第10話 決闘
族長を決める儀式、それは、族長候補による一騎打ち。
当代の族長が交代を表明した時に行われる。
今回は、オーブとルクの一騎打ちとなった。
この知らせは、住民全員に儀式当日の朝、告げられることとなる。
しかし、この2人による決闘は、誰しもが予想し、どちらに軍杯が上がったとしても、それに異を唱える者はいなかった。
皆が落ち着かない様子で決闘当日を迎えた。
「皆の者、集まったな。これより族長を決める儀式、ルクとオーブの決闘を行う!」
広場に集められた一同は、高台にいる族長の声で歓声を上げた。
「頼むよ、ノームさん、シルフさん。」
俺は、肩に乗る地の妖精ノームさんと、風の妖精シルフさんに声をかける。
ゴブリンの騒動以来、妖精族の力の扱い方を密かに練習していたのだ。
この力が無ければ、生身の人間であるオーブが勝てるはずがない。
「ふん。私の足を引っ張りなさるなよ、シルフ。」
左肩に乗ったノームさんが、いつものように腕組みして言う。
「はあ? こっちのセリフっしょ! オーブ、俺様の力だけで十分じゃね?」
今度は右肩に乗ったシルフさんが、足を組んで答えた。
「2人の力が必要だよ。それだけルクは強力な相手だからね。俺は、族長になりたい。どうしても、聖霊魔法を使えないといけないからな。だから、2人とも協力してくれ。」
「当たり前っしょ。俺様が全力で力使える時が来るなんて思ってもなかったし。その分、オーブは都合いいんだわ。族長になって暴れ回って欲しいってわけよ」
「まったくです。リエルさんがゴブリンに襲われていた時は、ドライアドさんが言うから仕方なく力を使って助けましたが、オーブさんは本当に意味不明ですね。」
フフ、と俺は苦笑いする。
2人とも言い方こそきついが、それでも俺のことを認めてくれているのは、普段鍛錬しているとよく分かった。
どうやら、俺はかなり特殊な体質を持っているらしい。
妖精の力、つまり聖霊族の力は、本来、族長とならなければ、扱うことすらできないらしい。
イメージとしては、族長になると同族との間に、神経回路的なパイプができて、それを通って力の共有をすることになる、とリエルが教えてくれた。
それが、俺は族長になる前からできた。
本来妖精の力は、妖精との間にコンタクトという、力を使う契約をしなければならない。にもかかわらず、契約をせずとも、妖精の持つ力100%を使うことができたのだ。
この原因は、長老に聞いてみたものの、「そんなものは、聖霊族を含めても前例がないから分からん」と言われてしまった。
あとは、妖精の力を最大限活かせるために、俺の体を鍛える必要があった。だから、この10年、身体能力の向上と、力に耐えられるほど体を鍛えることに重点をおいた。
今日、ルクとの決闘は、その集大成ということだ。
◆◆◆
俺の願いは一つだ。それは、あの光景を見た時から揺らぐことはない。
何歳の時かも忘れた。
何が起きているのかも分からなかった。
ただただ、地獄だった。
父を目の前で殺されたのは――。
あの時から、俺は人間に復讐するためだけに生きている。
だから、俺は負けるわけにいかない。
広場の緊張感はピークに達している。その緊張感が、いつ決闘の口火を切ってもおかしくないことを物語っていた。
俺は槍を構えると、目の前にいるオーブも戦闘体制を整える。
オーブは、妖精の力を使いこなす。その脅威さは、鍛錬を積み重ねていることをよく知っている俺が一番よく分かっていた。
だからこそ、全力で立ち向かわなければならない。
ジリジリと距離を詰める。
射程に入る。
その瞬間、俺は槍をオーブめがけて突きつけた。
その槍は届くはずだった。最速の攻撃だ。
しかし、オーブは、体を捻り、俺の槍をかわしていた。
「くっ、シルフか...!?」
「その通りっ!」
オーブの拳は、俺の頬にめり込んで、吹き飛ばされる。
いかにオーブが鍛錬を積み重ねたとしても、一人間の力を優に超えていた。
「何をした....!」
吹き飛ばされた俺は、オーブを見る。
そこには、腕が岩で包まれたオーブが構えていた。
「くっ、今度はノームか...」
「悪いな、ルク様。俺たちゃ、オーブの力になるって決めてしまったものでね。力を貸す以上、相手が誰であろうと負けるわけにはいかないのだよ」
「はは、あのノームが、ここまでやる気を出すとはね。嫉妬してしまうよ、オーブ」
「すごいだろ? 俺の
「ハッ! すぐに俺が打ち破ってやるよ!!」
俺は、笑い飛ばし、立ち上がって戦闘体制を取る。
スピードでは、シルフがついており、攻撃力・防御力ではノームがいる。
決めるなら、速攻で決着をつけるしかない・・・!
「うおおおおお!」
俺は、最大限のスピードでオーブに突進する。
そして、槍を突きつける。
突きつける。
突く!
突く!!
突く....!
突く...........!
オーブは、岩で囲われた腕で槍をいなし、弾いている。
その腕の岩も、割れて綻びが出来始めていた。
いける――、そう思ったが、届かない。
岩は、砕いても、すぐに修復される。
オーブの回避が追いつかないほど、スピードを上げようにもすでに全力を出していた。
「くっ...そぉおおお!」
俺はがむしゃらに槍を突きつけた。
「終わりだ、ルク...!」
オーブは、俺の槍を強く弾き返した。
俺は体制を崩される。
――やばい。
「
オーブは、両腕に広げていた岩を、片腕に集中させ、巨腕を作り上げ、振り下げた。
その巨腕は、俺の顔面を覆塞ぎ、地面に叩きつけた。
ドオオオン!!!
地鳴りが響いた。
熾烈な争いに、誰もが言葉を失っていた中、族長の言葉が響いた。
「そこまでじゃ、勝負あった。」
「次の族長は、オーブで決まりじゃ!」
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