親友
それから数分後、治療室の外からエンジン音が聞こえてきた。
「迎えに来たぞ、江真」
修也は訊ねる。
「江真。そこの女は、ネオか?」
彼の視線は、
「……どうなんだ、明美」
この時、江真は少し身構えていた。彼女の知る限り、明美は人間だ。しかしその性格から考えれば、この女がジャドと契約を交わした可能性は捨てきれない。明美は深いため息をつき、問いに答える。
「正直、ネオになろうと思ったよ。江真との友情を諦めるためなら、国だって敵に回す。ウチはそういう覚悟を決めていたもの。だけど……」
「だけど……なんだ?」
「それはきっと、江真の望まないことだと思ったの。だからウチは、人間として生きるよ。それにウチには、人間としての使命があるから」
その答えに、江真は胸を撫で下ろした。彼女の想いはよく理解されていた。大切な友人を国家の標的にするのは、彼女の望むところではない。それでも江真には、一つ引っ掛かることがある。
「使命?」
この期に及んで、明美は何かしらの行動を起こすつもりなのだろう。江真はそれが気がかりだった。使命感を宿した眼差しで、明美は己の使命を語る。
「ネオが声をあげても、世論は傾かない。だからウチは人間として、声を上げ続けるの。人間とネオは、きっと分かり合えるって」
「……それが私の望んだ正義だよ、明美。結局、私には叶えられなかったけど……君に全てを託すよ。これでお別れだな、明美」
「ううん。世間がネオを許す日がくれば、ウチらはまた一緒になれるよ」
彼女はまだ、友情を諦めてはいなかった。ネオに市民権を与え、かつてあった生活を取り戻す――それが彼女の理念であった。
「ふっ……そうかも知れないな。いつかきっと、私たちはまた一緒になれる」
そう答えた江真の目にも、希望が灯り始めた。
修也は言う。
「そろそろ行くぞ、江真。新天馬村を築き上げるんだ」
今後、江真は新天馬村で暮らすことになる。そしてこの場には、もう一人のネオがいる。彼女は
「そこの男もネオだ。一緒に連れていってやってくれないか?」
「ああ、わかった」
「ありがとう。彼は私の戦友なんだ」
これで和治も、新天馬村で生きていけるようになった。続いて部屋を見渡した修也の目には、寝台に横たわる
「あの傷を見るに、玲玖はオレたちのために戦ってくれたみたいだな」
「玲玖も、結局は私たちの同胞だったということだ」
「……玲玖も連れていこう。オレたちのために戦った英雄として、新天馬村にアイツの墓石を立てる」
この時になって、彼はようやく玲玖を同胞と認めた。
これで全ての準備が整った。
「遅すぎる和解になってしまったな。さあ、私の準備は万端だ」
「じゃあ、車に乗ってくれ」
いよいよ、新天馬村へと出発することとなった。車の助手席に座る前に、江真は明美に手を差し伸べる。
「明美。私たちは、ずっと親友だ」
差し出された手を握り、明美は目に涙を浮かべながら返答する。
「うん、ずっと親友だよ」
車の後部座席には、玲玖の遺体と和治が座っている。これ以上、修也たちを待たせるわけにもいかないだろう。江真は助手席に乗り、シートベルトを装着する。修也はエンジンをかけ、車を発進させた。やがて車体が見えなくなったのを確認した明美は、その場で泣き崩れる。
「バカ……江真のバカ!」
その声色には、確かな悲哀が籠っていた。
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