第23話 双璧②

「力を貸して....! 火の聖霊、サラマンダーさん!」



「まったく待ちびれたゼ! やっと出番かヨォ」

 ひょこっと現れたのは、火の聖霊であるサラマンダー。

 メラメラと炎が揺らぎ、赤の半透明の羽を持っている。


「オレが出てきたからには、負けは許さねぇ。あるのは勝利、勝利! 勝利ィ!!」

 サラマンダーは、小さな体からは想定できないほど、でかい声量だ。



「随分仕上がってるみたいだね」

 俺は、サラマンダーさんのモチベーションが上がっていることに安堵する。

 普段はお調子者で、やる気になる時とならない時の落差が激しいのが欠点だった。


 だから、安定して力を使えるノームさんとシルフさんをメインに戦ってきた。


 だが、今日は違う。

 もう既に、トップレベルにテンションが上がっているのが感じられた。


「当たり前ヨォ!! オレの力を使って勝てないなら、死ねェェ!!」

 サラマンダーさんは、力を発動させる。



 そして、同時に、俺は【岩の鎧】アースガーディアンを発動させる。



 サラマンダーさんは炎を体に纏わせる。

 生身の体で覆うと、炎でダメージがある。


 だが、岩の鎧の上から炎を纏うことで、俺へのダメージはないということだ。



 【炎岩の鎧】ヴォルカニックガーディアン!!




◆◆◆




 炎がメラメラと立ち上げる。

 だが、熱さは感じない。


 本来、岩の上に炎は立ち上がらない。

 そこで、シルフさんの風の力で炎を強化している。


 ――3属性の聖霊の力を使うことに成功したのだ。



「よし!」

 俺は、成功したことに安堵し、すぐに目の前の敵に視線を送る。



「チッ、まだ能力を隠していたか」

 ヴランは鉄の装備を厚くしながら、近づいてきた。



「行くぞッ!」

 俺は、地面を蹴り上げる。


 岩と炎を右腕に集中させる。

 硬度では、鉄に岩は勝てないことは分かった。


 ならばその分、岩の分厚さを厚くすればいい。

 攻撃一点突破だ。


 ヴランは、防御体制に入った。

 鉄を体の左半分へ集中させる。


 その上から、全力で殴りつける。



 【炎岩の拳】ヴォルカニックスマッシュ!!



 ――手応えありだ。


 そう、鉄は炎に弱い。

 それを利用した。



 だが、ヴランの鉄の装甲は想像以上に分厚い。

 後ろへ少し後退したヴランも、すぐに体制を立て直し、反撃体制に移りつつある。



 

 ――ここから、乱戦だ.....!




「舐めるなぁ!!!」

 ヴランは、奇声を上げて、突進してくる。

 鉄の装甲は、上半身に広げている。



「オーブゥ! ここで決めろ!! 最大火力ダァ!」

 サラマンダーさんの声量で、覚悟を決める。



「ああ、行くぞ! みんな!」


 ノームさんは、俺の上半身に岩を包み、可能な限り分厚くする。


 サラマンダーさんは、腕に炎を纏わせる。


 そして、シルフさんは、俺の動きを風で援助しつつ、炎の火力を底上げする。





「うおおおおおお!!」

 俺とヴランの繰り出す拳が混じり合う。




 ――ガギィィン!!




 ――ギィィン!?




 ――ガアィン!?



 鈍く砕け散る音が響きわたり、周りに火の粉が飛び散る。





「おい、あれ見ろよ」

 周りで戦闘していた冒険者も、手を止めた。

 死闘だった。




 俺の拳がヴランに届き、鉄を融解して、ヴランの肉体にダメージを与えられた。


 と思ったら、ヴランの拳は俺の岩を砕き、ダメージが与えられる。



 痛みを感じるより先に、次の拳を出さなければならない。

 そうしないと、手が止まってしまうのだ。





 ――決着は突然くるものだ。


 がむしゃらに振っていた拳が、いつからかヴランの体に直接届くようになった。




 ――ダンダンダン!




 ――ダンダン!



 ――ダン!



 鈍い音が続くようになって、気づいた。


 反撃が来ていない。



 俺は、最後拳を振り抜くと、その勢いでヴランは後方へ大きく飛ばされた。





「兄貴ィィ!!」

 汗だくになったデジルが、ヴランのところへ駆けつける。



「ごめん、最後俺の魔力が足りなくなって――」

 そう言って、デジルは、ヴランの胸に涙を落とした。




「そうか――、だから【双璧】なのか」


 俺は、既に動けなくなったヴランと泣きじゃくるデジルの下で言った。


 2人で1つの戦力、だから【双璧】というパーティ名だったのだ。




「頼む。俺のことは殺してもいい。デジルだけは――」

 ヴランの言葉は届かなかった。


「聞くな、オーブ。」

 


 血飛沫だ。


 ルクが、デジルの首を跳ねたのだ。



 言葉にならない声で、ヴランは泣いた。



 ――そして、ルクは、ヴランの胸を槍で突き刺した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る