ネオ・ピリオド
やばくない奴
弱肉強食
暴力の街
それはある夜のことだった。この時、
「そ、そ、そんなに払えるわけないじゃないですか! ぼったくりですよ! 訴えますよ!」
何やら彼は、法外な支払いを要求されているらしい。その目の前では、メイド服を着た女が含みのある微笑みを浮かべている。その女がふと視線を向けた先の物陰では、黒服に身を包んだ三人の男が待ち構えていた。彼らは男の方へと駆け寄る。その光景を横目に、江真は生唾を呑む。無論、これは彼女の手に負える問題ではない。男は黒服の三人組から暴行を受け、悲鳴を上げ始めた。そんな彼を不憫に思いつつも、江真は忍び足でその場を去った。
数分後、彼女は寂れた公園に辿り着き、携帯電話で通話をしている男を目撃した。
「いやぁミチコちゃん。君に会えるのが楽しみだよ。マッチングアプリで話した時から、君とは気が合いそうだと思っていたんだ」
その時、江真の脳裏にある考えがよぎった。今は空が寝静まっており、この公園は明らかに男女が待ち合わせをするような場所ではない。ましてやひと気のない場所が指定されているということは、何か裏があるだろう。
あの男の身が危ない――江真はそう確信した。
そして彼女の予想通り、公園には柄の悪い二人の男が現れる。そのうちの一方が携帯電話を持った男の胸倉を掴み、そして二人は大声を張り上げる。
「金を出せ! 持ってるだろ!」
「こっちはテメェの個人情報を握ってるんだ! 俺らに従わねぇとどうなるか、わかってんだろうな!」
案の定、男は騙されていた。
「ひ、ひぃ……いくらですか! いくら出せば良いんですか!」
「有り金全部に決まってんだろ! 財布を出せ、財布を!」
「そ……それだけは勘弁してください」
こうなれば、男に選択の余地はない。彼は財布を取り出し、それを眼前の二人組に手渡した。そんな光景を前にしても、江真には手の打ちようがない。やるせない思いを抱えつつ、彼女は握り拳を震わせるばかりだった。
その後、江真は三日月屋という定食屋を訪ねた。それから何杯ものビールを飲み、彼女はため息をつく。弱肉強食の世界を見せつけられた彼女は今、虫の居所が悪いのだろう。江真は少し顔を上げ、店主に声をかける。
「どうして、力を持つべきでない人間ばかりが……力を持っているんだ」
それは彼女の抱える――切実な疑問だった。店主は餃子を作りつつ、質問に答える。
「正しく在ることは、強く在ることよりも難しいからだ。人は大人になるにつれて、社会に適合していく。だけど、社会はなかなか正義に適合しない。だから力を持った人間でさえ、その力を正しいことに活かせないんだ」
それは決して、江真が納得できる答えではなかった。同時に、それは彼女が否定できる答えでもない。そんな腑に落ちない思いを上書きするように、彼女はビールを飲み続けた。
それから店を出た江真の前に、ブロンドヘアーの美少年が現れた。
「君は、自らが強者であることを望むかい?」
それが彼の第一声だった。見知らぬ少年に妙な話題を振られた江真は、半ば困惑している。
「君は……?」
「僕はジャド。僕なら、君に力を与えることが出来るよ。こんな風に、炎を操る力をね」
ジャドと名乗る少年は、自らの掌に炎の球体を生み出した。何やら、彼は普通の少年ではなさそうだ。彼の提案を前に、江真は先程目の当たりにした光景を思い出す。それは、暴力が支配する街で、弱者が虐げられている光景だ。彼女は息を呑み、そして本心を口にする。
「……欲しい。私は、力が欲しい!」
そう訴えた彼女は、その眼差しに強い意志を宿していた。
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