第16話 貴重な情報

「――お前、もしかして、グラン王国と何か関係あるんじゃないか?」



 それを聞いた瞬間、内臓が持ち上げられるような感覚がした。




 なぜ、バレた――?

 いや、まだバレていないか?

 もしかしたら、グラン王国に関係する人間を殺してまわっているのかもしれない。


 思考を回転させる。だが、どれも答えではない気がする。


 もし、バレたりしたら――。

 俺は、離れたところにいるルクとリエルを見た。

 2人とも、心配そうにこちらを見ていた。


 ――もし、俺の正体がバレたら、2人に、聖霊族のみんなに迷惑がかかるかもしれない。

 それだけは、避けなければならない、絶対に。


「おい、聞こえているのか?」

 完全に自分の思考の世界に入っていた俺は、その声にビクッとしてしまい、赤毛の人間を思わず見てしまった。


 よく考えれば、その顔をマジマジと見たのは、これが初めてだった。



 ――もしかしたら、そう思うと同時に、声に出ていた。


 『ラージュ』という名前。それは忘れるはずもない名前だ。



「ねえ.....さん....?」


 俺が知っている頃のラージュ姉さんは、栗色の髪色で肩くらいの長さだった。

 あの時の、お淑やかな表情とは違い戦士の表情をしていて気付かなかった。


 だが、こうして、近くで見ると、間違うはずがない。

 髪色が変わっていても、顔つきが変わっていても――。



 ――俺たちは、家族だ。



「あぁ。」

 ラージュの表情は、みるみるうちに崩れていく。

 自信のあった表情はそこには無く、あの頃のお姉ちゃんが、そこにはいた。


「オーブ。やっぱり、お前だったか――。」

 そう言うと、ラージュは、俺を強く抱きしめた。



◆◆◆



「それで、オーブはあれからどうしていたんだ?」

 強く抱きしめていた腕は解かれて、聞かれた。

 そうだ、お互いに一番聞きたかったことのはずだ。


「アンザス領のジケルとダルク2人に騙されて、”領域”と呼ばれている場所で刺されたんだ。運良く、そこであそこにいる2人に助けられた。」

「そうか.....。辛かったな。そして、よく生きていてくれた。」

 ラージュは、また俺の頭を撫でてくれた。


「姉さんは? 他のみんなはどうしたの?」

 俺は、ラージュのことを直視せずに聞いた。

 その先の答えが、望まない答えかもしれないと思ったからだ。そう思ったが、聞かずにはいられなかった。



「国の大半のやつは死んだ。魔族が攻め込んできたんだ。オーブの話を聞くと、誰かが裏で糸を引いていたってことだろうな。」

 ラージュも、俺を見ずに答えた。

 そして、その答えは、望んでいなかった答えだ。


「そうだったのか。」

「――だが、全員ではない。」


 ラージュは、一呼吸おいて、続けた。

「オーブもいずれ会える。」


「何だよ! 気になるじゃないか、教えてよ!」


ハハと笑って、ラージュは明後日の方を見ながら続けた。

「まだその時じゃない。な。」




◆◆◆




「あ! オーブ、大丈夫だった?」

 みんなが集まるところまで、戻ってきたところに、リエルは、駆け寄ってきてくれた。


「あなたが、【黒の剣】を治癒してくれたの?」

 そこへラージュが割り込む。


「ええ、そうです。」

 リエルは、少し身構えて答えた。


「安心して、リエル。彼女は敵じゃなかった。」

 俺はそう告げると、【黒の剣】リーダのマーシャも後ろから言った。

「そうです! ラージュさんは、アンザス領唯一のS級冒険者で、街の英雄とされているお方なんです! 俺たちを助けにきてくれたところだったんです!」

 マーシャの隣で、怪我をしていたアルマも歩いてお辞儀をしていた。

 リエルの聖霊魔法は上手く機能したようだ。


 ――まぁ、聖霊魔法であることは秘密だけど。



「私の方も勘違いしていたとはいえ、少し乱暴になってしまった。申し訳ない。」

 ラージュは、少し頭を下げて、続けた。


「それに、私は治癒の魔法は使えなくてな。治癒魔法を使える者は、少ない。オーブも彼女を大事にしないとな。」

 ラージュは、少し俺に向かって微笑んだ。


「あ、ありがとうございます....」

 そう言ったリエルの方を見ると、頬を明らめてシュンとなっていた。




「それで、【黒の剣】の2人には聞きたいことがあったんだ。」

 俺は、話を切り替えた。

 そう、【黒の剣】の救出の依頼を受けた目的でもある、情報収集のためだ。


「もちろんです。オーブさん達は命の恩人ですから! 何でも聞いてください!」



 それから、俺たちは、アンザス領の街について、領主について聞いた。


「アンザス領の冒険者ギルドが、なぜあんなにどんよりした空気だったかというと、街全体の活気がないからだ。」

 そう答えたのは、ラージュだった。


 そして、話を続けた。

「アンザス領の領主は、麻薬の密売や奴隷売買に手を出しているって噂が絶えなくてな。それに、民も圧政による負荷と、重税による貧困に苦しめられている。だから、冒険者への依頼も出せないって訳さ。」


 それに、と続けたのは、マーシャだ。

「今の話を聞いて繋がったんすけど、冒険者の中でも領主様に気に入られれば、屋敷の傭兵として仕事がまわってきて、これがめちゃくちゃ給料が良いって冒険者の中でも噂になってて。だから、冒険者も領主様に気に入られるかどうかが勝負っていうか、冒険者のイメージと違うところで戦ってる人も多いですね。」



「なるほど、つまり、冒険者の傭兵を雇うタイミングで、麻薬の密売とか怪しい仕事をしている可能性が高いということか。」

 俺は、一通り聞いた上で、思案を巡らせた。


「分かった、ありがとう。」

 そう告げて、俺の中で一つの計画が練り上がっていた。




 ――それは、アンザス領主への、俺を刺したあの2人への復讐計画だ。

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