悪魔の化身
闘志を燃やす
「オヌシの話は聞いている。オヌシとて、教徒まで戦いに巻き込みたくはないだろう」
確かに、江真は多くの人間を争いに巻き込むことを望んでいない。このままでは、彼女は下手に動けない。
「表に出ろ……伴造」
江真の声色には、怒りが籠っていた。
「良いだろう……ワシが決してオヌシには負けないということを、圧倒的な力を以て分からせてやろう」
そう受け答えた伴造は、余裕に満ちた笑みを浮かべていた。
二人は教会を後にし、路上で互いを睨み合う。両者の手には、すでに炎の球体が生み出されている。
「始めようか」
「望むところだ」
「私から仕掛ける!」
さっそく、江真は眼前の宗教家に向かって炎の弾を連射した。伴造は炎の球体で弾を受け止め、それから光線を放つ。灼熱の炎に身を呑まれた江真は、炎をまとった左腕でそれを払う。その瞬間、彼女のすぐ目の前には伴造の拳が迫っていた。
「……!」
咄嗟の判断により、江真は両腕で己の顔面を守った。彼女の腕は、眼前から叩き込まれた拳を受け止めた。それから瞬時に跳躍した彼女は、標的の腹部に飛び蹴りをお見舞いしようとする。その蹴りを軽々交わした伴造は不気味に笑い、江真の鳩尾に肘打ちをした。
「ぐはぁっ……!」
この一撃によって吐血した江真は、地に崩れ落ちる。そんな彼女の目の前には、次の炎の弾が迫っていた。その一撃を転がりながらかわし、江真も炎の弾を連射していく。しかし眼前の老人は、炎を帯びた右手で彼女の攻撃を受け流していく。伴造の自信は、決して驕りなどではない。紛れもなく、彼は強者だ。
この戦況に追い打ちをかけるように、一つの人影が姿を現す。
「楽しそうだな、伴造。アタシも混ぜてくれよ」
――
「二人がかりか。だが、これならどうだ!」
直後、彼女は両手から凄まじい火力の炎を発射した。辺りが煙に包まれる中、彼女は炎を放ち続ける。しかし眼前の二つの人影は、まるで崩れ落ちる気配がない。やがて疲弊した江真が攻撃の手を止めた時、そこには炎の盾で己の身を守っている玲玖たちの姿があった。
「ククク……アタシたちが組めば敵無しだな、伴造」
「オヌシとは、これからも良いビジネスが出来そうだ」
「ああ、アタシたちはネオ――頂点捕食者だからな」
二人は笑っている。その笑みは、紛れもなく江真を嘲っているものだ。
「驕るな!」
激高した江真は、二人に殴りかかろうとする。そんな彼女の拳を掴んだ玲玖は、即座にアームロックを仕掛けた。これはただの体術ではない。玲玖の体からは、灼熱の炎が流れ出ている。この技から抜け出す方法は、ただ一つだ。
「次こそは……必ず……!」
江真は大きな爆発を起こし、隙を生み出した。この瞬間、辺りは再び煙に包まれた。
「見失うな! 伴造!」
「ダメだ……まるで見えない!」
二人の視界は、煙によって覆い隠された。やがて視界が晴れた時、そこにはもう江真の姿はなかった。
「ちっ……逃したか……」
「二対一では勝ち目がないと、理解したようだな」
獲物を逃した玲玖と伴造は、各々の拠点へと戻っていった。
その後、教会に帰ってきた伴造は、教徒たちに新たな教えを吹き込む。
「
ついに、ケテル教は殺人まで正当化するようになったらしい。騒然とする教徒たちを前に、彼はこう続ける。
「見ただろう! あの女が炎を操っていた様を! だが、あの女は、ワシのような解脱者ではない! 奴の炎は紛れもなく、地獄の炎だ!」
教徒たちは、伴造を妄信している。彼らはこの日を境に、江真の命を狙うようになった。
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