決着
やがて煙が収まった時、そこに立っていたのは
「これが……力を持つということか……」
か細い声でそう呟いた江真は、悲哀を噛みしめていた。彼女はもう、後戻りの出来ないところまで来てしまった。その身が返り血で染まっている彼女は、やるせない思いに胸を締め付けられている。
その時、天馬村の入り口から、バイクの走行音が聞こえてきた。
その場に到着したのは、
「ありがとう、明美。来てくれたんだな」
彼女の情緒が乱れる。二人には、話したいことが山ほどあるだろう。
「当たり前だよ! ウチら、友達じゃん!」
そう返した明美は、江真の方へと駆け寄った。しかし当の江真は、底知れぬ罪悪感に苛まれている。
「……私は、人を大勢殺してしまった。私はもう、人間の敵なんだ」
死屍累々とした光景を見れば、彼女の言葉が嘘でないことは明白だろう。それでも明美は、彼女の立たされている状況を理解している。
「し、仕方ないよ! だって……だって、江真は銃を向けられていたんだもん」
確かに、機動隊は江真を殺すつもりだった。あの場で彼女が行動を起こしたのも、無理のない話である。その事実を踏まえてもなお、江真の自責の念が晴れることはない。
「仕方ない……のか? 命が失われることは、仕方がないことなのか? 私には……私には、もう何もわからない……」
奪われるべき命などない――そう信じてきた彼女にとって、この状況は受け入れがたいものだ。そんな彼女を抱き締め、明美は囁く。
「だけど江真は、私利私欲のために戦ったわけじゃない。ウチにはわかるよ……江真は、正義のために戦ったんだって」
相変わらず、この女は江真の良き理解者だ。
「明美……」
「江真はいつも、誰かのために戦ってきた。だけど、江真自身も幸せにならないと、何も意味がないんだよ。少なくとも、ここに一人、アンタの幸せを願っている人間がいるんだよ。だから、江真……そんなに、自分を責めないで」
「ありがとう。君は、本当に優しい友人だ」
感極まった江真は、大粒の涙を零した。そんな彼女の背中をさすり、明美は優しく微笑む。しかし彼女たちにはまだ、やるべきことがある。
江真は抱擁を解き、頼み事をする。
「最後に、一つだけ頼んでも良いか?」
「うん。なんでも言って欲しい。ウチが力になれることがあるのなら、なんだってしたい!」
そう答えた明美は、使命感を帯びた眼差しをしていた。そこで江真は、地に伸びている
「この二人を治療して欲しい。おそらく、今なら間に合うだろう」
かつては敵対していた二人も、今となっては彼女の戦友だ。その上、彼女はこの二人に貸しがあるようなものだ。明美は職業柄、彼女の頼みに応じることが出来る。
「……うん、わかった。こう見えてもウチは研修医だからね!」
意外にも、この女は医療関係者だったのだ。江真は玲玖を、明美は和治を背負い、一軒の仮設住宅に立ち入る。そこは天馬村唯一の治療室であり、様々な医療器具が保管されている部屋でもあった。
真剣な顔つきを見せつつ、明美は呟く。
「酷い負傷だね。ネオがどれくらい頑丈な体を持っているのかはわからないけど、ここから息を吹き返せるかは……怪しいかも知れない」
手術台に横たわる玲玖たちは、見るも無残な有り様だった。その傷は、どんな言葉よりも
「二人は改心したんだ。嗚呼、運命よ。どうか、二人を許して欲しい」
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