢屋の外から、スッと現れたのは、背中から白い翼を持つ青年だった。
リーデル兄さんより年上か、僕より一回り背が高く、体つきはよく鍛えられているのが一目で分かるほど引き締まっていた。
「お前がリエルに手を出そうとした瞬間、お前を殺す。俺には容易いことだ。」
その青年は、持っている長い槍を僕に見せるつけるように床にドンと一度突きつけた。その振動は、僕の方まで響き渡る。
「大丈夫だよ、君はそんな人間じゃないって、なんとなく分かるんだよね。」
目の前のリエルは、無理やりに僕の手を握った。
「僕の名前は、オーブ。オーブ・フォン・グランだ。」
「オーブね! よろしく!」
フフフと微笑むリエルは、今の状況を説明してくれた。
「ここは、聖霊族の里。あなたが倒れているのを見つけて、ここに連れてきたの。まだ、あなたが安全な人間だって分からないうちは、危険だからってこんなところに入ってもらうことになって、ごめんね。」
「あのままだと死んでいただろうから、リエルは命の恩人だよ。ありがとう。」
僕は、心の底からお辞儀をした。
死んだことを覚悟していたが、今生きている。生きているということは、僕にはまだやるべきことがあるということだ。
「それで、キサマはなぜあんなところに倒れていたのだ? もしや人間が我らの里へ侵攻してこようとしているのではないだろうな?」
後ろから、天使族の青年が問いかける。
「そんなことはない。この場所は、人間の間でも”領域”と呼ばれていて近づくなと言われている場所だよ。今後も、人間がここへ攻め込むことはないと思う。」
「オーブは、嘘をついてないよ」
リエルは、僕を庇うように、付け足してくれた。
「それに――」と僕は続けて、これまでの経緯を話した。僕が人間族の国、グラン王国国王の四男であること、裏切られて殺されかけたこと、家族が心配であること。
「ハハハ、人間同士でも争いあっているのか。なんと愚かな種族なのだ」
僕は、笑い声を聞いて奥歯を噛み締める。あいつらの笑う顔が思い出された。
「リエル、おしゃべりは終わりだ。そいつの処遇について審判の準備が整ったようだ。」
「分かった。オーブ、ごめんね。」
そう言って、リエルは僕の腕を後ろにして縄で縛り始めた。
おそらく天使族にとって、人間は嫌われているのだということは、会話からなんとなく感じた。審判と言っていたから、そんな人間の僕をどうするか裁判をするということだろう。
「お前を、族長のもとへ連行する。」
僕は、黙って頷いた。
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