第3章 人間の国

第13話 冒険者登録

 俺たちは、里を出て、人間の街へ向かっていた。

 ルクとリエルは、足元まで隠せるほど大きなマントで、背中の翼を隠してもらっている。

 翼が見つかると、必ず厄介なことに巻き込まれるに違いない。


 初めは、俺1人で行こうかと思っていたが、リエルが、「絶っっ対にダメ!! 族長1人危ない目に遭わせるわけにはいかないでしょ!」と止められてしまった。



「それで、オーブ。これから具体的にどうするつもりだ?」

 隣を歩くルクが尋ねた。

「これから、冒険者ギルドという場所に行こうかと思っている。」


「冒険者って、何?」

 リエルが聞き返す。

「冒険者というのは、俺も子供の時に聞いただけなんだが、人間の中で戦闘能力のある者が、魔族や獣から人間を守る職業らしい。」


「なぜ、わざわざ冒険者なのだ? こちらの力を見せると、正体をバラすようなものではないか?」

「もちろん、そのリスクもある。だけど、冒険者を選んだ理由はちゃんとあるよ。」

 そう言って、俺は冒険者を選んだ理由について、2人に説明した。


 1つ目は、冒険者は人間の中でも力自慢が集まる。その能力を見れば、自分たちの、聖霊族の力量を図れるからだ。


 2つ目は、冒険者は危険と隣り合わせの仕事だ。身分にとらわれずに、仕事を受けることができる。つまり、疑われることなく、人間の国に溶け込めるということだ。


 3つ目は、情報収集にある。冒険者は、表社会にも裏社会にも通ずる職業だ。そこには、俺たちが復讐すべき相手の情報を収集することができる。



「なるほど。そうと決まれば、俺たちはお前についていくだけだ。」

「あ! あれが街じゃない?」

 2人への説明を終えたところで、人間の街へ到着した。



――懐かしの、グラン王国跡地、アンザス領だ。



◆◆◆



 キィと扉を開ける。

 冒険者ギルドの建物は、街の入り口から真正面にあった。


「こんにちは。冒険者登録をご希望ですか?」

 冒険者ギルドの雰囲気は、一言で言って悪かった。

 どんよりとしていて、空気が澱んでいた。


「はい、3人のパーティです。出来れば今から、出来る仕事を見繕って欲しい。」

「え、今からですか?」

 受付嬢が、困惑している。

 これは、今からの仕事はなさそうか――。



「おいおい、新人がそんな急ぐなよ。なんなら、俺たちが今から行く仕事に同行するか? その隣の女だけだがな」

 ――そう思った時、後ろから肩を掴まれた。


「ねぇ、君名前は? どこ出身? その身なりだと治癒師ヒーラーか?」

「こりゃ、上玉ですぜ、兄貴!」

 完全に俺とルクのことは無視だ。


 俺が一番心配している方を見る。それは、リエルの方ではなく、ルクの方だ。

 ――案の定、バッキバキに目が決まっていた。


 ルクの鼻息が聞こえてくる。

 握力で、握っている槍が軋む音が聞こえてくる。


 ――これはまずい。

「シルフさん、お願い」

 俺は、小声で伝えた。

 シルフは「あいよ」と言って、風を起こした。

 一瞬だけ。


 バタンッ!

 絡んできた男どもが薙ぎ倒された。


「グハッ?!」


 シルフさんは、男どもの足元だけに突風を起こしたのだ。

 それに足をすくわれた男どもは、何が起きたのか分からない様子だ。


「テメェら! 何をした――ッ!」

 男どもが、檄を飛ばそうとした時、ルクの槍は、男どもの目の前に振り下ろされていた。


「これ以上、許すことはできん。殺されたくなければ、失せろ....!」

「クッ...! ふざけんな! 俺たちを誰だと――」

「やめろ!」

 目の前に倒れている”兄貴”と呼ばれていた男が静止した。


「覚えてろよ、ガキども。」

「え、ちょっと待ってくださいよ、兄貴!」



「何だったんだろうね?」

 リエルは、ちっとも怯えた様子無く言った。

「まぁ、気にすることはないよ」



「――気にすることありますよ!!」

 そう言って、受付嬢は机をバンッと叩く。

「あの人たち、実はB級冒険者で、結構な実力者なんですよ! 今日あの人たちに依頼していた仕事どうなるんですか?!」


「え、そんなこと言われても――」

「あ、そうだ! あなたたち、B級を一瞬で倒すくらい実力者なんですよね? じゃあ、代わりにこの依頼やってください!」

 受付嬢は紙を胸に押し付けてきた。


「もう、アンザス領は、冒険者がどんどん他の街に行っちゃって、人材難なんですよ! それなのに、唯一のB級が仕事放棄とかやってられねぇ! ムキー!!」


 受付嬢は頭を掻きむしりながら絶叫していた。

 その姿を見ていると、断るわけにもいかなかった。


「わかりました。じゃあ、この依頼引き受けます。」


「ええぇ?! あなたは、もしや天使ですか??」


 3人ともドキッとした。


「ハハハ、冗談ですよ。」

 受付嬢は、ボサボサになった髪を整えながら、笑顔を取り戻していた。

「それでは、あなたのお名前を教えてください。パーティの代表の方で大丈夫です。」


「じゃあ、『オーブ』です。」

「わかりました。オーブさんですね。危険な任務なので、もし死にそうになったら逃げてきてかまいませんからね。」

 死にそうになるまでは逃げちゃダメなのか――



◆◆◆



「なんで、逃げちゃったんですかい、兄貴?」

「あれは、金脈だぜ。弟よ。」


「どういうことですかい?」


「あの、槍を構えた男いただろう。」



「――あいつは、人間じゃない。最後背中から翼のようなものが見えていた。」

「ええっ? それって魔族かってことですかい?」


「いや、魔族以上にヤベェ獲物かもしれない――。とりあえず、アンザス領主様に報告に行くぞ。これは金の匂いがするぜ――!」

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