第12話 族長として

「次の族長は、オーブで決まりじゃ!」

 族長の言葉は、住民の歓声の合図となった。

 オオオオ! という歓声と同時に、拍手が沸いた。その拍手は、俺とルクの戦いを讃えるものだった。




「大丈夫か、ルク?」

 俺は、ルクの手を取る。

「ハッハッハ、完敗だよ、オーブ。」

 ルクは、俺の手を取って笑った。

 その笑顔は、初めて見るものだった。


「今まで辛くあたってきて、すまなかった。許してほしい。」

 ルクの手を取って、引き上げると、頭を下げた。

「あぁ、俺は気にしてないよ。それより、聖霊族にとってルクは一大戦力だからな。これからよろしくな。」

 俺は、ルクに手を差し出す。


「ありがとう、オーブ。」

 ルクは、俺の手を強く握り返してくれた。

 今、やっと、ルクに仲間と認めてもらえた気がした。


 2人と囲む拍手は、しばらく鳴り続いた。



◆◆◆



 決闘の日の夜。

 住民は、新しい族長を待っていた。


「聞け、みんな。今から、族長を決める儀式の最終幕フィナーレを執り行う。まず、新族長を迎え入れる。」

 ガブリエルが広場に現れて、伝えた。

「見よ!」


 視線は一点に注がれる。

 広場から見える高台の上だ。



 オーブを先頭に、後ろを歩くのは、ルクとリエルだ。


 広場が静まり返る。

 皆、緊張しているのだ。


「えー、オホン」

 右隣にいるルクから小突かれる。

 左隣のリエルも、しっかりという目だ。


「新しく族長となった、オーブです。今から、皆に、族長として今後の計画を話す。」

 視線を、広場の端から端まで回した。

 全員が、次の言葉を待っているのが分かった。


「まず、人間の街へ出向く。その理由は、3つある。1つは、この里の発展のために、必要な技術や物品の収集。電気などは聖霊魔法で生み出すことが可能だが、持続可能性を考えると、人間の作り出した技術は使える。」

 族長が俺になったことで、聖霊魔法を使える上限は大幅に上がるだろう。それでも、使うべき場面は絞った方がよい。


「2つ目は、我々の力は、人間にどこまで通用するのかを確かめるためだ。この里の存在は、まだ人間に知られていないとはいえ、人間が侵略してこないとは限らない。防衛として、聖霊族の力を見極める必要があると判断した。」

 聖霊魔法や妖精の力というのは、人間に認知されていないはずだ。

 だとしたら、人間の使う魔法や剣術・体術にどれほど対抗できるのかは知っておくべきだ。今後の対策が大きく変わってくる。


「そして、3つ目。それは、情報収集だ――」

 ここが、俺にとって、一番重要だ。この理由が全てと言っても良いくらいだ。


「――復讐のための。」

 最後に付け足した。この一言で十分だ。



「復讐へは、我々も行くのですか?」

 広場から声が上がる。

 その声を口火に、ポロポロと声が上がってきた。


 ――想定内だ。


「もちろん、強要するつもりはない。」

 ここでの生活は楽しかったし、ずっとこのままでいいじゃないかという思いは何度も抱いた。

 だからこそ、復讐心を持たない人にまで、無理強いはできない。


「だから、戦闘に向かない、あるいは復讐に否定的な人たちは、この里で、安全に暮らしてほしい。初めは、俺たち3人と数人で人間の国まで行くつもりだ。」

「大丈夫、みんな安心して。」

 俺は、笑顔を作って、とびきり優しいく語りかける。


「全て、俺たちがけりをつけてくる。」


「それまで、お願いしますよ、セラフィムさん。」

 高台の足元にまで来ていた、長老の3人は、頷く。

 セラフィムさんは、体が弱っている。しかし、残り2人の長老は、聖霊魔法も使えるし、里に何かあった時は、対処できる力があるだろう。



 ガブリエルは、一歩前に出て、広場に向かって話し始めた。

「新しい族長には、我々聖霊族の持つ力を示すため契約が必要となる。新族長、オーブを認める者は、その魂を、捧げよ!」


 その声を聞いたルクとリエルは、片膝をつき、胸に手を当て、祈る態勢に入った。

 その姿を見て、広場でも、1人、また1人と同じ態勢を取り始めた。


「この身は、オーブ族長のもの。この忠義を誓う。」

「オーブ、あなたの道についていくわ。」


 その時、俺は、体にエネルギーが流れ込んでくるのを確かに感じた。

 手を眺めてみる。

 確かに自分の体だ。

 

 だが、自分の体じゃないみたいだ。

 体が軽く、熱くなるような感覚。その一方で、身に余るほどの、とんでもなく重いものを受け続けているような。


 前を向くと、広場の皆、端から端まで同じ態勢を取って、その願いを送ってくれた。一人一人の願いは、光となって、俺の元まで飛んでくる。

 その願いは、安全も、幸せも、平和も、そして復讐も、あった。



 俺が受け取っているのは、聖霊族の力そのものだ。

 そして同時に、希望であり、一人一人の命、願いだったのだ。


 俺は、手を胸に当てて感じる。



 ――温かい。


 この温かさを胸に、俺は誓った。

「ありがとう、みんな。俺は必ず、みんなの願いを果たせる希望になる。そして、みんなが抱える聖霊族の暗く辛い夜を終わらせる、夜明けとなる。」


 ウオオオオ!!!!

 広場から、うねりのような歓声が湧き上がる。


 オーブは、もう一度胸に手を当てて誓った。


 必ず――!

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