第39話 vs 光の使徒⑧ 援軍

「突撃イイイィィィ!!!!!!!!」



「何だ?」


「遅ぇんだよ! クソ兄貴」

 ラージュはニカっと笑った。



「おい、ラージュ! あれは何だ!」

 リュミエールは、立ち込める煙を指差して言った。

 今まで見せていた澄ました表情は、そこには無かった。



「はっ! さっさと止めを刺さなかったことを悔やむんだな。お前はもう終わりだ!」


「くっ、この軍勢を前に何ができると言うんだ!」


 リュミエールは、光の軍団に指示を出す。


「全軍で、あいつらを迎え撃て!」


 光の軍団は動き出し、地鳴りは明確な振動となった。



 ゴゴゴ、、!



「姉さん、一体何が起きてるの!」

 俺は状況が飲み込めていない。


 ラージュが誰のことを思って、「兄」と言ったのか。



 心臓が高鳴る。

 もしかしたら、という気持ちはあるのだ。


 ただ、兄弟子のような存在が出来たのかもしれないし、その人が助けに来てくれたのかもしれない。

 早々に決めつけるべきでない。

 違うと分かった時のショックは計り知れないからだ。




 だが、その心配も徒労に終わった。


 待っていた返事が、ラージャの口から飛び込んできた。



「みんなだよ! 私たちの家族。故郷みんなだ!」


 

「え――」


 ラージュの告げた言葉の意味を噛み締める。


 それでも飲み込むことができない。



 ――みんな、生きていた?






「目標は、あの黄金の鎧を着た軍団!! 蹂躙せよォォ!!」



 ウオオオオオオオ!!!


 砂煙をあげていた軍勢の声が届いてきた。

 かなり地鳴りも振動も大きくなっている。


 迎え撃つために先行した黄金の鎧が弾け飛んでいくのが見える。


 リュミエールの表情に焦りが見えた。



「.......――ーブ!」


 聞き覚えのあるような声が聞こえたような。

 でも、分からない。



「チッ! 何の役にも立ちやしねぇ! 行け! お前たちが止めてこい!」

 リュミエールは、側近にいた光の軍団の中でも強者と思われる戦士を向かわせる。


 ラージュと戦っていたようなやつらだ。



「......オーブ――ッ! どこ!?」


 はっと後方を見渡す。


 やはり、どこからか声が聞こえる。俺を呼ぶ声が。


 リエルではない、女性の声。そして、どこか懐かしい声だ。



「オーブ、安心しろ。あいつらは強い。お前と同じように強くなったんだ。」

 ラージュの言葉は優しい言葉だ。だが、その声色やこもった気持ちはとても強かった。


 それがとてつもなく心強い。



 俺は聖霊魔法を発動させる。

 これは、敵を倒すためのものじゃない。


 俺とラージュの居場所を知らせるための魔法だ。


【聖なる目標】ホーリーオブジェクト

 俺とラージュの間に、光の柱を作る。

 この柱は、天まで届くほどの大きさと輝きを放つ。



「ッ! また余計なことをしやがって! お前らは最後の人質として生かしておいたが、お前だけは殺しておけば良かったよ!」

 リュミエールは、光の剣を出して、大きく振りかぶった。

 振り下ろせば、俺を真っ二つにできる軌道だ。




「僕の邪魔ばかりしやがって。死ねっ!」


 光の剣は、容赦なく振り下ろされた。


 俺は目を閉じた。




――キィン!!




「クッ......!」



「何とか間に合ったね......!」


 目を閉じた先で、瞬間的な突風と剣と剣がぶつかり合う音が聞こえてきた。

 そして、声が聞こえてきた。

 先ほどから俺の名前を呼んでくれていた声だ。


 その声は、今の俺にはあまりにも優しくて、懐かしくて、空いた心にスッと差し込んでくる日差しのような温かさがあった。



「ユミ....!」

 子供の時、最後に見た時の腰のあたりまで伸びた綺麗な金髪は、黒く染められていて、外見では別人に見える。


 だが、その雰囲気や声色から、俺の幼馴染のユミエールだと分かる。



「生きてて、良かった......」

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