報い

 玲玖れくに迷いはない。

「許される必要なんかねぇよ。ただ、連中がアタシの下でしか生きられねぇことを示すだけだ」

 それが彼女の答えだ。確かに、人々が彼女の下でしか生きられなければ、彼女はこれからも支配者として生き続けることだろう。幾度となく彼女と口論を繰り広げてきた江真えまも、この時ばかりは何かを認めざるを得ない。それは玲玖の強さだ。

「……玲玖。私は君の考えには賛同しかねる。だが一先ず、目先の目的は同じだ。倒そう――伴造はんぞうを」

 例え違う信念のもとで動いていても、二人が討つべき敵は同じだ。玲玖は深く頷き、そして伴造を睨みつけた。それから彼女は炎を帯びた旋風脚により、標的を徐々に退けていく。無論、これはただの向こう見ずな猛攻ではない。

「江真! アタシが時間を稼ぐ! アンタは炎を溜めることに集中しろ!」

 一方が相手の足止めをしていれば、もう一方はより火力の高い攻撃の準備を整えられる。江真は頷き、両手を上げた。彼女の頭上には、光の粒子のようなものが集まっていく。その光景を前に、伴造は危機を覚える。

「させるものか!」

 咄嗟の判断により、彼は炎の光線を放った。その目の前に躍り出た玲玖は、この一撃を受け止める。そんな彼女の眼前に、伴造の拳が迫る。

「遅い」

 その打撃は、玲玖の掌によって受け止められた。それから間髪入れずに、彼女は相手の手首を捻る。足下を崩された伴造は、倒れながらも炎の弾を連射した。一発、また一発と、彼の攻撃が眼前の標的を貫いていく。それでも玲玖は、攻撃の構えを崩すことはない。立ち上がろうとした伴造の頬に、強烈な回し蹴りがさく裂する。彼が再び地を転がったこの瞬間こそ、玲玖たちにとっての絶好の好機である。

「今だ! 江真!」

 玲玖は叫んだ。江真が強力な光線を放ったのは、その直後のことである。この一撃は伴造に直撃し、その場に大爆発を起こした。路上の至る所で揺れる炎と、辺りを覆い尽くす煙は、その圧倒的な威力を物語っていた。


 ここで伴造は考える。

「……今回は、分が悪い」

 今の彼は満身創痍だ。全身から血を流し、肩で呼吸をしている彼には、たった一人であの二人を倒すことなど到底叶わないだろう。そこで彼は煙に身を隠し、その場から逃げ去った。やがて江真と玲玖の視界が晴れた時、そこに彼の姿はなかった。

「くっ……またしても、仕留められなかった!」

「だが、今日からネオは迫害の対象だ。あのボロボロの体で、奴がどこまで逃げ切れるか……見ものだよ」

「……まあ、奴に限っては、収容されても仕方がないだろうな。ネオだからじゃない……犯罪者だからだ」

 流石の江真も、犯罪者を閉じ込めておくことにだけは賛同していた。彼女が気づけば、その周囲にはケテル教徒や機動隊の遺体が吐いて捨てるほどに転がっている。死屍累々を極めた光景に、彼女は息を呑むばかりだ。一方で、依然として平静を保っている玲玖は、彼女に言う。

「行くぞ、江真。アタシらの力があれば、あんな奴……いつでも仕留められるだろう」

 その言葉に、江真は頷いた。彼女は去り際に、もう一度路上を見渡す。血肉の散った戦場は、彼女の心をより一層痛ませるものだった。



 一方、伴造は重傷を負った体を引きずり、路地裏に辿り着いた。この場所に身を潜めていれば、一先ずは安全だろう――彼はそう考えていた。その淡い期待も、すぐに裏切られることとなる。

「よっ」

 突如、背後から声がした。伴造は生唾を呑み、恐る恐る後方へと振り向く。彼の目に飛び込んできたのは、その手に炎を溜めた泰守やすもりの姿だった。

「嫌だ……死にたくない! ワシは、ワシはぁ……人類を超越した力を持つ男なんだぞ!」

 伴造はそう言ったが、彼の命乞いは何の意味も持たない。泰守が炎の球体を放った直後、伴造の血肉は勢いよく飛び散った。

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