第37話 vs 光の使徒⑥ 光の軍団

「くっ、しつこいんだよ、テメェラァ!!」

 ラージュは、大剣で薙ぎ倒す。


 大剣で弾かれて後退しても、また再び戻ってくる。


 息は上がらない。傷がついても、少しも痛がらない。


 おそらく腕を切り落としてもそうなのだろう。



 チッ、舌打ちをして、上がった息を再度整える。

 このままでは、ジリ貧だ。



「一気に決めてやる。これで、死ねやあぁあ!」


 ラージュは、大剣にオーラを纏わせる。

 禍々しい赤色だ。



 赤黒く光る大剣を振り上げるラージュを前にしても、2人の戦士は、ただ前進を繰り返す。

 自分の命など、無いものであるかのように。



【大陸斬】グランドスラッシュ!」



 ラージュは、大剣を振り抜いた。


 放たれた斬撃は、一直線の平らな道を作り、その過程にあった障害物を全て飲み込んだ。


 当然、2人の戦士は跡形もない。



「はぁはぁ、見たかっ!」

 ラージュは、膝に手をついて息を荒げている。


 リュミエールとの連戦で、2人の強者を相手に、大技を連発したのだ。

 息が上がるのも無理はない。



 そんな姿を見て、リュミエールは両手を広げて歓喜した。


「素晴らしいっ!」


「何が、素晴らしいんだ....?」


 俺は、恐ろしながら、聞いた。


 あの2人の戦士は、力も風格も強者のそれだ。

 リュミエール本人も、単なる壁になる戦士とは別と紹介していた。


 それなのに、強力な家臣を失った主人の反応とは乖離していたのだ。



「何がって? それは、ラージュ君の力量は、僕の想定以上だったからだよ! 全く感動した!」


 そう言うと、リュミエールの体を中心に、光を放ち始めた。



 これは、見た光景だ。


 ――だが、少し違う。




「だからこそ、僕は彼女が欲しい!」


【光の軍団】レギオン・オブ・ライト!!!!!」


 リュミエールが叫ぶと、光の速度は加速し、辺り一体を囲んだ。




「何だ!?」


「くっ!?」


 あまりの眩さに、目を覆い隠す。




「オーブ、逃げろぉ!」

 目を開ける前に聞こえてきたのは、ラージュの声だ。




「えっ――」



 ラージュの声に反応した瞬間、腹部に衝撃が走った。


「――ッグッ!?」


 訳もわからず、吹き飛ばされた。


「ゴホッゴホッ!? 何だ?!」

 俺は、何が起きたのか、状況を確認しようと試みる。


 初めに目についたのは、ラージュだ。

 ラージュは、大剣を構えていた。


 ――また、何か召喚したのか。



 他にも辺りを見渡してみる。


 ――は?




「驚いたかい?」

 リュミエールがいる方向を見た、その先に見えたのは、巨大な軍団だった。


 光が飲み込んだ範囲に、びっしりと人が敷き詰められている。

 その一人一人が、黄金の鎧を包んでいて、武器を持っている。



 リュミエールを中心に、先ほどまでラージュを苦しめていたような強者が数十人、取り巻きで囲っている。


 そのうちの1人が、俺を睨んでいるように見えた。


 ――あいつが、俺を蹴り飛ばしたのか?


 その周りには、黄金の鎧に身を包んだ戦士が、隊列を作って、こちらに向いていた。


 その数、数万人といったところか。


 俺が蹴り飛ばされた場所からでは、全貌が見えない。



 一つ言えることがあるとすれば、――絶望だ。




「これが、僕の能力さ。今までに僕が救済してきた人たちで作り上げた最強の軍団。」



「10万のストックが、とか言ってたのはガセだったのかよ」


「はは、ラージュ君。僕は一言もストックが”切れた”とは言っていないよ。ありもしない希望を抱かせてしまったのは申し訳なかったね。これが現実さ。」


 リュミエールは続ける。


「この能力があったから、僕は【神託会議】オラクル・サークルの使徒に選ばれた。この能力は、全てを蹂躙する力さ。こちらの戦力は、10万。それに対して、君たちは、たったの2人! どうあがいたって、勝てない。」


「くそッ」


「ああ、そういえば、言い忘れていたことがある。坊やと一緒にいたあの2人だけどね。」


 ――リエルとルクのことか?


「僕がホイホイと逃す訳ないよね? ちゃんとこの屋敷からは逃げられないように、各所に光の戦士を待機させている。今頃、捕まって殺されていないといいけどねぇ!」


 リュミエールは、甲高い声を出して笑った。



 何も、声に出して言い返せなかった。


 リュミエールに言われたことを思い出していた。

 この事態は、俺の弱さが招いたのだ。


「くそッ、くそッ! くそッッ!!」

 俺は、地面を叩きつけた。



「俺は、結局、何も.....」

 地面に頭を叩きつける。

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