第15話 再会

「ちーっすう! 帰ったぞー!」

 勢いよく冒険者ギルドの扉を開けたのは、赤毛のロングヘアを靡かせ、とても人が扱えたものとは思えない真っ黒の大剣を背中に担いだS級の冒険者ラージュだった。


「あっ! ラージュさん、お疲れ様です!」

 受付嬢の私は、深々と頭を下げる。

 なぜなら、ラージュさんがいるおかげで、このアンザス領の冒険者ギルドは回っていると言っても過言ではないからだ。

 それに、私は、ラージュさんのことを尊敬していて、好きだからだ。


「ハッハッハッ、いいってことよ! どうよ、みんな元気にしてるかい?」

 そう、こんな感じに、ラージュさんはいつも私たち職員と他の冒険者のことを気遣ってくれる。

 実力はもちろん、その器の大きさもS級冒険者としてふさわしいと思う。


「それが、【黒の剣】が、ワーウルフ討伐の依頼から3日経っても帰ってこないんです。」

 豪快に笑っていたラージュさんから、笑顔が消えた。


 それを見て、私は急いで言葉を繋げる。

「な、なので、有力な3人のパーティに、その捜索をお願いしたところです!」

 ラージュさんの表情は険しくなる。


「その、パーティってのは、どいつだ? 名前は?」


  私は、ラージュさんの表情を伺いながら、伝えた。

「それが、今日新しく登録された方なんですけど、B級冒険者を簡単にいなしてしまったので、実力を見込んでお願いしました。名前は、『オーブ』と....」



――明らかに、ラージュさんの表情が変わった。 

 最後の名前を伝えた瞬間だった。



「おい! そいつは、『オーブ』と言ったのか?」

「はいいい! 確かに、パーティ名ではなく、リーダーの方の名前として伺いました!」

「オーブ....!」

 ラージュさんは、そう呟いて、少し笑った――ように見えた。


「おい、そいつらはどこに行った?! 私も助けに行く!」



◆◆◆



「オーガって、思ったより大きいな」

「そんな悠長なこと言ってる場合じゃないよ!」

 リエルは、隣でツッコミを入れてくれた。


「リエルは、後ろの怪我人を直してあげて。精霊魔法を使う時は、翼に気をつけてね」

「了解であります!」

 リエルは、敬礼のポーズをとってから、後ろの洞窟へ走っていく。



「なぁ、オーブ。あいつは、俺にやらせてもらえないか?」

 ルクは、じっとオーガのことを見つめて、そう呟いた。

「なぜだ?」


「主人公の実力の見せ所は、こんな相手では不十分だと思っただけだっ!」

 フンッと、ルクは鼻で笑い飛ばして、走り出した。


 俺は、走りだしたルクの方向へ手を伸ばして、魔力を送った。

「使え!」


 族長の力は、精霊族の持つ力を共有管理できる。

 つまり、誰か1人に対して力を注いだり、奪ったりすることができるのだ。



「フン...! 無くても、勝てるがなっ!」

 ルクは飛び上がり、オーガを見下ろした。

 槍が光出した。聖霊魔法を槍へ集中させているのだろう。


 槍を振り上げ、そして、急降下とともに、振り下げる。



【神の槍】ヘブンリースピア


 ルクの放った光が地面に届くと、激音と伴に視界を覆う砂煙が吹き荒れた。



 砂煙が流れた時に見えたのは、巨大なクレーターと辺り一体の木々が消えた平地だった。

 オーガがどうなったのか、それは気にする必要はなかった。



「ルク、大丈夫かー?」

 そう言って、俺は出来上がったクレーターの下を覗き込みにいく。



――そこに立っていたのは、ルクだけではなかった。



 赤毛のロングヘアを靡かせて、巨大な大剣を片手で、ルクの首に突き立てている。

 その姿は、人間だ。


 だが、只者じゃない。そう直感が告げた。


 俺は、すぐに妖精の力で、【岩の鎧】アースガーディアンを発動させる。

 ――戦闘準備だ。




「――動くな。」

 その声は、クレーターの下から聞こえてきた。


「そこで見ているお前に言っている。動けばこいつの命はない。」

 その赤毛の人間は、俺のことを一瞥もしていない。

 だが、俺の挙動全てが見透かされているかのようだった。



「オーブ、こいつの力は本物だ。俺に構わず、リエルを連れて逃げろ!」

 ルクは、俺に目配せをして言った。



「オーブ....。そうか、お前がか。」

 赤毛の人間はこちらを目配せした、その瞬間――。



 ――隣まで【黒の剣】の男が走ってきて叫んだ。

「ラージュさん! その人たちは、味方だ! 俺たちを助けてくれた!」


 その声を聞いた、ラージュと呼ばれる赤毛の人間はやっとこちらを向いた。

「マーシャか? 良かった、無事だったんだな」

 そう呟いて、剣を降ろして、頭を下げた。


「仲間を助けてくれた恩人に対して、無礼な真似をしたこと謝罪する。」


「分かってくれたならいい。行くぞ、ルク」

 俺は、ルクを呼んだ。

 この人間は、明らかに俺たちのレベルを超える存在だった。



「――ちょっと待ってくれ。そこの、『オーブ』とやら。少し付き合ってくれないか?」

 振り向くと、クレーターの中から、こちらを一直線に見ていた。


 逃げられない――、そう直感した。


「分かった。」



◆◆◆



「ここで良いか?」

 会話の聞こえないところまで、移動してきた。


「ああ、問題ない。少し確認したいことがある。」

 俺は、生唾を飲み込んだ。



「――お前、もしかして、グラン王国と何か関係あるんじゃないか?」

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