第44話 vs 光の使徒⑬ 最終決戦-決着-

【光の刃】ブレイド・オブ・ライト


 リュミエールは、黄金の鎧に身を纏い、光の剣を構える。

 今まで、構えも防具もしていなかったところを見ると、やっと本気を出したのだろう。


 周りは、リュミエールの召喚した光の軍団と、みんなが戦っている。

 必死になって、俺がリュミエールの元へ辿り着くために道を作ってくれた。


 ここで負けるわけにはいかない。


 プレッシャーが心臓の鼓動が速める。

 だが、驚くほど頭は冷えていて、自分でも分かるほど冷静だ。



「そういえば、さっきお友達と話しているのが聞こえてきたけど、君、聖霊魔法とやらを使うんだってね。聖霊魔法なんて歴史の本でしか見たことのない古代の技術でしょ? 今はもう使っている人なんて見たことないし。」


 俺は、リュミエールの言葉に耳を傾けず、願った。

 両手を胸の前で組み、祈りを捧げる。


「ここまできて、お祈り? やっぱ聖霊魔法というのは、コスパ悪いみたいだね。やっぱ歴史上の技術っていうのは、今残っている技術に淘汰されてきた技術ってことなんだよ、結局。つまり、聖霊魔法というのは、今の魔法技術に淘汰されたから、誰も使っていないんだ。」



 祈りを捧げていた両手が、胸の前で光り始めた。


 今、聖霊族のみんなと、心が通じたのだ。


 あの時、俺を族長として任命してくれた時のように。



「演説は終わったか?」


 俺は、瞼をゆっくりと持ち上げて、リュミエールを見据える。


 不思議だ。

 この場でリュミエールと対峙しているのは、俺だけのはずなのに、みんながいる。


 心が温かい。

 離れていても、里のみんなもここで俺を応援してくれているかのようだ。


 何も怖がることはない。

 俺はひとりで戦っているんじゃない。

 みんながいる。



 ――雰囲気が変わった.....?

「イライラさせるねぇ....! この場面で、ハッタリをかませるその根性だけは認めてやるよっ!」


 リュミエールは、光の剣を振るった。

 その振るった軌道に光の残滓が残り、光の光線が飛んでくる。



 速い、が、受けられる。


 俺は剣でガードする。

【神の剣】ディバインソード


 俺は、聖霊魔法を発動させた。


「くっ、いつの間に魔法を発動させたっ! まぁいい!」


 リュミエールが出す光の光線は、スピードを増していく。



 だが、問題ない。

 よく見えている。

 想像以上に、今の俺は冷静で頭も回っているようだ。


 これなら反撃もできるな。



【神の炎】ディバインフレア


 光の光線を弾き、剣を持たない左手をリュミエールの足元へ向ける。


「!?」


 リュミエールの足元が赤くなり、一瞬にして火柱が立った。


「くっ!!」


 だが、一瞬にして左へ体を捻って回避する。

 予想外の攻撃だったのか、体制が整っていない。



 攻めどきだ――。



「地獄の炎で燃え尽きろ――。【天への死炎】ヘヴンヘルフレイム!」


 回避したリュミエールへ、炎で連撃する。


「っ?!」


 リュミエールは、両腕を盾に顔面を隠す。


 さすがに動きが速い。



――シュバアン


 俺の放った黒き炎が、リュミエールの右腕に燃え移った。


「ぐあっ、何だこの炎は!?」


「お前を地獄まで誘う、地獄の炎さ」


「チッ.....!」


 リュミエールは、炎を纏った右腕の防具を外した。



「何か吹っ切れたようだな。泣きっ面だった坊やだった時とは、大違いだ。僕を殺すことに容赦がない。」


「元からないさ」


 俺は、思い切り地面を蹴り、叫んだ。

「シルフさんっ!」


「待ってたぜ!」


 シルフさんはいい返事と伴に、全力の風を俺の背中にぶつけた。



 ドンっという鈍い音とともに、最短速度でリュミエールとの距離を詰める。


「チッ!?」


――ギンッ


 鈍い音に続いて、地面が割れる音が響いた。


 リュミエールは、俺の攻撃を防ぐことに成功した。

 だが、すぐに攻撃に転じられる体制ではない。


 かろうじて、剣の手元の方で受け止めるのが限界だ。



「この力は....!?」


「みんなの”想い”の力だよ。みんなの力があるから、俺は強くなれるんだ!」



 ギチギチと剣が鳴りあっている。

 確かな手応えを感じていた。


 だが、剣はそれより先へ進まなかった。


「ああ――、あぁ! ”想い”、”想い”、うるせえぇんだよ!」


――ギイィン!


 剣が弾かれた。


 俺は、シルフさんの風の調整で、体制を立て直しつつ着地――。

 俺の着地と同時に、リュミエールは何かを叫んだ。



【光の爆裂】バースト・オブ・ライト!!」



――ドゴゴオオン!!



 足元が爆発した。


 視界を砂煙が覆う。


 何が起きた――。

 だが、思考の隙を与えてくれない。 


 砂煙から、リュミエールの剣が襲う。




「うおおおおお! 【光の嵐】ストーム・オブ・ライトぉぉぉ!!」



 光の剣を振り回しつつ、剣を振るった軌跡から光の光線が飛び交う。


 その全ての攻撃が、俺の顔面、喉、頭、手足の関節、腱、心臓と急所を狙うものだ。


「まずい....!?」

 俺は、急いで左手にも剣を出す。


 双剣だ。

 これで、防ぎ切ってやる!



――ギンッ!!



――ギンッ!!



――ギンッ!!



 ギンッ! ギンッ! ギンッ! ギンッ! ギンッ! ギンッ! ギンッ! ギンッ! ギンッ! ギンッ! ギンッ! ギンッ! ギンッ! ギンッ! ギンッ! ギンッ! ギンッ! ギンッ! ギンッ! ギンッ! ギンッ! ギンッ! ギンッ! ギンッ! ギンッ! ギンッ! ギンッ!



 一撃で俺を殺せる攻撃は重く、鈍く重い音が響く。



「くっ、防ぎきれないか.....」


「オラァ! さっさとくたばれやぁ!」



 リュミエールの美しい顔は、もう見る影もない。

 血相を変えて、腕を、手を、全身を振っている。



――全力を出す。俺が希望となる。


 俺がみんなとした約束だ。


 ずっと考えていた。

 どうすれば、この約束は果たせるだろうか。

 

 その答えは、まだ出ていない。


 だが、これだけは分かる。


 その約束を果たすのは、”今”だと――。



 俺は、多少の怪我は覚悟して、集中する先を防御から攻撃へ写す。

 集中するのは、心の内だ。


 聖霊魔法を発動し、力を内へ貯める感覚。



――ザッ

――ザッ

――ザッ!


 光の光線は、俺の肌を切り裂いた。

 血が勢いよく吹き出す。



「体力切れか!? ならこのまま、潰れちまえぇぇ!」


 リュミエールは、光の剣を大きく振りかぶり、勢いよく振り下げた。


「オラァァ、死ねぇ!」




――今、希望の杯は満ちた。




 俺は、最大まで満ちた聖霊魔法を一気に解放する。




――うおおおお!




【神聖なる希望】ディバイン・ホープ


 俺の心臓を中心に、空間が広がる。

 その空間は、リュミエールの剣を飲み込んだ。


 振り下ろしていたはずの剣が消えた。


 

「なに!? どうなっているん――」



 リュミエールの言葉は、閉ざされた。



 空間は、全てを飲み込んだ。


 この場で戦っている仲間、光の軍団、1人残らず飲み込んだ。



 眩い光が、閃光のように輝いて、全員が目を閉じた。

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