第11話 俺は、ひとりじゃない
俺は、少し昔のことを思い出していた。
オーブがこの里に来た時のことだ。
初めは、同じ人間と同じ空間で過ごすだけでも、虫唾が走った。
リエルは、この人間は、いい人だと言った。
リエルは、昔からこういうことが何となく分かるらしい。
だが、そんなこと、俺にとってはどうでも良かった。
だって、こいつは人間なんだから――。
「僕は、どうしても許せない。裏切って、幼馴染や、執事やメイドのみんな、そして家族をこんなひどい目にあわせた奴ら、あいつらを全員地獄に落とす。」
オーブの生死をかけた審判の時、オーブはこう言ったのを今でも覚えている。
この言葉は、妙に俺の中でストンと落ちたのを覚えている。
だが、同時に信じてはいけない。人間は、こうやって口から出まかせを言って、その場をしのぐのだ。もう騙されない、そう自分に言い聞かせた。
それから、この里で一番懐疑的に観察してきた。
はっきり言って、オーブの粗を探した。
だが、出てきたのは、オーブの人柄と、内に秘めた信念だった。
俺は、ある日オーブに聞いてみた。
「お前は、自分が本当に復讐を果たせると思うのか? 見たところ、お前には才能はないようだ。果たせぬ復讐など、虚しいだけだぞ。」
そう言うと、オーブは、少しも悩まず、答えた。
「はは、確かに、僕には才能はない。だけど、やるよ。無理かどうかはやってみないと分からない。本当に無理で死ぬかもしれない。でも、それよりも、無理だと自分に言い聞かせて諦める方が辛いからね。」
俺はその言葉にハッとした。なぜなら、それは、俺が里のみんなに言ってきた言葉だからだ。
俺は、里に逃げ込んでから、ずっと里のみんなに復讐計画を話していた。
その度に、言われてきた。
「まぁねぇ。悔しい気持ちもあるけど、今のまま、隠れて生き残ったみんなと仲良く暮らせればいいじゃないか。」
「復讐できなかったら、聖霊族は今度こそ絶滅することになるぞ」
みんなの言っていることは分かる。
だが、俺は、それでも、復讐の炎は消えなかったのだ。
そんな時、オーブが言った言葉は、俺の救いとなった。
――俺は、ひとりじゃない。
それからも、オーブは鍛錬に励んだ。
誰よりも早く起きて、遅くまで足掻いていた。自分の才能を埋め合わせるかのように。
その成果を感じたのは、リエルがゴブリンの群れに遭遇した時だ。
俺が、リエルが森から帰らないと聞いた時には、オーブはもう向かっていると聞いた。
なぜか、その時少し安心したのを覚えている。あいつになら任せられる、もう大丈夫だと。
現地に着いてみると、想像を超える状況が広がっていた。
辺りは激しい戦闘の跡で、血とゴブリンの肉片が飛び散り、リエルが話していたオーブの鬼神の如き躍動には嘘偽りがないことが分かった。
他にも、リエルに聞いたところ、ゴブリンの中には、腹あたりの身長がある個体もいたようだ。
ゴブリンは基本的に身長が低い。だが、腹あたりまで身長がある個体は、ゴブリンの上位種であるアークゴブリンだろう。
アークゴブリンは、戦闘能力だけでなく、周りのゴブリンに戦略を伝え、知的な先頭を得意とするため、人間の冒険者の中でも、ベテラン冒険者でなければ対処することが難しいと父に聞いたのを覚えている。
そんなアークゴブリンを筆頭に、十数体のゴブリンの群れを、たった1人で倒せるだろうか――。
当時、俺は考えた。
認めたくなかったのだ。
突きつけられた事実を認めないために、俺もさらに厳しい鍛錬に励んだ。
――しかし、あの時にはすでに、俺はもうオーブには敵わないことが分かっていたのだ。
俺は、オーブのことを認めざるをなかった。
オーブは、聖霊族の力を扱う才能がある。
無謀とも思える夢を叶える信念がある。
そして、俺は、オーブのことを、仲間と認めている。
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