その次の夜、江真えまはSNSで調べものをしていた。携帯電話の画面に映し出されているのは、美女のアイコンをしたアカウントだ。何やらこのアカウントの持ち主は、指定の待ち合わせ場所で出会える男を探しているらしい。無論、江真は美女との出会いを期待しているわけではない。

「これで、反社と接触できる」

 そう考えた彼女は、地図アプリを開く。そして目的地を入力した彼女は、さっそく歩みを進めた。


 江真が辿り着いた場所は、繁華街の路地裏だった。彼女は息を潜め、電柱の影に身を隠す。それからしばらくして、彼女の視線の先には例の美女が現れた。そこに一人の男が現れたのは、その数分後である。

「あなたがユミコさん、ですか? 例の書き込みを見て来ました」

「ふふ……可愛い男ね。それじゃ、さっそく休憩しに行こっか。オススメのラブホがあるの」

「わぁ、ユミコさんみたいな綺麗な方に可愛がってもらえるなんて、光栄ですよ」

 二人のやり取りに耳を澄まし、江真は確信する。これは紛れもなく、反社会勢力の手口だ。彼女は二人を尾けることにした。



 江真が一組の男女を尾行していく末に、その眼前にはラブホテルが飛び込んできた。建物の前には、いかにも屈強そうな三人の男がいる。そして先程の男女がチェックインを済ませてから数分後、男のうちの一人が、残る二人に携帯電話の画面を見せた。三人は一斉に頷き、その場を去ろうとする。


 ここで彼らを逃すわけにはいかない。


 江真は咄嗟に飛び出し、男たちを引き留める。

「今、あの男女のいる部屋の番号を確認していたんじゃないのか?」

 当然、眼前の男たちにはこの質問に答える理由などない。

「あの男女? なんの話だよ、姉ちゃん」

「俺たちはただ、男子会をしようって話をしてたんだ」

「そうだ。第一、どうやって他人のいる部屋の番号を確認するんだよ」

 おおよそ、彼らは簡単に口を割りそうな相手ではない。そこで江真は、携帯電話を持っている男に絞め技を食らわせた。


 自分の身体能力が、明らかに向上している――その事実に気づいた江真は、先日の美少年との会話を思い出した。


 それから彼女は携帯電話を奪い、たった今自分が拘束している男の顔で認証画面を突破する。その瞬間、画面にはあのユミコという美女とのやり取りと思しきチャットの履歴が表示された。

「201号室……これがどういうことか、説明できるか?」

 これは動かぬ証拠だ。もはや男たちに、言い逃れは出来ない。江真は絞め技を解き、両手から炎を放った。その身を焼かれていく三人の標的を前に、江真は己の掌を見つめる。

「凄い……本当に、炎が操れる……」

 何やら彼女は、あの美少年と接触した際に力を授かったようだ。三人の男は睨みを利かせ、一斉に彼女の身に襲い掛かる。しかし江真は襲い来る拳や蹴りを難なくかわし、炎を帯びた拳を三人に叩き込んでいった。肩で呼吸をする彼らを睨みつけ、彼女は問う。

「答えろ。君たちは、誰の差し金だ?」

 組織の末端を始末しても意味はない。江真はそれを理解していた。しかし、相手はそう簡単に口を割るような輩ではない。

「ずらかるぞ!」

「ああ、逃げよう!」

「くそっ……化け物が!」

 情報を吐くこともなく、男たちは一目散に逃げ去っていった。



 ラブホテルのエントランスからユミコが出てきたのは、まさにそんな時だ。一寸の迷いも見せず、江真は彼女の胸倉を掴んで持ち上げる。ユミコが犯行に関わっていることは、火を見るよりも明らかだ。そんな彼女に怒りを帯びた眼差しを向けつつ、江真は言う。

「盗んだ金品を全て置いていけ。私が君の代わりに、あの男に金品を返そう。それとも、今この場で痛い目を見たいか?」

 無論、ユミコに勝ち目はないだろう。

「わ、わかった! 置いていく! 置いていくから!」

 そう答えた彼女は、酷く怯えていた。

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