第34話 vs 光の使徒③ ”光”の力

「行けっ! 姉さん!!」

 俺は、ラージュに向けて、聖霊魔法を発動する。

 少しでも力になれるように、能力を向上させる魔法だ。



 ラージュは、力が流れ込んでくるのを感じた。

「ありがとう、オーブ! 任せろ!」


 ラージュが、俺の言葉を聞いて答えたのかは分からない。

 だが、俺の気持ちは伝わったのだ。




「オラァ!」


 ラージュの大剣で、リュミエールは、体を大きく後退させる。



「うぉっ?!」




――ギイィン!!


――ガギイィン!!


――ギイィン!!



「くそっ、いきなり速さも力も増した?! まさかあの坊やの仕業かな?」

 リュミエールは、ラージュの剣を防ぎながら、言う。


「はっ! そんな悠長に構えてていいのかよ!」



 ラージュは、大剣のオーラの色を変えた。



 ――真っ赤なオーラだ。

 その禍々しい赤の色を見ると、一撃必殺の大技が来るのが分かる。


 オーラでさらに大きく見える大剣を、大きく振りかぶった。



「まずいっ」

 リュミエールは、表情を崩して後ろに後退し、防御体制に入る。



 光が、リュミエールの横に降り注いだ。

 その光は、淡く、天使が降りてくるような光だ。


 その光が降り注いだ場所に、黄金の鎧を着た戦士が数十人現れて、大きな盾を構えてリュミエールを守る。


 さっきまで不自然に現れていた屍と同じ鎧だ。




 ――だが、俺はその戦士に目掛けて、新たに聖霊魔法を発動させた。



【神の炎】ディバインフレア!」



 戦士の足元から、火が吹き上がる。



「なにッ?!」


 戦士は避けることなく、火柱が体を突き刺した。



「ナイスッ!」

 ラージュは、振り上げた大剣を、思い切り振り抜く。




「オラらあぁぁ、死ねやああ!! 【大陸斬】グランドスラッシュ!!」

 大剣は、空を斬った後、何かが破裂するような音を響かせて、オーラと同じ赤色に光る斬撃を飛ばした。


 その先には、リュミエールがいる。

 周りに身を防ぐ戦士も壁もない。


 ――これは、取った.....!

 そう確信した、誰もがそう確信したはずだ。





「仕方ない、【光の生贄】サクリファイス・オブ・ライト


 リュミエールを中心として、何かが爆発したかのように眩い光が周囲を囲った。


 だがその光は、目を塞ぐような不快なものではなく、月明かりのように優しいものだった。

 その光の中に、ラージュが放った一撃必殺と思えた斬撃は吸い込まれていく。


 何の爆発音も、衝撃波も飛んでこない。

 深海に沈んでいく潜水艦のように、底がないところへ吸い込まれていく感覚だった。




「バカなッ?! 何をした!?」

 ラージュは、光の中にいるはずのリュミエールに声を張り上げる。





「まったく勘弁して欲しいよ。まさか今日だけで、10年分のストックを使い切ってしまうなんてね。」


 光の中から、リュミエールの声が聞こえてくる。

 その声は、全くと言っていいほど、焦りも怒りも緊張も感じさせないものだった。


 リュミエールを包んでいた光は、少しずつ淡くなっていき、中の様子が見え始めた。





「――なっ!?」




 光が消えて、見えてきた光景は、見たことのある景色だった。


 ――黄金の兵隊数百の屍の上に、リュミエールは立っていたのだ。



「さすがの僕もヒヤヒヤしたよ。」


「確か君は、僕の能力の仕組みが気になっていたと言っていたね。ここまで僕のストックを減らしたご褒美に教えてあげよう。」

 そう言いながら、リュミエールは屍の山を降り始めた。

 階段のように死体をひとつ、またひとつと踏みつけて、降りる。



「僕は、【神託会議】オラクル・サークルの光の使徒、ターブル・ロンド・ド・ラ・リュミエール。光を操り、光のために生きる。そして、この子らは、僕の光で救済した者達さ。」

 リュミエールは、足元にある屍を指して言った。




「救済....?」


「そうさ! 【神託会議】オラクル・サークルとは、人間を導くために創られた組織だ。そして、僕の使命は、闇に心を奪われた人に光を当てて浄化し、闇から救済することなんだ。」



「それってつまり――」

「テメェが、大義名分を掲げて、人殺ししてるだけじゃねぇか!!」



「はは! 汚れた人間は、生きているだけで、他の人に有害なんだよ? 腐ったリンゴは周りのリンゴをも腐らせるだろう? それなのに、闇に心を奪われた人間を消して何が悪い!?」


「汚れてるかどうかをテメェらが勝手に判断してんじゃねぇ! 人が人の良し悪しを判断できると思い上がるんじゃねえよ!」



「もしかして、君は、僕が君たちと同じ人間だと思っているのかい?」



「は?」



「これは失礼したね、そこから説明するべきだった。僕は、人間を超越した存在だ。生まれた時から天に選ばれし特殊能力を持っていなければ、【神託会議】オラクル・サークルの使徒にはなれない。例えば、先ほど君が放った斬撃は強力だった。直撃していたら確実に死んでいただろう。だが、今こうして生きている。これは、僕が持つ特殊能力光の力のおかげだ。」


 リュミエールは、続けた。


「僕が今まで救ってきた人達はストックとして、僕の命を守る壁となる。【光の生贄】サクリファイス・オブ・ライトという能力だ。この能力は、発動すると僕の命を守るために必要な命を計算し、壁として消費される。もうすでに、10年間貯めてきた10万の戦士を使ってしまった。初めは、そこの坊やの一撃、次は、ラージュ、君の一撃。この2回の攻撃だけで、10万消費されたのは痛手だったが、実に良い収穫もあったと思っているよ。」



 リュミエールは、ラージュを指さして、言った。



「やはり、君は僕の妻となってもらう。そして、戦士として一生僕と戦い続けよう!」

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