強敵
「一時休戦だ、
強敵との戦いを強いられれば、彼女は宿敵とも手を組むらしい。そんな彼女の判断に、
「俺が江真も倒すつもりであることを理解しているのか。殺気でも感じ取ったのか?」
「まあ、そんなところだ。アンタからは、ネオに対する並々ならぬ殺意が滲み出ているからな」
「やれやれ、どうやらこの殺意は、隠し通せるモンじゃないらしいな。良いだろう……かかってこい」
戦闘開始だ。江真と玲玖は一斉に、炎の弾を乱射し始めた。泰守は次々と炎の盾を生み出し、迫りくる攻撃の全てを吸収していく。新たな敵として立ちはだかった彼を前に、江真は憤る。
「Rの正体を知った以上、私は用済みというわけか!」
「当然だ。過ぎた力を持つ者は、危険因子――社会を脅かす爆弾だ。特に、江真――お前は感情で動いている女だ。感情的な者が力を持つこと、それが一番の脅威だ」
「そういう君はどうなんだ! ネオへの執着に取り憑かれ、同胞を根絶しようとしている君は!」
怒り狂った彼女は、咄嗟に眼前の強敵に殴りかかった。彼女の炎を帯びた拳は、相手の掌によって受け止められる。そして江真は手首を捻られ、そのまま泰守の足下に倒れてしまう。
「そこだ!」
この隙を逃さなかった玲玖は、眩い光線を放った。泰守は炎を帯びた右手を突き出し、その光線を軽々と打ち消す。両陣営の力量差は、圧倒的だ。
「怖気づいたか? 御剣玲玖。そして、最上江真。お前らは力を得たバケモンかも知れないが、それでも狩人には勝てない」
まだ本気を出していないのか、泰守は余裕綽々とした笑みを浮かべている。そんな彼を睨みつけ、玲玖は声を張り上げる。
「思い上がるんじゃねぇ! ジャドと契約を結んだのは、アンタだけじゃねぇんだ! 同じネオ同士の戦いで、二対一で勝てると思うな!」
一発、また一発と、彼女は強力な炎の光線を放つ。しかし眼前の男は、炎を帯びた片手だけで光線をいなしていく。彼はじりじりと玲玖のもとに詰め寄り、そして彼女の首を掴んだ。
「終わりだ……玲玖」
このままでは、玲玖の頭が焼き払われることとなるだろう。その光景を前にした江真は咄嗟に飛び出し、泰守の頬に飛び蹴りを食らわせた。その時に生じた余裕――それはまさしく、玲玖にとっての好機だ。彼女は泰守の腹部に、鋭い蹴りを繰り出した。されど、彼女たちの攻撃はまるで通用していない。眼前の強敵を少しだけ退かせ、拘束を解いたのが精いっぱいだ。
「つ……強ぇ……」
そう呟いた玲玖は、思考を巡らせた。今の彼女と江真の力を束ねても、目の前の強者を倒すことは難しいだろう。このまま戦闘を続行すれば、命を失うことになりかねない。無論、彼女には策を長考する余裕がない。この瞬間、彼女の眼前には炎を帯びた拳が迫っていた。
「ぐぁっ……!」
玲玖の顔面に、泰守の右ストレートが炸裂する。その隙に彼の背後を取った江真も、その腹部に肘打ちを受けてしまう。
そして泰守が不敵な笑みを浮かべた直後、その場は大きな爆発に包まれた。
もはや江真と玲玖は、満身創痍の有り様だ。玲玖は握り拳を震わせつつ、江真に指示をする。
「撤退するぞ、江真! このままじゃ、アンタもアタシも殺される!」
彼女は力に溺れるだけでなく、退くべき時を理解している女でもある。江真は深く頷き、その場から立ち上がった。幸い、今の爆発により、辺りは煙に包まれている。その煙に身を隠しつつ、彼女たちはその場から逃げ去った。
やがて煙が収まった時、そこには泰守一人だけが残されていた。
「逃げたか。まあ、それも賢明な判断だな」
そう呟いた彼は辺りを見回し、それから深いため息をつく。
江真、玲玖、そして泰守――三人は同じネオでありながら、別々の理念のもとで生きている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます