第14話 英雄

 俺たちは、受付嬢からもらった依頼書を手に、森の方へ向かっていく。

 俺たちからすれば、森へ戻る形になるが、里とは方向が違った。


「で、肝心の依頼はどういう内容なの、オーブ?」

 リエルは、依頼書を覗き込むようにして、聞いた。

「数日前に依頼に出た冒険者の捜索・救出みたいだな。」


「フン。そんな人間、死んだことにしてしまえばいいだろう?」

「まぁそう言うな、ルク。それに、救出すれば、俺たちの名声も高まる。その分、目的も達成できるってもんだ。」

 ぐぬぬ....とルクから聞こえてくる。


「とにかく、ワーウルフの討伐に出かけた冒険者だが、3日ほど帰ってきていないらしい。」

 俺は指を刺した。

「あの先の森だ――」



◆◆◆



 ワーウルフの討伐には、成功した。

 しかし、それだけでは終わらなかった。


 俺たちは、C級冒険者パーティの【黒の剣】。

 冒険者は危険な仕事だ。

 だが、それだけ夢がある仕事だと思っている。


 俺たちの夢は、S級冒険者のさんのようになる。

 そう思っていた。

 そう、順調だったんだ――。




「逃げて、マーシャ!!」

 振り向くと、そこには、B級相当の魔獣であるオーガが立っていた。


 ワーウルフの討伐に成功し、魔石の採取をしていたところだった。


 初手が遅れた。

 リーダーの俺がもっと早く気づいていたら――。



「大丈夫か、アルマ?」

「うん、ありがとう、マーシャ。少しは楽になったと思う。」


 俺たちは、オーガから命からがら逃げて、洞窟に身を隠した。


「ねぇ、ドルは? 大丈夫なの?」

 俺は返す言葉がなかった。

 逃げる途中で、パーティメンバーのドルは、アルマがオーガに殴られるのを庇ったのだ。


「そう......、私のせいだ.......」

 アルマは、手で目頭を覆って、そう呟いた。

 そう言うアルマも、無事ではない。

 額からは血が流れており、左足はおかしな方向に曲がっている。


 どうにか、洞窟に身を隠し、オーガからは逃げ切ることができた。

 しかし――、だからどうだとう言うのか。


 俺たちは、ここを移動することはできない。

 オーガはこの辺にまだいる可能性が高い。

 アルマを庇いながら、魔物と戦うのも限界がある。


「クソッ....!」

 俺は、吐き捨てるように呟いた。




――その時、木々がざわめくのを感じた。

 そのざわめきは、小動物のそれではない。


「あぁ......」

 俺は、声にならない声が漏れ出ていた。

 それは、目にした絶望からだ。



「ちくしょう.....どうして......」



 目の前には、オーガが木々をかき分けて、こちらへ向かってきていた。


 逃げられない。

 もう俺たちの人生は、ここで終わりだ。


 そう確信した、その瞬間――。




 ――閃光が走った。


 目の前に、見知らぬ3人組が現れたのだ。



「お前たちが、【黒の剣】か?」

 右に立つ白いマントで身を包んだ男が問いかけてくる。

 右手には、身長ほどの長さがある槍を構えていた。


「あぁ....ああ! そうだ! 俺たちが【黒の剣】だ! 助けてくれ、仲間が負傷して、動けない!」


「分かった。」

 真ん中に立つ男が、振り向くことなく答えた。

 その佇まいには、何とも言えない信頼感と安心感があった。



 直感的に、俺は英雄だと思った。

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