第5話 審判
「ほら、早く歩け」
縄の先を持つ天使族の青年が縄を引っ張った。
「ルク! そんな乱暴にしなくてもいいでしょ!? まだオーブと一緒に暮らすことになるかもしれないのに!」
隣で一緒に歩いてくれているリエルが、僕の代わりに怒ってくれた。
縄を持つこの男はルクという名前のようだ。
「あ? 人間であるこいつとか? 冗談じゃないぞ、リエル。お前は知らないかもしれないが、ここに住んでる奴は人間の恐ろしさをみんな知ってる。族長もそう判断してくれるはずさ。」
ルクは、僕を見ることなく、リエルだけを見て吐き捨てた。
「さぁ、着いたぞ」
歩いて2、3分、この街の中心と思える広場に着いた。
そこには、領域にいるほぼ全ての住民が集まっていた。
オーブを取り囲むように、リエルと同じ白い翼を持つ天使族、手のひらサイズの妖精のような種族など多種多様な種族がいる。中には見たことがなく何と言う種族なのかも分からないものもいた。その中には、やはり人間はいない。
ザワザワと僕を見て、騒いでいる。
人間が珍しいのか、それとも、嫌われているのか。
「静かに」
僕は声の方向を見ると、高台になっているところに、いかにも重鎮といった3人がいた。みんな背中から白い翼が生えているから、天使族だろう。
「ワシは聖霊族の族長、セラフィム。さて、人間の少年よ。今から其方の処遇を決める審判を始める。嘘を吐いた瞬間、斬首であり、こちらに敵意があると分かった瞬間に斬首とする。よいな?」
僕はその族長の威圧感を前に、無意識に頷いていた。
「良い。では、まず名前を述べよ。そして、森で何をしていた?」
「はい、オーブ・フォン・グランと申します。あそこには、友達と思っていた人間と来ていましたが、――そやつらに裏切られ、刃物で刺されました。」
「ふむ。では、其方は何者か?」
「僕は、グラン王国の四男です。」
「では、帰りたいと思うか」
「それはありません。」
僕に迷いはなかった。
「ほう、即答か。なぜだ?」
「今僕は人間の世界では、殺された人間です。もし、ここで殺されなくても、生きて帰れば、結局殺されます。それは、家族も同じだと思います。」
それに、と僕は続けた。
「僕は、どうしても許せない。裏切って、幼馴染や、執事やメイドのみんな、そして家族をこんなひどい目にあわせた奴ら、あいつらを全員地獄に落とす。」
僕が感じた絶望を、家族も同じ目に合わせていると考えると、また胃の底が沸々と熱くなるのを感じる。
もう一度忘れたくても忘れられない、あの2人の顔を頭に思い浮かべる。あの時、僕を刺して、ケタケタと腹を抱えながら、意気揚々と計画を話してくれて感謝している。
今この時、僕の言葉は震えることなく、迷うこともなく、出すことができる。
「それが、僕が生き残った理由だと思っています。」
僕はまっすぐに族長を見上げる。その想いを伝えるために。
「ホッホッホ。良い目じゃ。」
白く長く伸びた髭をときながら、笑った。
「どうじゃ、こやつの言っていることは本当か、ガブリエル?」
「はい、嘘はついておりません。」
族長の問いに対して、隣に立つ長身の男が答えた。どうやら、発言の真偽を見定める術が使えるようだ。
その男は、長身で緑の髪を後ろで束ねており、やはり背中から白い翼を覗かせていた。
「よい。ワシはこやつの力に賭けてみようかと思っておる。何か反論はあるか、皆の者よ」
広場が少しザワついた。僕の隣で不安そうな顔をしていたリエルも安堵の表情を浮かべていた。どうやら僕の斬首は回避されたようだ。
「お待ちください、族長。こやつが、我らの力になるとは思えません。」
僕のもう反対側にいたルクが声を上げる。
周りの状況を見ると、ルクに賛成する者も何名かいるようだ。
「ルクよ。それは、そやつの現状の力のみしか見ておらんからじゃろう? ワシは10年後の話をしている。」
「10年後だとしても、私よりも聖霊族の力を使えるようになるとは思えません。それに、人間が里に入り浸るのは、他の住民にも影響があるかと考えます。」
ルクの言葉遣いは丁寧だが、口調や視線から、僕を絶対に認めない姿勢が窺えた。
「ふむ。確かに、他の住民への影響は否定できないか。」
族長が再び顎鬚をときはじめた。
「では、どうでしょう。彼が私たちに害があるかどうかを見極める期間を設けてみては。」
族長のもう隣にいる女性の天使が割って入った。
「ミカエル様!? しかしっ・・・!」
ルクは否定しようとするも、族長がルクに割り込んだ。
「それが良いな。では、そやつの監視をルクが担当すればよい。お主からして危険だと判断すれば、斬首することを認める。それで良いな?」
「くっ・・・!? かしこまりました。」
「よし。では、オーブと言ったか。あとで私のところへ来なさい。」
族長はそう言って、高台を後にした。
「勘違いするな、少しでも怪しい行動をすれば、お前を殺す。族長の慈悲に感謝しろ。」
ルクは、そう言って、僕を縛っていた縄を解いた。
◆◆◆
審判が終わって、夜、族長の家に案内された。
「ここだよ。オーブだけを連れてこいって言われているから、私は戻るね。」
「ああ、リエル、ありがとう。おやすみ。」
そう言って、リエルが帰る姿を少し眺めて、家のドアをノックする。
「入れ」
家の中から聞こえてきた声は、族長の隣にいたガブリエルのものだった。
「失礼します。」
家に入ると、族長のセラフィム、ガブリエル、ミカエルとあの高台にいた3人が揃っていた。なぜか審判の時よりも、3人の表情は険しく強張っていた。
「よく来たな、オーブ。お主に話さなければならないことがあって、呼んだのだ。」
僕は、生唾を飲み込む。すごい緊張感だ。
「――この聖霊族と人間の過去について」
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