第36話 vs 光の使徒⑤ 死体の戦士

 アウレアとルミナは、剣を抜いて戦闘体制を取る。


「さぁ、行け!」

 リュミエールの合図で、2人は勢いよく前進してきた。

 その挙動は、2人の意思はなく、リュミエールの道具という印象だ。



「テメェらの相手は、私だよ!」

 前進してくる2人を、ラージュは迎え打つ。


 アウレアの剣を弾き返すと、俺の方向へ走るルミナの元へ高速で移動し、俺への進路を断つ。


 2人は自動的に、俺への進撃を辞めて、ラージュに専念しだした。

 ラージュを超えなければならないと悟ったらしい。


 ラージュは、リュミエールと戦闘していた時よりも、表情にゆとりがあり、かなり優位に戦っているように見えた。



「やっぱり、頼もしいな」

 俺は、ラージュの攻勢を見て、呟く。

 そして、リュミエールの方向へ視線を向き直す。



「俺も、やるしかない.....!」


【神の剣】ディバインソード

 聖霊魔法で剣を作り上げる。


 その動きに、リュミエールは反応した。


「あれ、もしかして、坊やが僕の相手をするの?」


 リュミエールは、澄ました表情をこちらに向けた。

 今まで相手として見ていなかったのだろう。

 先ほどまでラージュに向けていた真剣な表情とは変わって、子供の相手をするかのような表情だ。



「うーん。まあ、いいよ。君の能力も、普通の魔法ではなさそうだし。その能力のことをもっと教えてもらおうかな」


「舐めるなあぁ!!」

 俺は、全力で地面を蹴った。


 一直線で、リュミエールの元まで届く。



――キイィン!



 だが、弾かれる。


【光の刃】ブレイド・オブ・ライト。速いね。だけど、ラージュのような危機感はない」


「うるさい!」

 言われなくても、分かっている。


 姉さんに劣っていることは、生まれた瞬間から知ってんだよ、こっちは。



 言ってしまえば自分の仕事は、ラージュが来るまでの時間稼ぎだ。

 それまで、リュミエールをこの場に留めておくことができれば、すぐにラージュならこちらまで来てくれる。


 それまで耐えればいい。





「――――と、思ってるんじゃない?」



 ハッとした。

 そうリュミエールに言われた時は、心臓が跳ねた。

 全身を走る血流が一瞬にして止まり、酸素がなくなったかのような感覚だ。


「その反応を見ると、図星だね」


「坊やに足りないのは、そこだよ。戦場において、誰かがいれば、きっと何とかしてくれるというのは、自分を安心させるための妄想でしかない。その考えの甘さが、君の行動や、表情に出ているんだよね。だから、君の力は強力だと思うけど、それでも、僕やラージュ君がいる領域に来られない。」



 俺はリュミエールの言葉をなぞるように、これまでの戦いを思い返してしまった。




 【双璧】の2人に止めを刺すことに躊躇していた時、ルクに言われてハッとしたこと。


 【真紅十字団】しんくのじゅうじだんの2人、アバンとブリックに止めを刺す時には、ルクに言われたことを思い出して、俺自身で決着をつけることができた。

 だが、本心は、2人の過去を聞いて、動揺して、止めを刺すことに躊躇した。


 ルクがやられたところを見て、ラージュが助けに来てくれた時、本当は、この復讐は達成したも同然だと考えてしまったのかもしれない。


 頼りになる姉が助けに来てくれて、もう安心だと――。


 もう、俺は、自分にとって辛い思いをしなくてもいいんじゃないかと――。


 ラージュがいれば、何とかしてくれるだろうと――。



 そうだ。

 ずっとそうだったじゃないか。


 俺は、小さい時から、兄弟に比べて何もなかった。

 特技も、長所も、誇れるところも。


 だから、ラージュが生きていることを知って、俺の復讐計画に協力してくれることを知って、1人じゃないことを知って。

 子供の時みたいに、兄弟に甘えて、自分のできることだけをしていれば、優秀な兄弟がうまくやってくれると、そう考えていたんじゃないか。



 ――何にも変わってねぇなぁ、俺は。



「ほら、見てみるといい。ラージュ君は、確かに強い。だけど、何の勝算もない戦士を戦わせたりしないよ。」


 リュミエールが視線を送る先で、ラージュは戦っている。


 だが、雲行きが怪しかった。

 怪しくなっていた。



「え...?」



――ギンッ!


――カン!

――カン!


 離れているこちらにまで、剣がぶつかり合う音が響いてくる。

 ラージュの剣は強力なのだろう、それを受けた2人の戦士は、大きく後退している。


 だが、すぐにまたラージュのもとへ戻り、戦闘を開始する。


 心なしか、ラージュの攻撃速度が落ちているようにも思える。



「あの2人は、結局のところ、死体だ。痛みや疲労なんていう概念はないんだよ。」


 はっ、そうか。


「つまり、無尽蔵の体力を持つ、戦闘マシーンを相手に、戦い続けているということさ。しかも、強力な2人の戦士を相手に戦っているんだ。既に倒されていてもおかしくない。本当に大した女性だよ、ラージュ君は。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る