同胞を背負う者

 江真えまが力を溜めている横で、修也しゅうやは必死に炎の弾を連射した。しかし彼の攻撃は、いずれも通用していない。じりじりと間合いを詰めている泰守やすもりは、依然として無傷だ。そこで江真は、全身全霊を籠めた炎を放つ。路上は凄まじい爆発に呑まれ、周囲には砂煙が舞った。砂利が降り注ぐ中、彼女は目を凝らす。煙の中から浮かび上がってきた強敵の姿は、依然として傷を負っていなかった。

「どうした、そんなものか?」

 そう訊ねた泰守は、余裕綽々とした笑みを浮かべながら手首の関節を鳴らす。その余裕に満ちた顔面を目掛け、修也が光線を発射する。その一撃すらも、泰守には一切通用していない。

「所詮お前らには、俺を倒せない」

 そんな強気な一言を発した彼は、眩い光を放つ業火を放った。とてつもない火炎にその身を焼かれ、江真たちは為す術もなく負傷していく。

「くっ……相変わらず、なんて強さだ……!」

「化け物め……コイツだけは、倒さないと……!」

 凄まじい爆風が、二人を吹き飛ばそうとする。直後、泰守は彼女たちとの距離を一瞬で詰め、空中回転回し蹴りをさく裂させる。この蹴り技によって仰け反った二人には、数瞬の隙が生じた。その隙を突いた泰守は、高火力の光線を発射する。凄まじい轟音と共に、爆炎が燃え広がった。江真と修也は満身創痍の有り様だが、泰守は相変わらず余裕を保っている。彼はまさしく、圧倒的な強者だ。江真たちは震える両脚に力を入れ、なんとか立ち上がる。彼女たちは、すでに虫の息だ。

「ぜぇ……ぜぇ……このままじゃ、殺される!」

「ああ、なんとしても、この場を切り抜けなければならない!」

「しかし、どうすれば……」

 その力量差はまさしく、天と地の差だった。二人の力を束ねてもなお、眼前の強敵には一切の傷を負わせられない。この時、江真と修也は確かな絶望感を噛みしめていた。


 その気になれば、泰守は簡単に二人を葬り去れるだろう。それでも彼には、まだ相手を生かしておく理由がある。

「楽に死にたければ、お前らがどこに向かおうとしていたのかを吐いてもらう。先程の口ぶりから察するに、そこの兄ちゃんはどこかでネオを匿っている。そうだろう? 口を割らなければ、苦しみが続くぞ」

 そう――全てのネオを殺めるには、他のネオの隠れ家を見つけ出さなければならないのだ。無論、そこで素直に応じる修也ではない。

「オレは絶対に、仲間を売らない。アイツらを守る……オレはそう誓ったんだ!」

「そうか。だったら、お前を簡単に殺すわけにはいかないなぁ」

「やってみろ。どんな痛みを以てしても、オレの決意は揺らがない!」

 それは紛れもなく、確固たる覚悟だった。そんな彼の胸倉を掴み上げ、泰守は笑う。直後、修也はアスファルトに叩きつけられた。彼は必死に立ち上がろうとするが、泰守が連射する炎の弾によってそれを阻止されてしまう。

「やめろ! 泰守!」

 声を張り上げた江真は、咄嗟に飛び出した。そんな彼女の額に人差し指を置き、泰守は不敵な笑みを零す。その瞬間、激しい爆発が起き、江真の体は宙に放り出された。それから重力によって地に叩きつけられた彼女は、震える両腕で上体を起こそうとした。彼女の目線の先ではすでに、泰守が炎の球体を溜めている。このまま起き上がれなければ、江真は今度こそ命を落とすことになるだろう。

「やめろ! やめろぉ!」

 修也は叫んだ。彼もまた、即座に立ち上がるための力を残されていない状況だ。もはや彼には、祈ることしか出来ない。そんな彼の視線の先で、江真は歯を食いしばりながら死を覚悟する。

「終わりだ……江真」

 そう言い放った泰守の両手の先には、すでに巨大な球体が出来上がっていた。彼がその力を解き放つや否や、辺りは眩い光に包まれた。

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