第17話 復讐計画

 街まで同行し、【黒の剣】と別れた俺たちは、改めて人気のないところへ移動した。

 これから、俺とラージュの関係、ルクとリエルを説明するためだ。



「改めて紹介するよ。こちらはラージュ。俺の実の姉だ。」

 俺は隣のラージュを指して説明した。


 ルクはともかく、リエルは喜んでいた。

 そして、じんわり涙を滲ませて、喜んでくれた。

「良かったね、オーブ.....! 本当に良かった.....」

「ありがとう、リエル。だから、ラージュは俺たちの味方だから、安心して。」



「そして、この2人がリエルとルク。」

 俺が紹介すると、ルクは手を差し出した。


「よろしく頼む」

 人間嫌いのルクから手を差し伸べるのは、意外だったが、その分信頼してくれているということだろうから、少し安心した。


「あぁ、弟が本当に世話になった。本当にいい仲間に出会えたみたいで、安心したよ。それに、あの槍の一撃は素晴らしかった。」

 ラージュも手を出して、2人は握手をした。


「あの、よろしくお願いします....!」

 リエルもルクに並んで、手を差し伸べる。


「君の治癒魔術も素晴らしいね。あれだけ回復力があれば、安心してオーブを任せられる。それに、もうオーブとは付き合っているのか?」

 握手と同時にラージュは答えた。


「へ? あ、あの! ま、まだ、お付き合いとかは.....、まだです。」

 リエルは真っ赤にした表情を俯かせた。


「そうなのか? オーブも罪な男だな!」


 ワッハッハと豪快な笑を飛ばしたラージュを他所目に、俺は話を元に戻す。




「それよりも、姉さんは、これからどうするつもりなんだ?」


「ん? どうするって?」


「冒険者をこのアンザス領で続けるのかどうか、とうことだよ」

 俺は、まずアンザス領の領主に復讐するつもりでいる。

 そうなると、姉さんがこの街で冒険者を続けていくなら、姉さんには害がないように計画を修正する必要があったのだ。



「んー、私の計画を話そうか?」

 ラージュは、少し考える仕草をして、言った。


 俺たちは、それに頷いて返す。


「私は、別に冒険者として名声を得たいとか、人助けをしたいとかないんだよね。私がやりたいことは、つまり――――」


 ラージュから笑みが消え、雰囲気が変わった。



 そして、一言、ポツリと呟いた。





「――――復讐だよ。」


「リエルちゃんとルク君は、オーブから聞いたかもしれないけど、私はね、グラン王国を裏切った奴ら全員をぶっ殺す。――それだけがやりたいことなのさ。」


 ラージュの言葉は本気だ。それは、直感した。




 それと同時に、俺は安心を覚えていた。


「フフフ、俺たちもそうさ。まず手始めにアンザス領主に復讐をする予定さ。そのために、【黒の剣】には、いろいろ情報を聞いた。」


 それに俺は続けた。


「アンザス領主が冒険者を傭兵として雇うタイミングで、屋敷を襲撃する。そこが、領主の弱みをつけるチャンスだと思う。つまり、領主を現行犯で襲撃するという計画さ。そうすることによって、大義名分を得ることができて、思う存分復讐することが出来るっていう計画。」




「オーブ。屋敷の警備網がどれだけ厳重か、知っているのか?」


 ラージュが言いたいことはわかる。

 俺自身が、急いぎすぎだと分かっていた。


 だが、同時に止められないことも分かっていた。


「ああ、知らない! それでも、この復讐の炎が燃えたぎって仕方ないのさ! 俺たちを裏切った領主を始末できる格好のネタとタイミングが分かったのに、サラサラ見逃す手はない! いくら困難でも俺はやるよ」


 今まで、夢に出てうなされるほど、憎くてたまらない奴らが、もうすぐ手の届くところにまで近づいているのだ。


 もう止められない、止まらないのだ。



「俺たちは、オーブについていくつもりです。確かに、無茶な計画だとしても、俺たちは、負けません。」

 ルクは、俺の言葉に続いた。

 ラージュが心配の表情を浮かべていることを見越してだろう。



 そうだ、この復讐の物語は、俺の物語でもあるが、それだけじゃない。


 ――の物語だ。



「どうやら君たちにも、何か事情はあるようだね。まぁその辺は深掘りしないよ。」

 それに、とラージュは続けた。


「私も、初めの復讐のターゲットは、あのクソバカ領主だと決めてたんだ。その実行が早くなるだけだね。」



「ってことは、つまり――?」

 俺たちの表情は、パッと明るくなった。


「あぁ、私も――、いや、私も、オーブの計画を手伝うよ。――きっと上手くいく、それは私たちが保証する。だから、好きなだけ暴れてやんな!」

 ラージュは、ニカッと笑って、拳を突き出した。



――あぁ、懐かしい光景が思い出される。

 姉さんは、昔から、勝負前はこやって拳を突き合わせる癖があった。


 思わず、涙腺が緩む。瞼の裏が湿るのを感じる。

 ダメだ。泣くのは、終わってからだ――。



「ありがとう。必ず、皆の雪辱は果たす――、この命を懸けても!」

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