第22話 双璧①

 俺たちは、アンザス領主の屋敷まで来ていた。

 いよいよ計画を実行する時が来たのだ。


 後ろを付いてくる、リエルとルクに目配せを送る。


 ――決行の合図だ。


「いくぞ!」

 俺たちは、屋敷の裏門へ攻め込む。


 屋敷の裏門は、平常時は閉まっているが、定期的に開閉されている日がある。

 その日は、夜間に物資の搬入などなされていることが分かっていた。


 そして、その日には、2人の衛兵が配備される。


 つまり、計画の第一段階は、裏門に配備された2人の衛兵を倒し、屋敷へ侵入することだ。




「何者だ!?」

 衛兵の1人が、こちらに気づいた。


「フッ、やっと来たか」

 もう1人の衛兵は、こちらを見て微笑んだ。


 俺たちは、この2人を知っている。

「お前たちは――」


「ああ、覚えてくれてて嬉しいぜ! 冒険者ギルドの時は、世話になったなあ!」


 冒険者位ギルドで、リエルに絡んできた2人組の冒険者だ。


「俺たちは、B級冒険者の【双璧】のリーダー、ヴラン様だ。俺たちの出世のために、名乗れ。お前たちは何者だ?」

 丸太のように太い腕を組んで、問いかけてくる。

 その出たちから、B級冒険者としての自信と風格が窺われた。


「おいおい、兄貴が聞いてんだろうがぁ?! その口は飾りかぁ?」

 隣にいるシュッとした筋肉をした、いかにも子分といった奴も追随する。


「まぁいい、デジル。」

 そうヴランは静止して、こちらに向き直した。


「その後ろ2人は人間じゃねぇだろ? 俺らは、亜人の奴隷売買を長くやってるからな。何となく分かっちまうんだわー。まぁ、答える気がないなら、それでいい。後ろの女は生かして、後でたっぷり吐いてもらうだけだ。」

 



 ヴランは、組んでいた腕を解き、叫んだ。

「デジル、戦闘体制ィィ!」


 それに呼応するように、デジルは魔法を発動させた。

「待ってましたァァ! 兄貴ィィ!!」



 デジルの発動した魔法は、ヴランの拳に集中し、発光し始めた。

 と同時に、ヴランは、思いっきり地面を蹴り上げた。

 


 ――ッ!!

 ヴランは、俺に向かって直線に突進し、拳を思い切り振り抜いた。



 ――ギインンッ!!

 鈍い音が鳴り響く。



 「む?」

 ヴランは、自身が放った拳の先を見る。


 ――と、そこには、体との間に岩の鎧が邪魔をして、ダメージを与えられていなかったことに気づく。



「んー、めんどくせぇな――」


 ――ガァン!!

 岩が砕け散る音がヴランの言葉を遮った。


 俺は、防御に使わなかった右手に岩を集中させ、ヴランの頬に拳をめり込ませたのだ。

 ヴランは、巨体を回転させ、ぶっ飛ばされる。


「兄貴ィィ!!」

 デジルは、大きく舌打ちをして、叫んだ。

「おい、お前らぁ!」


 その声を合図に、周りからゾロゾロと冒険者の身なりをした奴らが現れた。


 口々に声が飛んでくる。

「B級とか言って、イキってたけどその程度だったのかよ」

「ここで戦果を上げて、領主に気に入られてやるぜ」


 だが、どいつもおそらく【双璧】の2人の足元にも及ばない。そう直感した。



 だから、俺は、ヴランが飛んでいった方向に体を向ける。



「リエル、ルク。【双璧】は俺に任せろ。他の雑魚は、任せた。」


「任せて!」

「1人で大丈夫か?」

 リエルの待ってましたという返事と、ルクの心配した声が聞こえてくる。


「あぁ、大丈夫だ。俺も、この力を試したいんだ.....!」



◆◆◆


 

 ヴランの飛んでいった方向に立ち込めていた砂煙が流れると、ヴランの立ち姿が見えた。


 俺の放った【岩の拳】アーススマッシュは、手応えを感じていた。

 だが、その立ち姿からして、さほどダメージを与えられていなかったことを知る。


 ――砂煙の奥にいたヴランの顔の左部分を、何か金属のようなものでコーティングされた姿で現れたのだ。


「あぁ、いってぇなぁ!!」

 ヴランは、満面の笑みで言った。


「腕以外にもこの力を使ったのは、初めてだぜ。」

 そう言いながら、ズシン、ズシンと足音を立てて近づいてくる。


「ノームさん、シルフさん、いくよ!」

 今度は、こちらから攻める。


「おう!!」

「はい!」

 ノームさんとシルフさんの返事を聞くなり、俺は、地面を叩くように走り出した。


 走り出してから、風の力でスピードを増す。


 そして、トップスピードから、右腕にもう一度岩を集中させた。



 【岩の拳】アーススマッシュ!!



 ――ガギィィン!?!?

 鈍く砕け散る音が鳴り響いた。




 ヴランの胸目掛けて殴りつけた俺の右腕から、岩が砕け散ったのだ。


「クッ!?」

 トップスピードから繰り出された攻撃の反動が返ってくる。

 右腕に痛みが走る。


 砕け散った岩の隙間から見えたのは、ヴランの胸には、鉄でできたようなシルバーで分厚い胸当てがなされていた。

 つまり、俺の岩では、勝てなかったのだ。



「今度は、こっちから行くぜェェ!!」

 ヴランは、右腕を振り上げた。

 そこには、もともと太かった腕をさらに太く、覆われた鉄のような装備。



 【鉄槌】スチールハンマー!!


 振り上げた右腕を振り下ろした。


 急いで、防御体制に移る。

「クッ?! 【岩の鎧】アースガーディアン!」


 少しでもダメージを減らそうと、右腕に集めていた岩を、振り下ろされた拳が当たる左顔面付近に集める。


 間に合った――が、


 ――ガギィィン!?

 またしても鈍く砕け散る音が鳴り響いた。



 俺は、振り下ろされた拳の方向へ、吹っ飛ばされた。

 顔面に固めていた岩が砕け散るのと一緒に。


 またしても、俺の岩では、勝てなかったのだ。




「ハハハ、残念だったな。俺たちは鉄の装備を瞬時に作る魔法を持っている。対してお前は、同じような能力で、岩のようだな。つまり、お前の能力は、完全に俺の下位互換って訳だ。」


 ヴランの声が近づいてくるのが分かる。

 勝利を確信した声だ。



「クソッ! すまない、私の力不足で.....!」

 ひょこっと現れたノームさんが申し訳なそうにしている。


 妖精の力は、どれだけ信頼関係を気づいているかで、得られる力が変わってくるらしい。

 これは、聖霊族の族長になった時、なんとなく感覚的に分かるようになった。


 だから、ノームさんだけのせいではない。


「鍛え直しだね」

 俺は立ち上がって、ノームさんに答えた。



 そう、俺はヴランに負けるつもりは毛頭ない。


 やってみよう、そう決意して、両手を胸の前で組んだ。

 祈るように。


「力を貸して....! 火の聖霊、サラマンダーさん!」

 俺は、新たに妖精の力を加えようとする。

 今まで同時に扱うことが出来たのは、岩と風だけだ。


 つまり、岩と風と火の3属性の妖精の力の同時発動、これによって形成を逆転させようとしたのだ。

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