第40話 vs 光の使徒⑨ 続々と

「生きてて、良かった......」

 俺は、咄嗟に出した言葉が、喉につっかえて上手く出せなかった。


 やばい、視界が霞む。

 涙がとめどなく溢れるのだ。



「それはこっちのセリフよ....! ほんとに、ほんとに生きていてくれて、嬉しい! 会いたかったよ、オーブぅ!」


 ユミは、剣を交えながらも、満面の笑みを見せてくれる。



「ぞろぞろと湧いてきやがって! やれ! お前らっ!」

 リュミエールは、側近の戦士に指示を出す。


 初めに動いたのは、屈強な戦士だ。

 剣は持っていない。

 だが、丸太のように太い両腕に、黄金の籠手をつけている。

 見るからに体術で戦う格闘タイプの戦士のようだ。


 戦車のような体型で突っ込んでくる。


「気をつけて、ユミ! あいつらつよ――」

 俺の言葉は途中で行き場を失った。

 不要だと、途中で気付いたのだ。


――スパンっ


 突っ込んできていた戦車は、正面から真っ二つに分かれた。


「なっ!?」


 ユミは腰に据えていた刀をいつの間にか取り出していたのだ。


「また腕を上げたな。ユミ」

 ラージュは、ユミの強さを知っていた様子だ。



「何が起きた?! 君は何者だ!」

 リュミエールがわかりやすく取り乱す。


「あんたが、【神託会議】オラクル・サークルね」

 ユミは抜いた刀を肩にポンと乗せて答えた。



「この程度でラージュ様の足止めできてたと思ってるの? マジ冗談きついんだけど!」


 「それに」と、ユミは続けた。

 

を怒らせたこと、後悔するのねっ!」


「何だと!?」





――ドゴオオォォォン!!





 轟音が鳴り響いた。

 全員がそちらに注目する。


 一本の砂煙が立つ方向だ。

 砂煙は、爆発とともに高さを増し、辺り一体を覆っていた。



 砂煙の中から、人間が外へ投げられている。

 1人。

 また1人。


 砂煙から出てきた人間は、煙が尾を引いて、地面に打ち付けられていく。


 その様子は、砂煙の中から大砲を打っていて、その砲弾が外へ飛び出るかのようだった。

 その砲弾一つ一つが、人間であると考えるとゾッとする。



 斬撃の様子はない。

 とても人の力とは信じられない光景だ。



 だが、その中から人の声が聞こえてきた。



「ヌウウオオオオオ!!!」



 その雄叫びは、言葉を忘れた獣のようだ。

 理性のかけらもない。


 だが、そんな雄叫びの中に、言葉が聞こえてくる。


「イマ、行くゾオオ!!」


 その言葉を、その声を聞いて、俺は誰があの中にいるのか分かった。

 俺にとって、とても懐かしいものだったからだ。



「もしかして、アレクシス兄さんも来てくれているのか....?」


「さすが、よく分かったね。アレクシス様は、ラージュ様とオーブを助けに単身乗り込んだの。あの砂煙も全部アレクシス様がやったんだと思うわ」


 アレクシスは、グラン王家の三男として生まれた男だ。

 幼少期から格闘術に秀でていて、将来は世界一の格闘家になると自他共に楽しみにしていた。


 ユミの言葉は大袈裟に思える。

 だけど、子供の頃のアレクシスを知っている俺なら、その言葉を信じられる。


 ブウアアン!


 砂煙の中から、空を切り、地面から砂煙を立ち上げ続けていた獣のような大男が現れた。

 上半身は裸で、ダメージの入ったパンツを履いている。

 オレンジ色の髪が背中まで伸びていて、ライオンが人間になったような出立ちだ。


 胸に入った深い傷が痛々しかった。

 俺の知らない間に、どれほどの研鑽を積んだのだろう。

 どれほどの死地を乗り越えてきたのだろう。


 少なくとも俺は、その姿に"英雄"を感じた。


 アレクシスは、戦闘終了を合図するように、両の拳を胸の前で叩いた。

 ふんっという荒い鼻息が聞こえてくる。



「ラージュ!」

 アレクシスは、俺たちの元まで走ってくる。


「遅いじゃねぇか、バカ弟」


「これでも死ぬ気で飛ばしてきたんだぜ。それよりも、お前オーブか?」


 アレクシスは、俺の方に目線を移した。



 本当に涙もろくなって仕方がない。

 鼻を啜り、涙を拭いて、言葉を出す準備をする。


「ああ、兄さん。来てくれてありがとう」


 頬を涙が伝った。



 ポンっと肩に手が乗る。

 その手は、大きく逞しい戦士の手だ。


「よく生きていてくれた。それにいい顔になったじゃねえか。見違えたぜ。」


 アレクシスは今日会った中で、一番穏やかで温かい声色で言ってくれた。

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