R
Rと参謀
数日後、社長室のような部屋には、三人の人物がいた。頭髪を赤く染めた女がエグゼクティブデスクに足を乗せて座り、その横には眼鏡をかけた男がいる。そして二人の目の前には、封筒を手にした白髪の老人がいる。老人はその封筒を差しだし、それをデスクの上に置く。
「約束のものだ」
老人は言った。赤髪の女は封筒を手に取り、その中身を確認する。
「よし。全額、揃ってるな。来月もアンタのシマを守ってやるよ。じゃあ、帰り道に気をつけな」
この場で支払われたものは、みかじめ料だったようだ。老人は深々と頭を下げ、部屋を後にした。続いて話を切り出すのは、眼鏡をかけた男である。
「
何やらこの男は、赤髪の女に付き従っているらしい。そして二人は、江真のことを認知している。赤髪の女は煙草をくわえ、指先から小さな炎を出した。そして煙草に火をつけた彼女は、眼鏡の男と話をする。
「その打つべき手を考えるのがアンタの仕事だろ、
「手下どもをネオにすれば、彼らは結託して貴方の首を狙うでしょう。しかしこのままでは、彼らは江真によって戦意を喪失させられます。そこで考えたのですが、江真をこちらの番犬にしてしまうのはいかがでしょうか」
「番犬にする? アイツを?」
紛れもなく、江真は正義感の強い女だ。そんな彼女がこの二人に手を貸すことは、あまり考えられないだろう。無論、和治も無理を言ったわけではない。この男にも、彼なりの考えはある。
「私が江真を説得してみます。彼女が今抱えている苦悩につけこめば、こちらのものです。どんな正義を掲げていようと、江真も所詮は人の子ですから」
「それで、アイツの抱える苦悩についてはわかっているのか?」
「正義に生きる者は、悩める者か破滅する者――あるいはその両方を兼ねた者だけです。少なくとも、江真は悩める者ではあるでしょう。先日我々が送り付けた地上げ屋が無事だったのも、彼女に迷いがあったからです」
どうやらあの地上げ屋も、この二人が仕向けたものだったようだ。御剣と呼ばれる女は煙を吐き、微かな笑みを零す。
「正義に生きる者は、悩める者か破滅する者、あるいは両方か。間違いねぇな。己を疑わずして振りかざす正義は、必ず身を滅ぼす。だがこの宇宙の正義は、人間の正義より単純だ。弱肉強食――それ以外に明確な正義はねぇ」
「仰る通りです。江真にもその考えを理解していただけるかは定かではありませんが、説得を試みるには値するでしょう」
「クックック……アタシはアンタの頭脳を買っている。江真という戦力を得れば、アタシの組織もより支配的になるだろう。頼んだぞ、和治」
この女は、和治に絶大な信用を寄せているようだ。
「ええ、お任せください」
そう答えた和治は、指先で眼鏡を少し上げた。
その時である。
「やぁ、
どこからともなく、透き通るような声が響き渡った。直後、二人の目の前には粒子が集まり、そこにジャドの姿が現れた。
「なんの用だ、ジャド」
玲玖は訊ねた。先程指先から火を出していた彼女は、当然彼と面識がある。
「フフ……僕は今回、更木和治に用があるんだ」
そう返したジャドは、和治の方へと目を向ける。和治はすでに、相手の用件を理解している。
「何度も言わせないでください。私はネオにはなりません。力を持つ生き方ではなく、私は『飼われる生き方』を選んでいますから」
「やはり、人間は面白いなぁ。人それぞれ、価値観や人柄に差異があって」
「……返答は伝えました。お帰りください」
彼はあまり、この来客を歓迎していない様子だ。ジャドは肩をすくめ、煙のようにその場から消えた。
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