第32話 vs 光の使徒① リュミエール
「久しいね、ラージュ」
黄金の兵隊数百の屍の上に優雅に座る男は、ラージュのことを知っているようだ。
白っぽい金髪は毛先まで手入れされていて、月明かりに髪がキラキラと輝いている。
髪だけではない。
まだ誰も踏み荒らしていない雪原のように、白くきめ細かな肌、指先。
まるで、今日この日の月明かりは、この男のためのスポットライトだとでも言えてしまうほど、その美しさに、この場にいる誰もが息を呑んだ。
どこかの国の王子様か。
はたまた、世界を救う英雄か。
間違いなく、彼は正義の味方で、俺たちが悪だろう。
そう思った。
「もう忘れてしまったのかい? 今日のように素晴らしい月明かりの日に、初めて会ったあの日のことを」
「あんたが出てくるかい、リュミエール....!」
「はは、やっぱり覚えてくれていた! 安心してくれ。僕は君を高く評価している。だから、君は何も言わずにこの場を立ち去ってくれ。そうすれば、君は初めからいなかったことにできる。」
「冗談を。あんたが出てくるくらい依頼者は大物なんだろう? 私がこの場にいた以上、私も抹殺対象になってるだろう。」
「依頼者か――。確かに、大物だね。なんて言ったって、”神”だからね。」
「――!? 神だと?」
「あはは、さすが僕が認めた女性だよ! この言葉の意味が分かるなんて!」
「”神”――、つまりテメェ、
――
こいつが、グラン王国を滅亡へ追い込んだ組織の幹部ということか。
「ご名答! ついでに、S級冒険者のよしみで教えてあげるよ。僕は今回、使徒として初任務でここに来ているってわけ! つまり、絶対に失敗できないってこと。」
切れ長の目を、ギロリとこちらに向けた。
リュミエールは、ラージュと会話しながらも、俺やルク、リエルの動向を一つ一つ観察している。
少しでも下手に動けば、命はない。
否――、動けないのだ。
リュミエール自身はごく自然体で会話をしている。
そのはずなのに、心臓を鷲掴みされていて、いつでも握りつぶせるような緊張感と切迫感がある。
その恐怖に、足がすくむ。
この男の強さは、今まで敵なんて、子供の遊戯だったのだと思わせるのに十分なほどだ。
「そこの坊やが目撃者を全員殺しちゃったから、ラージュがここにいたことを知ることになるのは、僕1人だけってこと! ほんとナイスだよね! あっ、でも結局屋敷の人間全員殺すつもりだったから、問題ないのかな笑」
リュミエールは、足元に転がる屍の黄金の鎧通しをカンカン鳴らして笑った。
「私を生かしてどうする?
「はは、君じゃ無理だよ。だからね、ラージュは僕のお嫁さんに迎えてあげるよ」
「は?」
「え?」
俺も思わず、声が出てしまった。
「姉さん、あの人とそんな関係なの!?」
「そんなわけないだろ!」
「――姉さん?」
「会ったのもS級冒険者になった時、会合に出席した時の一回だけだし、何より、私がああいうナヨナヨした王子様系の男が苦手だって知ってるだろ!?」
「ナヨナヨ......?」
「姉さん、言い過ぎだって! あの人、聞いてるよ!」
「あ”」
俺とラージュは、恐る恐る月明かりが照らすリュミエールの元へ視線を動かす。
優雅に座っていたリュミエールは、立ち上がって足元を見ていた。
「あ、あの......」
「ふ、ふふふ。ラージュ。君の気持ちはよぉぉく分かったよ。」
ガバっと顔を上げたリュミエールの瞳は充血していて、今までの端正な顔立ちは面影もなく、引き攣った笑顔をしていた。
「ラージュ! 君はここで、僕の手で! 殺してあげるぅぅうう!!」
「ちっ、
ラージュは、大剣を地面に突き立てて、防御体制を取る。
その後ろへ、移動する。
「
リュミエールは、防御体制を取ったラージュ目掛けて、攻撃を仕掛ける。
月明かりがやけに眩しく感じた。
――月明かりがこんなに眩しいなんて、おかしい。
一体何が。
そう思った瞬間、衝撃波の波が押し寄せてきた。
――ガッ
――ガッ
――ガッ
――ガッ!
――ガッ!ガッ!
――ガッ!ガッ!ガッ!
「ぐあぁ!」
ラージュの盾のおかげで、直撃は避けられていた。
しかし、見境なしに続けられる攻撃の波動は、四方八方の至る所から押し寄せた。
「ぐっ、耐えろ!」
「姉さん、あんな奴に勝機はあるのか?」
「まず、普通に戦っても勝てない。私も全力を出すしかない。オーブ、お前も全力を出せ。一切出し惜しみをするな! リエル、ルク、お前たちは、すぐにここから離脱しろ。お前らがいたんじゃ足手纏いだ!」
「ん? 作戦会議か?」
攻撃が止んだ。
「くそッ、早く来てくれ......」
ラージュは、何か呟いた。
だが、俺は聞き取れなかった。
「何か言ったか?」
「何でもない。オーブ、同時に攻め込むぞ。その隙に2人は逃げろ。」
「分かった!」
3人は、同時に了解を示す。
「行くぞッ!!」
ラージュは、盾を解放して、勢いよく大剣を振り上げた。
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