善戦

 それから江真えま玲玖れくは、全身全霊を籠めて泰守やすもりと殴り合った。血飛沫と火花が飛び散る戦場で、三人は極限の命のやり取りを交わしている。一発、また一発と、二人の拳は眼前の強敵の身に叩きつけられていく。その節度、泰守は衝撃波のような炎を放ち、応戦していく。両陣営ともに、息継ぎの一つも許されない状況だ。江真たちにも勝機はある。この闘争を通して、泰守も息が荒くなりつつある。

「ゼェ……ゼェ……なるほど、少しはやるようだな」

 そう口にした彼は、全身に傷を負っていた。一方で、江真と玲玖も重傷を負っている。それでも彼女たちは、戦わなければならない。

「そうだ。私はもう迷わない。今の私には、大義のために命を奪う覚悟がある!」

 江真は声を張り上げた。彼女に続き、玲玖も言う。

真嶋まじまァ……さっきはなんつったよ。仲間と同じ墓に入れることを、光栄に思えだぁ? 笑わせるな、クソ野郎!」

 勝利の兆しを見いだした二人は、強気だった。それからも彼女たちは、炎や体術による攻撃を繰り返していく。その俊敏な挙動には、一切の隙が無い。そこで泰守は空中回転回し蹴りをさく裂し、二人を薙ぎ払う。その動きには、一切の迷いが無かった。それから流れるように、彼は両手から灼熱の炎を放つ。江真たちはその身を焼かれつつ、もがき苦しみながら地面を転がった。

「おいおい、図に乗るにはまだ早いんじゃないか? お前らはかなり失血している様子だが、俺はまだ軽傷で済んでいるんだ。先に息が上がるのは、どっちかねぇ」

 依然として、泰守は彼女たちを見下している様子だった。その発言はより一層、江真たちの血をたぎらせる。

「君がどんな御託を並べようと、私たちのすべきことは変わらない。全身全霊を以て、私は同胞の命を守る!」

「アタシは、江真に旨いワインを奢ってもらうまで、死ぬわけにはいかねぇ! アンタの遺影を肴にすりゃ、どんな酒も上物だろうよォ!」

 そんな啖呵を切った二人は手を重ね合い、巨大な炎の球体を生み出した。彼女たちは全力を籠め、眩い光線を発射する。しかしその攻撃も、泰守の生み出す炎の壁に吸収されてしまう。されどこの瞬間には、確かな隙があった。それを逃さなかった玲玖は、すかさず相手の至近距離に潜り込む。そして彼女は、標的を青白い業火に包み込んだ。

「ほう……」

 この炎に呑まれている最中でさえ、泰守は冷静沈着だ。彼は玲玖の胸倉を掴み上げ、それから彼女の身を地面に叩きつけた。続いて、彼は炎を帯びた両脚で跳躍し、彼女の背中に強烈な蹴りをお見舞いする。その時、泰守の頬に、猛火をまとった拳が叩き込まれた。彼が目を遣った先にいたのは、鋭い眼光をした江真だ。

「泰守、君の強さは、はっきり言って化け物並みだ。だが、たった一人で私たちを倒すことは出来ないようだな」

 彼女は言った。逆を言えば、後一人分でも戦力を失えば、彼女は圧倒的に不利になるということだ。

「確かにそうだな。ここは慌てず、一人ずつあの世に送ってやるとするか」

 そう切り返した泰守は、玲玖の髪を掴み上げた。彼の肩から右手にかけて、眩い炎が渦巻いていく。

「まずい……!」

 咄嗟の判断により、江真は行動を起こそうとした。そこで彼女を阻んだのは、凄まじい強風だった。泰守の周囲を取り巻く風は、彼女の身を徐々に後退させていく。もはや彼女には、間合いを詰めることすらままならない。


 玲玖は別れを告げる。

「ククッ……アタシも惨めなモンだな。力に溺れた末路に、力を以て討たれるとは……」

「玲玖!」

「後は託した……江真……」

 彼女が話し終えたのと同時に、その場は激しい爆発に包まれた。その直後、江真が煙越しに目にしたものは、足下から無造作に崩れ落ちる玲玖の姿であった。

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